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Elisaの制作メモ:"ピエタ"制作プロセス



はじめに

ついこないだ"受胎告知"を作ったよね。キリスト教美術ってあらためていいなぁ、っておもったよ。そのあとにふと思いついて、"ピエタ"を作ってみよう、っておもったの。すごく美しいモチーフだし、作るもの難しそうだから。簡単にぽいぽい出せるものばっかりつくっててもつまらないじゃない?

"ピエタ"ってなに?

知らない人はほとんどいないと思うけど、念のため。

Wikipediaに書いてあるそのまんまなんだけど「十字架から降ろされたイエスを聖母マリアが抱きかかえている」というモチーフだよ。いちばん有名なのはたぶんミケランジェロの「サン・ピエトロのピエタ」という彫刻。名前は知らなくても見たことある人はいっぱいいるとおもう。

"ピエタ"はイタリア語で慈悲や慈愛を意味する言葉なんだけど、キリスト教美術ではピエタ=イエスを抱えるマリア像というイメージがかなり強いね。

なぜこれを作ろうとおもったか?

単純にモチーフとして美しいからなんだけれども、もうちょっとあって、

  • 複数の人物が関与する複雑な構成

  • 死者を抱える、という強い感情的な表現

  • きっとみんな知ってる

という技術的、環境的な理由もあってピエタを選んだよ。

作画意図

さて、今回の"ピエタ"は"受胎告知"みたいに変にひねらず、そのまんまでいくよ。人物を女の子にするのは私なりのひねりだけどね。

  • 聖母マリアを模した女の子が、イエスを模した女の子を膝の上に抱えている

  • 聖母マリアは天使の姿をしている。本来聖母は人間だが、ここでは天使を模し、よりその慈愛の姿を強調したい

  • 膝に抱かれる女の子は完全な無表情でなく、わずかであっても、何かしらの表情をつけたい。イエスの死という悲劇的な状況ではあるけれど、これはイエスの復活という次のシーンにつながっていく。だから、必ずしも悲劇的な状況だけではない

  • 一方でマリアはわが子の死に直面しており、悲嘆に暮れている。その感情的な対比がほしい

物語は対比や均衡の破れによって生まれるものだとワタシは思うよ。たとえそれが一枚の絵であっても。きれいな女性がこっちみてにっこり笑ってる絵は、たしかにきれいだけどそれだけだよね。

制作プロセス

さて、能書きはここまでにして、さっそく制作プロセスをみてみよう。今回は"受胎告知"ほど複雑な工程はやってないよ。

  1. Nijijourneyでベースになる絵を生成

  2. ベース絵をもとにVaryで複数の絵を用意

  3. GIMPで必要なパーツを合成

  4. lama-cleanerでいらない要素を削除

  5. Stable DiffusionでUpscale

ちなみに、工程5のSDでのUpscaleについては目的も含めて"受胎告知"のときにあれこれ書いたから、そっちを参考にしてね。

じゃあさっそくやってみよー。

①Nijijourneyでベースになる絵を生成

このプロンプトを使って生成。

pop illustration, semi realistic illustration, wash painting, extremely beautiful two school girls, one girl is sitting on the ground and wearing red school uniform and long blue shawl and carrying another girl under her arms, her expression is grief and compassion, another girl is dead and laying on her partner's knees and wearing white school uniform with soulless face, pieta, looking away, intricate bob hair, white and pink hair, many pierces, angel halo, angel wing boring, mono color background, --ar 4:5 --fast --style raw --niji 6

あれこれ調整して、なんとか左下の絵に到達。"受胎告知"のときみたいに合成してさらにNijijourneyで生成、をしないといけないかとおもったけれども、かなり意図に近い絵になったよ。

ここから発展させるために、左下の絵をVaryにかけるよ。

②ベース絵をもとにVaryで複数の絵を用意

Vary(Strong)
Vary(Subtle)

ワタシはVaryするとき、StrongとSubtleを数パターン用意して、そこから良いものを選択していく、という方法をとっているよ。たまにRemixするときもあるけど、大崩れしちゃうことも多いからあんまりやらない。

