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【2024年大統領選】民主・共和両党の“激戦州獲得戦略”

 2024年11月に実施されるアメリカ大統領選挙に向けて、各党の候補者が続々と出馬を表明しています。民主党からはバイデン大統領、共和党からはトランプ前大統領が参戦します。
 この記事では、民主党・共和党それぞれの指名を得た大統領候補が戦う本選で、両党がどのように激戦州を獲得する戦略を描くかについて見通すことを試みます。

2024年へ 激戦州の状況

民主226人、共和218人で優位な情勢

 まず、この記事全体を通して留意する必要があるのは、現時点で本選の激戦州を確定させることは困難であるという点です。候補者の性質や運動量、投票日までの1年半で起こる政治的イベントによって、激戦になる州は変動の余地があります。

 最終的には、世論調査の結果や予備選挙の投票総数を参考に、本選で激戦になる州を予測することになります。そのため、この記事では過去の結果や人口動態から現時点で接戦になると予測される州に焦点を当てます。

 現時点では、全米50州に割り当てられた538人の選挙人のうち、民主党が226人、共和党が219人で優勢になっていて、残る93人を巡って激しい選挙戦を展開するとみています。

 現時点において、激戦州は
  ・ウィスコンシン州(10人)
  ・ミシガン州(15人)
  ・ペンシルベニア州(19人)
  ・ネバダ州(6人)
  ・アリゾナ州(11人)
  ・ジョージア州(16人)
  ・ノースカロライナ州(16人)
の7州になると予測しています。ここからは各州について、民主・共和両党の戦略を考察する前に特徴を分析していきます。

ラストベルト3州

 ウィスコンシン州、ミシガン州、ペンシルベニア州の3州は、ラストベルトに位置し、2016年の大統領選挙で共和党のトランプ氏が勝利したことで、選挙戦略上の注目度が高まりました。
 ラストベルトでは、白人の非大卒有権者(特に男性)が民主党から共和党に移動する動きが2010年代前半から顕著に見られていました。2016年は、世論調査が学歴に関係した有権者の動向を見逃したため、一般的に「番狂わせ」と言われる結果になったとされます。
 2018年以降は、全州レベルの選挙でほぼすべて民主党が勝利しています。また、ラストベルトにも接戦の濃淡はあり、ミシガン州が民主党寄りの投票行動に復帰する一方で、ウィスコンシン州は引き続き両党が接戦を演じています。

ネバダ州・アリゾナ州

 ネバダ州は歴史的に見ても接戦の傾向を示していましたが、2010年代後半からは特に激しい選挙戦が展開されています。ラスベガス近郊のブルーカラー労働者(ヒスパニック系)が民主党から共和党に移動していることが背景の1つとされます。
 2022年の中間選挙では、上院議席を民主党現職が守ったものの、知事選では共和党新人が勝利しました。僅かな票の動きで結果が変わり得る州で、2024年も激戦が展開される見通しです。

 アリゾナ州は、伝統的に共和党支持が強い州でしたが、2020年の大統領選挙を民主党のバイデン氏が制しました。南部諸州では、先端企業の進出や都市化、北部からの移住に伴って大卒・リベラル系の有権者が増加し、全体として共和党から民主党支持にシフトする動きが見られます。
 さらにアリゾナ州では、隣接する民主党の牙城・カリフォルニア州からの人口流入、共和党内でトランプ氏と激しく敵対したマケイン元上院議員の地元だった点が影響し、特にトランプ氏から離れる動きが急速に進んでいます。2022年の中間選挙では、上院・知事ともに民主党が制し、反トランプ感情の悪化が鮮明になりました。

ジョージア州・ノースカロライナ州

 ジョージア州とノースカロライナ州も、共和党から民主党にシフトしている州です。都市化の進展や、州都近郊で黒人有権者が増加していることを背景に、民主党が勢力を伸ばしています。

 2州のうち、この動きはジョージア州でより顕著になっています。ジョージア州は、2018年の知事選挙で民主・共和両党が接戦となり、2020年の大統領選と上院議員選をそれぞれ民主党が制しました。2022年の上院も民主党が議席を維持しています。
 急速な民主党化の動きの背景には、都市化のほかに、州民主党による黒人票掘り起しの運動や、トランプ氏による選挙不正を巡る圧力があると考えられています。

 ノースカロライナ州は、2008年に民主党のオバマ元大統領が勝利しましたが、その後は大統領選挙で共和党が勝利しています。また、2022年中間選挙でも共和党が勝利しました。
 ジョージア州と同様に都市化と黒人有権者の増加を背景に、民主党化の動きが進んでいますが、その動きは2010年代後半から停滞しています。ジョージア州よりも都市化が緩やかであること、有色人種の割合が少ないことなどが理由と考えられていて、農村部が共和党支持の色を濃くしていることで都市部の民主党化が打ち消されています。
 いずれは民主党が優勢になると考えられていますが、現状その動きは停滞していて、これまで挙げた激戦州の中では最も共和党に有利だと考えています。

