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interview ULYSSES OWENS Jr:僕がやるべきは"ユニークな声を持った人々"を助けること(1,0000字)

名ドラマーのユリシス・オーウェンスJrが新たなグループ《Generation Y》を結成し、『A New Beat』を発表した。音楽的にはビバップ/ハードバップを基調にしたオーセンティックなジャズの現代版なのだが、僕はこのアルバムを聴いてものすごくテンションが上がった。すごく興奮した。

その理由はこのバンドのメンバーにある。クレジットを見るとそれなりのジャズ好きでもおそらく聞いたことがないだろう名前がずらっと並ぶ。それは当然で、多くのメンバーがまだ音源をリリースしていない、もしくは録音に参加したこともない20代の若手ばかりだ。

しかし、この若手たちが実に素晴らしいのだ。とにかく演奏がフレッシュで、どこを切ってもエネルギッシュで意欲的な演奏が続く。ビバップやハードバップが生まれた時代、ジャズ・ミュージシャンたちの多くは若者だったし、彼らが演奏するジャズにはまるでロックやパンク(今だとラップか)のような熱量があった。パワフルな若いエネルギーがジャズの魅力でもあった。ここでの若手たちの演奏を聴いていると僕はそんな勢いを感じたのだ。とにかくこのアルバムはどこまでも瑞々しく、早熟な洗練も粗削りな躍動もすべての瞬間が美しい。

今回、今、最も心躍る“ジャズ”が聴けるこのプロジェクトについてユリシス・オーウェンス本人に語ってもらった。なぜほとんど無名の若者ばかりを集めたプロジェクトを始めたのか。そこにはどんな意図があるのか。来日公演を前にぜひ読んでほしい。

取材・編集:柳樂光隆 | 通訳:染谷和美 | 協力:コットンクラブ


◉『A New Beat』のコンセプト

――新作についてコンセプトを教えていただけますか?

僕は日本で長年、ニュー・センチュリー・ジャズ・クインテットというバンドをやっていた。大林武司中村泰士ベニー・ベナックティム・グリーンをフィーチャーしたもので、とても上手くいっていた。でも、全員が忙しくなりすぎてしまったんだ(笑)。僕はこのバンドのスピリットを持ち続けたいと思っていた。

それから何年も経ったころ、僕はジュリアード音楽院の生徒たちのことを考えるようになった。僕は7年間、ジュリアード音楽院で教えていて、彼らが成長し、成熟できるような状況が必要だと思うようになったんだ。つまり、ジェネレーションYは、アート・ブレイキーがしてきたように、僕が年長者として、若いミュージシャンたちが進化し、成長するのをサポートするのがコンセプトなんだ。僕らはツアーをして、ずっと一緒にバンドとして演奏していた。パンデミックの直前の2018年、2019年ぐらいからかな。パンデミックが終わってツアーが増え始めた頃、僕はそろそろアルバムを作る必要があると思った。この5年間に、僕が世界中でやってきたことをアルバムにしたかったんだ。

僕はアルバムを作るまでに、2つの異なるバンドで活動していた。

最初のバンドは、ドリュー・アンダーソンアレクサ・タランティーノルーサー・アリソンフィリップ・ノリス

もうひとつのバンドには、サラ・ハナハンアンソニー・ハーヴィータイラー・ブルックルーサー・アリソンフィリップ・ノリスリョウマ・タケナガトーマス・ミラバックがいた。

この二つのバンドと共にこの5年の間、僕が世界中でやってきたことをアルバムにしたかったんだ。そして、僕らが作るなら偉大なミュージシャンたちにスポットを当てたトリビュート作品にしたいと思った。ジョージ・ケイブルズロイ・ハーグローヴ、それからジャッキー・マクリーンのオリジナル曲もある。僕らのオーディエンスが聴きたい曲や、僕らが演奏したい曲を集めただけとも言えるね、たいていのアルバムは、レコーディングしてからツアーをするけど、僕たちはすでにツアーをしていて、いい化学反応を起こしていた。すでにあったものを記録したんだ。

◉Generation Yの若手たちのこと

――今回は学生も含まれたものすごく若いバンドです。でも、演奏のクオリティが尋常じゃなく高いです。こんなグループがどのように実現できたのでしょうか?