さて、ここまできたところで、一番のベースになる絵を選ぶよ。今回は作画意図にかなり近いところまで行っている、Vary(Strong)の左下の絵を一番のベースにすることにしたよ。なぜかというと、

  • (最終的にSDでちょうせいするにしても)マリアの表情が一番良い

  • イエスを模した女の子の生気のない感じがよく出ている

  • 構図が直線的でなく、動きがある

でも、ここから修正しないとおかしなところもたくさんあるから、次の工程で修正していくよ。

③GIMPで必要なパーツを合成

まずベース絵から直すべき箇所を特定していこう。

ここで示したように、大きくは4か所、修正したい箇所があるよ。3のおかしい手は後で消すとして、1, 2, 4をほかの絵から持ってくることにする。

Varyで作った絵からそれぞれのパーツを持ってきて合成するよ。合成した後はこんな感じ。

それでも、〇で囲んだ箇所はまだ修正する必要があって、これはlama-cleanerできれいにする。

④lama-cleanerでいらない要素を削除

こんな感じ。合成した箇所の縁の処理とか、まだあまいところがあるけれど、これでほぼ当初の作画意図にかなり近いところまできているから、あとはStable Diffusionで調整していくことにする。

⑤Stable DiffusionでUpscale

まず1回目のUpscale。512x640を2xにUpscaleするから、ここでの仕上がりサイズは1024x1280になるよ。

こんな感じで3種類のモデル(何かは秘密)、複数のDenoising StrengthでUpscaleして、良いところを組み合わせて最終像に近づけていくよ。

ベースになる絵はこれなんだけれど、〇で囲んだ箇所を調整したい。Denoising Strengthが0.2の絵だから、一部ディティールが甘いところもある。

  • 横たわっている女の子の表情は要修正。目は閉じているべき

  • 横たわっている女の子の髪の毛の中に赤い謎の染みがあるから修正

  • 翼のディティールが甘い

  • 天使の輪のディティールも調整したい

  • 背景は筆のタッチを強くして雨が降っているように見せたい

調整した結果、こうなるよ。モデルにもよるとおもうけど、Upscaleの際にDenoising Strengthを大きくするとディティールが細かくなっていく傾向があるから、元の絵の作画テンションから大きく乖離しないように注意しながら合成していくと良いね。

では、この絵をもとに2回目のUpscale。1024x1280を2xにするから、仕上がりサイズは2048x2560になるよ。

ここから大きく直すところはあまりないんだけど、次の箇所を調整してる。

  • 横たわる女の子の目をもう少し閉じさせたい

  • マリアの表情をもうちょっと変化させたい

  • 髪の毛のディティールをもう少し細かくしたい

ということでこんな感じに。あんまり大きく変わってないけど、細かいところの調整に気づいたかな?

さて、最後の調整Upscale。2048x2560を1.2xして、最終サイズを2456x3072にするよ。

これでも十分なんだけど、最後に一押し。もうちょっと全体的にコントラストがあった方が良いのと、彩度をもう少し上げたい。でも、横たわっている女の子は死者を模しているから、あまり肌色が明るくならない方が良い。
という感じにコントラストと彩度を調整してElisaロゴを入れて完成。

はい、こんな感じ。
横たわっている女の子の表情、ほんのちょっぴり笑っているようで、悲嘆に暮れているマリアの表情との対比が良い。

さいごに

ここまでやるのにほぼ一日がかりだから、正直いってこのやり方はおすすめしないよ。明確な作画意図をもってやるなら別だけどね。偶然できあがる絵のおもしろさ、というのがAIイラストのたのしいところでもあるとおもってるし。

ただ、AIイラストであってもこれくらい手をかけて完成にもっていくこともできるし、こういうことをやっている人がいる、ということも知ってほしいな、とおもってるよ。決してポン出し(生成して加工せずにそのまま)やってる人ばかりではないし、明確な作画意図をもって生成AIを道具として使っている人だっている。

むやみやたらと敵視するようなものでもないとおもうし、道具として上手にたのしく使っていけばいいんじゃないの?とワタシはおもってるよ。

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