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生活に潤いを

大型連休の狭間の平日。
朝、いつものように妻を会社まで送迎し、その後、星乃珈琲でモーニングをとることにした。
開店と同時に、その日一人目の客として入店。
店内は準備が完全ではないのか、自動ドアがまだロックされているような状況だった。

それでも席に座ると、よく見かける落ち着いた雰囲気の女性店員がすぐにやってきて、お冷を運んできてくれた。わたしはそのままオーダーをする。

星乃ブレンドのLサイズ(1.5倍)と厚切りトースト&ゆで卵で600円。
朝から少し贅沢な気もするが、小遣いの範囲内であるし、たまには贅沢な朝も必要なので、迷わず注文(正直に言えば、コーヒーをLサイズにするかは少し迷った)。
感じのよい店員さんは、いつも通りスマートにオーダーを取り、その場を立ち去った。

しばらくしてモーニングが運ばれてきた。

「ご注文がお決まりになりましたら、ボタンでお知らせください……」

(え?)と、わたしの心が言う。

注文は済ませているし、実際に今モーニングを運んできてくださっているじゃないですか。

「あ、失礼しました。ごゆっくりどうぞ~」

少し照れた表情で踵を返した店員さん。
オーダーを取る仕事は何万回としているだろうから、脳にいちいち確認しなくてもその台詞は自然と口から出るのだろう。
今回はたまたま文言とタイミングを間違ってしまったけれど、わたしはなぜか、人のこういうところにキュンとしてしまう。

それからしばし空想。

この店員さんにも小さなお子さんがいたりして、朝からバタバタしていてちょっと疲れていたのかもしれない。
もしくは、昨夜は遅くまで家の用事を済ませていたり、あるいは、なんらかのストレスを抱えていたり、旅行へ行って帰って来たばかりでまだ仕事モードに切り替わっていないのかな……などと、本当に余計なお世話だが、勝手に妄想してしまったわたし。


誰もがみんな生活をしている。

時にはバカみたいに笑ったり、時には悲しみに打ちひしがれたり、他人は「なんだ、そんなことか?」っていう程度のことにいちいち苦しんだり。
仕事や子育て、介護、闘病、恋愛、家族問題、その他諸々。
生きてりゃ、いろいろある。
消したい過去、恥ずかしいことなんて夢よりも遥かに多い。

そんな中での、オーダーを取る仕事。
わたしにとっても、そんな中でのモーニングタイム。

できれば、すべてのことが万事ストレスなく進めばいいけれど、そう簡単にはいかない。
ならば……。

生活のなかで楽しむ工夫をすること。

それが、飛びぬけて楽しいことや嬉しいことじゃなくてもいい。
自分が心地よいと思える程度のことでいい。
そういう潤いを、生活のなかにいかに落とし込めるか、これはとても大切なことだと思う。


……気がつくと、コーヒーに手をつけずに、ぼーっと考え込んでしまっていた。
おっと、せっかくのコーヒーが勿体ない。
右手でそっとコーヒーカップを持ち、口元にやる。

店内には客が増えてきている。
賑やかな話し声が聞こえてくる。
読書をする人を見て、なんだか嬉しくなる。

コーヒーが美味しかった。

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