僕と若手ミュージシャンには共通のテーマがある。ひとつは音楽に対して真剣なこと。真面目に毎日練習していて、自分の楽器や演奏の技術で一番になりたいと思っている人たちだ。僕にとっては、年齢よりも練習における規律や一貫性、プレイに対する努力の度合いが重要なんだよね。
 
そして、もうひとつはこの手の音楽を夢中になって聴いていること。2024年にこの手の音楽を若者が聴くことはポピュラーとは言えないからね。僕が言っている”この手の音楽”というのは、アート・ブレイキーホレス・シルヴァー、それにジャッキー・マクリーンといった重鎮たちの音楽のことだ。(コンテンポラリーなジャズに比べると)この手の音楽を熱心に聴いている若者はミュージシャンの中でも少ないからね。

僕の場合、同じ興味を持つ才能あるミュージシャンを見つけることにしている。例えば、タケシ(大林武司)に出会った時、彼の演奏を聴いて演奏に聞き覚えがあるなと想って「誰に影響を受けたの?」と聞いたら、マルグリュー・ミラーの名前が出た。オーマイガー!マルグリュー・ミラーは僕の第二の父のようなものだよ。

ルーサー・アリソンに出会った時もそうだ。彼は、マルグリュー・ミラージェイムス・ウィリアムスドナルド・ブラウンが大好きだった。ドナルド・ブラウンは僕の恩師だよ。

ジュリアードでタイラー・ブルックに出会った時も同じ。彼はテネシー出身で、ドナルド・ブラウンマルグリュー・ミラーの名前を挙げた。ここに3人のピアニストがいて、1人はまったく違う地域から来た日本人で、他の2人はアメリカ南部出身だ。それなのに、3人とも同じような影響を受けている。そういったことが僕の注意を引いて、彼らをバンドに迎え入れたいと思わせるんだ。

サックス奏者のティム・グリーンも同じだ。彼はメリーランド州ボルチモア出身で、ケニー・ギャレットチャーリー・パーカージャッキー・マクリーンジャスティン・ロビンソンアントニオ・ハートが大好きだ。

アレクサ・タランティーノも、僕と好きなミュージシャンが同じだった。日本出身の寺久保エレナチャーリー・パーカーが好きだ。

だから、僕にとっては、年齢よりも練習における規律や一貫性、プレイに対する努力の度合いが重要だ。そういったことが僕の注意を引いて、彼らをバンドに迎え入れたいと思わせるんだ。

◉ユリシスがGeneration Yを作った目的

――あなたは先生でもありますし、若いマスターみたいな印象があります。シーンに出始めた若いプレイヤーたちとあなたの違いはどんな部分だと思いますか?

まず、僕は間違いなくマスターじゃないよ。僕は41歳だけど、まだ理解できていないんだ。2歳からドラムを叩いていて、今年でドラムを始めて40年になる。今もドラムを勉強していて、まだ新しく耳にすることがあるよ。

――なるほど。

で、君の質問に答えるとすると、僕と若いミュージシャンと異なる点は、例えば、彼らが真剣で、すごく才能があって、しかも、自分が何になりたいかわかっていたとしても、まだサポートが必要だということだと思うよ。彼らには世界を見る機会が必要なんだ。
 
先週末、フロリダのオーランドとデルレイビーチで演奏したんだけど、そこでの(寺久保)エレナがぴったりな例だ。彼女は何年も日本で演奏しているよね。彼女のようにミュージシャンの多くは、さまざまな文脈で演奏している。でも、彼らの多くは「ジャズのオーディエンスに向けたアメリカ・ツアー」をした経験があまりないんだ。2夜連続のコンサートでも、最初と2回目では、2回目の方が素晴らしかったね。なぜなら相乗効果を得るためには、観客の前でコンスタントにプレイすることが必要だから。それはこの手の音楽の重要な部分だね。
 
音楽を学ぶ方法は「聴くこと」「教わること」、そして「演奏すること」だ。上達するにはそれが必要だ。僕は自分のチームやマネージメント・チーム、エージェントと一緒に彼らのために機会を作り、彼らを成長させる手助けをしている。クリスチャン・マクブライドが僕にしてくれたのと同じことだよ。彼は僕とクリスチャン・サンズを雇ったんだけど、僕たちにこう演奏しろとかは言わなかった。クリスチャン・マクブライドが僕に「こうしなさい」と言ったのは、片手で数えられるほどで、他には何も言わなかった。なぜなら、彼は僕のプレイが好きだったから。

クリスチャン・マクブライドがしてくれたことは、僕の活動を世界に広める機会を作ってくれたこと。それによって僕は自信を深め、不安や恐れを手放して、音楽的に自分が何者であるかを確信するようになった。あの時、世界に発信する方法を学ぶことができたから、今では自分のバンドを持ち、他の人たちを助けることはできている。若いミュージシャンは素晴らしいけれど、素晴らしいパフォーマーとして才能を磨くためにはまだサポートが必要なんだ。

◉若手をサポートし、チャンスを与えるジャズの伝統

――さきほどアート・ブレイキーの名前が出ました。アメリカのジャズにおいては、常に若手と演奏して、若手を育ててきたレジェンドが沢山います。そこに使命感を持っていた人もいると思います。そういった伝統はジャズにおいて重要なものなのでしょうか?

そうだね。古くから続く伝統の一環だと思う。この音楽はその伝統の上で成り立っているしね。有名なジャズ・ミュージシャンと彼らを指導した人の名前を挙げてみようか。アート・ブレイキーは、たしかビリー・エクスタインのバンドにいたよね。エルヴィン・ジョーンズジョン・コルトレーンのバンド。この前、チック・ウェブと彼のバンドについて勉強したけど、そこにはマリオ・バウサエラ・フィッツジェラルドがいた。

アート・ブレイキーが指導した多くのミュージシャンが、とても偉大なバンドリーダーになったよね。ウィントン・マルサリスブランフォード・マルサリスジェフリー・キーザーマルグリュー・ミラービル・ピアースジャヴォン・ジャクソン、名前を挙げ出したら10分はかかるよ。そして、現在も生きている世界のトップ・ジャズ・ミュージシャンのほとんどは、ブレイキーベティ・カーターのバンドのどちらかと過去に何らかの形で繋がりがある。つまり、伝統だよね。僕がやっていることは特別なことではなく、僕がやる以前からすでに存在していたんだ。さっきも言ったように、音楽を聴いて学んで、外に出て、音楽を演奏しようとすると、若いミュージシャンを雇う人が少なからずいるんだ。

※アート・ブレイキー『Album of the Year』はウィントン・マルサリス参加
※ベティ・カーター『Droppin Things』にはジェリ・アレン、グレッグ・ハッチンソン参加

クリスチャン・マクブライドにも同じことが起こったよね。彼は偉大なレイ・ブラウンの指導を長年受けてきて、今では彼のキャリアの多くとレイ・ブラウンがやっていたことは非常に似ている。だから、ジャズ・シーンでは特に長年継続されている伝統だね。僕がやっていることは、ユニークではあるけど、オリジナルではないんだ。

でも、この音楽の伝統であるスウィングを背景にした音楽をやっているという事実が、僕の音楽を少しユニークなものにしていると思うよ。現在のジャズ・ミュージシャンの多くは、スウィングをやらないから。みんな、スウィングを古臭いものだったり、古風なものとして捉えていると思う。でも、僕は、スウィングこそがミュージシャンシップの基礎だと思ってる。そして、それを非常に高いレベルでやりたがっている若いミュージシャンを見つけることが、僕にとって重要なことなんだ。伝統は、音楽を学ぶだけでなく、その音楽を守り後世に残す方法でもある。20年後に、僕のバンドにいるタイラー・ブロックフィリップ・ノリスが自分自身のバンドをやる際には、「そうだ、僕はユリシスからチャンスをもらったんだよな」とか言ってたりするかもね。これは生命の循環であり、これからも続いていくものなんだよ。

◉ジュリアード音楽院のこと

――さっき「今、スウィングのような音楽に取り組む若者は多くない」という話をされてましたが、一方であなたの新作を聴いていても優れたミュージシャンが沢山出ていると思うんですが。

ジュリアードには最高の人材が集まるんだ。他にも才能豊かなプレイヤーを集めている学校はあるけど、スウィングに関して言えば、ジュリアード音楽院が一番だと思う。アメリカでスウィングや伝統的な演奏に強い学校は、ジュリアード音楽院と、過去にジュリアードで教えていたロドニー・ウィテカーが指導しているミシガン州立大学の2校。あとは、ショーン・ジョーンズが指導しているボルチモアのピーボディ音楽院も素晴らしい。

でも、ジュリアードは誰もが入りたいと思っている学校なんだ。みんなオーディションを受けなければならない。僕らはその中から誰が良いプレイをするか見極めるんだ。サラ・ハナハンアンソニー・ハーヴェイも僕らのオーディションで選ばれているんだよね。ちなみにそれが僕が彼らにいち早く出会えた理由だね。

――なるほど。

ジェネレーションYのプロジェクトをやるようになってからはたくさんの若いミュージシャンとオンラインで出会うようになった。主にインスタグラム経由だね。僕にプレイを聴いてもらいたくて、毎週メッセージを送ってくるドラマーもいるんだよね。

ピアノのタイラー・ブロックは今、20歳なんだけど、誰かがギグに出られなくなると、いつも「この人はどう?」と他のプレイヤーを教えてくれたりする。だから、あなたの言う通り、この手の音楽を演奏する学生は増えているとは思う。とはいえ、スウィングをやりたがっている学生は多くはないから。サラ・ハナハンアンソニー・ハーヴェイタイラー・ブロックの名前が出たけど、ごく一部の非常にニッチな集団の中のエリートではあるのかなぁ。

◉ユニークな声を持った若手をサポートすること

――彼らはすでにキャラクターも感じられるし、個性的でもあります。若いころに個性を獲得できた理由って何だと思いますか?

僕がレッスンでよく教えることがある。それは「誰もが自分自身のユニークさを持っている」ということだ。もし僕たち4人(ユリシス、僕、編集者、通訳)が台本を作って、同じセリフを言ったとしても、4人それぞれ異なっているってこと。僕には2歳半になる息子がいるんだけど、彼のクラスに行って8人の子供たちに同じセリフを言わせたとする。すると、8人とも異なっている。1歳のクラスでも同じことが起こるだろうね。ユニークなサウンドを持っているから特別だと考えがちだけど、そもそも僕たちはみんなそれぞれユニークなサウンドを持っているんだ。特別なのは、技術や情報と結びついたユニークなサウンドなんだよ。

――ふむふむ

つまり僕が先生としてやっているのは、その情報のプレゼンテーションで彼らを手助けすること。例えば、ベニー・ベナックは今でこそ、とても有名だけど、ニュー・センチュリー・ジャズ・クインテットに加入したとき、ベニーは18歳だった。僕たちは彼をベイビー・ベニーと呼んでいたよ。18歳のベニーを僕らはあちこち連れまわしたんだ。なぜならベニーには才能があったけど、経験がなかった。海外で歌ったことがなかったし、セットの組み方や観客への見せ方を知らなかった。ニュー・センチュリーに参加して4、5年経った頃、彼は準備が整って、自分のギグをやるようになった。今の彼は最高だし、すごく成長したよね。

僕がやるべきは「ユニークな声を持った人々を助けること」だと思うんだ。彼らのユニークな声は僕じゃなくて、神や創造主の仕業なんだから。僕がやっているのは「これがギグで、これがセットリストだ。こういうのがツアーなんだよ」「これがバンドで、これがコミュニティだよ」って感じで、やり方を見せることで、コミュニティに貢献することなんだ。
 
クリスチャン・マクブライドと一緒に仕事をすることになったとき、僕はすでにたくさんのバンドに参加していたし、最初のグラミーも受賞していたんだ。でも、彼は僕と一緒に演奏することで、僕を高めてくれたし、バンドをリードする方法を教えてくれた。クリスチャン・マクブライドがすべてのやり方を教えてくれたんだ。その後、彼のバンドを離れて、僕はニュー・センチュリーやジェネレーションY、自分のビッグバンドを始めることができた。何かを上達させる最善の方法は、高いレベルでやっている人を見ることだと思うんだ。だから、僕は若いミュージシャンたちのためにそうしているつもり。繰り返すけど、勘違いしてはいけないのは、僕らが彼らに才能を与えたわけではないということ。僕は彼らの才能に可視性と露出を提供しているだけなんだよ。

◉ロイ・ハーグローヴへの思い

――アルバムに「Soulful」というロイ・ハーグローヴの曲が収録されています。このアルバムの中でロイ・ハーグローヴの曲をやっているのは、何かしら意味があってやっているのかなと思ったんですが、どうですか?

僕は自分の人生やキャリアにおいて後悔はあまりない。でも、ロイ・ハーグローヴとは一緒に演奏したかった。実際、彼のマネージャーから、彼のバンドで演奏しないかと声をかけてもらって、ニューヨークで少し演奏する機会があったんだ。彼はいつもウェスト・ヴィレッジのスモールズに出入りしていたからね。ロイのバンドは僕が一緒に演奏したいと思ったバンドのひとつだったんだ。僕がフロリダのジャクソンヴィルで育ったころは、ジャズを演奏しに来るバンドがいなかったんだ。だから、レコードを聴くのが唯一の方法で、最初に聴いたのはロイのバンドだった。それ以来、僕はずっと彼の大ファンなんだ。彼のバンドのライブをよく観に行ったし、彼の雰囲気、彼がやっていることを見て、ニュー・センチュリーやジェネレーションYといったバンドで、自分も真似したいと思ったくらいだよ。

この曲を取り上げたのはルーサーが定期的にジェネレーションYに参加しはじめた頃だ。僕たちはツアー中にルーサーやサラ・ハナハンと一緒に車の中で曲の話をしていた。その時、ルーサーが「「Soulful」って曲を聴いたことある?」って言ったんだ。僕は聴いたことがなかったんだけど、今やビッグ・セレブリティとなった若きジョナサン・バティストが演奏していた。僕が「この曲は最高だね!」と言ったら、彼らが「じゃ、今夜演奏していい?」と言ったから、僕は「いいよ!」って答えたんだ。

これこそ、クリスチャン・マクブライドと僕らがよくやっていたことだった。ツアーの移動中に、車の中で「これ聴いたことある?」と会話しながら曲を流して「気に入ったなら、今夜演奏しようぜ!」って。その日の夜から僕らはロイの曲を演奏し始めた。ロイを愛し、彼の演奏に感謝していることを伝えるためにね。彼がいなくて寂しいよ。でも、彼のレガシーは生きている。だから、この曲を演奏するたびに彼のことを思い出すし、観客にも彼のことを想ってほしい。ロイは新しい世代に多くのものを与えてくれたから。だから、僕なりのささやかな方法で彼の精神を生かす方法は、彼の曲を演奏し、レコードにフィーチャーすることだと思ったんだ。

◉ユリシスが運営するNPO<Don't Miss A Beat>

――ここまであなたにはプレイヤーとしての話や教育者としての話を聞かせてもらいました。最後にあなたがディレクターとして運営している<Don't Miss A Beat>について聞かせてください。

<Don't Miss A Beat>の活動は今年で16年目になる。僕と家族で運営している団体で、フロリダ州ジャクソンビル犯罪率の高さが理由で始めたんだ。多くの若者が犯罪を犯し、若者に対する犯罪も多かった。だから、どうすれば彼らのために解決策を提供できるかを考えたんだ。僕にとって、アートが自分の人生を変え、前向きな力を与えてくれた。だから、若者たちに同じことをしたかったんだ。構想してから7、8年経って、音楽、ダンス、演劇を教えるサマーキャンプを始めた。でも、楽器を習うにはインストラクターが必要だし、誰かが楽器を買う必要があるし、スペースを借りる必要もあった。だから、新しい参加者を集めるのがとても大変だった。そこで僕らは方向転換してミュージカル・シアターをやることにしたんだ。それはジャクソンビルには劇場があったからね。そこでなら多くの子供たちが歌えるし、踊れるし、演技もできる。彼らは何も持ってこなくていいし、僕たちは彼らをトレーニングすればいい。観客に人気の演目が選ぶことだってできるし、いい考えだった。

今では僕らは多くの賞を受賞している。毎年「サマーキャンプ」「アフタースクール」「春のミュージカル・キャバレー」と3つのプログラムを開催しているんだけど、上手くいっているよ。僕らは何千もの子供たちを教えることができた。そして、子供たちを良い学校に入れ、大学へ進学させ、彼らの人生や家族の人生を変える手助けもすることができた。
 
<Don't Miss A Beat>は僕が人生をかけて行う仕事だね。一方でジェネレーションYは、演奏家としての活動なんだ。<Don't Miss A Beat>は、人間として、アフリカ系アメリカ人としての自分たち特有な活動だと思う。なぜなら、僕たちは長年にわたって社会から、特にこの国から権利を剥奪されてきた存在だから。黒人の子供たちの多くは、他の人種の人たちと同じようなリソースを持っていないために、遅れをとっているんだ。子供たちが才能を持っていたとして、僕らがその才能を育て、訓練することができれば、その才能が僕たちに課せられた社会経済的な困難な問題を乗り越えたり、乗り越える手助けになると思ってる。

僕は今はフロリダのジャクソンビルに住んでいて、ニューヨークへ通勤し、ジャクソンビルから世界へ移動している。その生活をとても気に入っているよ。僕は残りの人生をかけてずっとこの仕事を続けていくつもりだ。そして僕の願いは、才能ある人材を輩出し続け、成長し続け、何千、何百万人もの子供たちを助け、最終的には世界中に広めていくこと。しかし、核となるのは、子供たちが才能を発揮し、才能を鍛錬し、そのエネルギーを集中させることができる機会を作ることだ。そうしたら、そのスキルを生かして、彼らが進みたい方向へ向かうことができると思っている。

――すばらしい。僕はジャズミュージシャンの取材をたくさんやっていますが、イギリスでは若者の支援と文化の話をよく聞きますが、アメリカではあまり聞いたことがなかったので、すごく興味があったんです。

アメリカ南東部でもユニークだと言えるだろうね。スクール・オブ・ジ・アーツやマグネット・スクールのように、それを実践している学校はたくさんあるけど、僕たちが目指しているような卓越したレベルでそれを実践しているコミュニティ・プログラムはあまりないね。だから、難しいんだ。労力と資金、一貫性が必要だけど、幸運なことに毎年素晴らしい子供たちに恵まれ、地域社会からも多くの支援をもらっている。だから僕はいつも感謝しているんだ。

https://www.cottonclubjapan.co.jp/jp/sp/artists/ulysses-owens-jr/

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