他の州の状況

 上記7州の他にも、接戦の可能性がある州はあります。民主党寄りに分類したニューハンプシャー州は、近年の選挙で接戦が伝えられる局面もありましたが、結果的には民主党が大差で勝利しています。
 人口が少ない州で、その人口統計学的な動きについては、明らかになっていない部分も大きいですが、民主党優位とする見方が大勢を占めるようになっています。

 また、共和党優位のテキサス州も、将来的には激戦州に移行することが予測されています。都市化の進展、ヒスパニック系有権者の増加などが背景ですが、農村で共和党が勢力を強めていることや、南部に住むヒスパニック系有権者の保守化も同時に進んでいて、激戦州への移行時期は「近い将来」となりそうです。

民主党の戦略

戦略① ラストベルト3州で勝利

 民主党は、若年層の選挙参入や多様化する人口動態を背景に、南部で攻勢をかけています。南部を獲得することで、民主党の戦略はより幅広く設定することができるようになりますが、民主党にとって最も基本的な戦略は「ラストベルト3州の獲得」です。

 次に示すように、民主党は優勢になっている226人に加え、ラストベルト3州を獲得すると、勝利に必要な270人に達します。

 アリゾナ州、ジョージア州では共和党と互角に戦える見通しですが、民主党が勝利を重ねてきたラストベルト3州を守るのが基本戦略になるでしょう。
 2020年は、バイデン大統領が3州すべてで民主党が勝利しました。ミシガン州では民主党が先行する可能性が高く、焦点はウィスコンシン州とペンシルベニア州の結果です。

戦略②  ラストベルト2州+ネバダ州+アリゾナ州

 ラストベルト3州のうち、ウィスコンシン州は他の2州と比較して都市化の進展が遅いことなどを背景に、民主党は厳しい戦いを迫られています。

 仮にウィスコンシン州で敗北しても、西部のネバダ州とアリゾナ州を獲得すれば、270人に到達することが可能です。

 アリゾナ州は、2020年大統領選結果を巡るトランプ氏の「不正選挙」論の震源地でもあり、トランプ氏への抵抗感が特に強い州です。
 ネバダ州は、人口動態が民主党に不利ですが、ヒスパニック系有権者が示す共和党への傾斜は、ウィスコンシン州の白人非大卒有権者の傾斜に比べると緩やかです。

 2州が民主党にとってウィスコンシン州の「代替」となる方向性は十分に考えられます。これは、民主党にとって戦略の柔軟性を示すと同時に、共和党にとっては多正面作戦を強いられることにもなります。

 また、さらにジョージア州を獲得できれば、民主党はペンシルベニア州で敗北しても274人を獲得できます。

 このシミュレーション(戦略②)には大きな意義があります。仮に、西部カリフォルニア州~東部ノースカロライナ州にかけて広がる「サンベルト」(アメリカ本土の南部に広がる新興工業地帯)の激戦州を、民主党が獲得した場合、接戦のペンシルベニア州やウィスコンシン州を含めない戦略が可能になります。

戦略③ ジョージア州とノースカロライナ州で勝利

 民主党にとっては「勝てる激戦州」の1つであるペンシルベニア州では、2020年や2022年も民主党が勝利しています。ただし、2020年、2022年ともに最後まで接戦が続き、民主党にとっては陥落の危険性を常にはらんだ州です。
 そこで、民主党はペンシルベニア州の「代替」として、ジョージア州とノースカロライナ州で勝利する戦略を描くことができます。次に示すように、この2州で勝利すれば、仮にペンシルベニア州で敗北しても270人に到達することができます。

 ただし、この戦略はあまり現実的ではありません。現状、民主党が勝利の実績を重ねてきたペンシルベニア州より、共和党が僅差ではあるものの勝利してきたノースカロライナ州のほうが、民主党にとっては勝ちにくい州です。

 現実的ではない一方、ノースカロライナ州の示す潜在的な可能性という点では、仮に民主党が勝てる激戦州に移行した場合、ラストベルトだけでなくアリゾナ州、ネバダ州への戦略的な依存を下げられることになり、重要なシミュレーションといえます。

 このように民主党は、南部が人口動態を背景として民主党側に傾く中で、様々な戦略を考えることができます。それでは、共和党はどのような戦略を描くことができるのか検討します。

共和党の戦略

ウィスコンシン州での勝利が絶対条件

 民主党の戦略①は、ラストベルト3州を全て獲得するというものでした。つまり、これは裏返すと共和党が勝利するためには「ラストベルトのうち少なくとも1州を獲得する必要がある」ことになります。
 さらに、ミシガン州が民主党優位の州に復帰しつつあることを踏まえると、事実上ウィスコンシン州かペンシルベニア州の獲得が絶対条件です。

 ペンシルベニア州が2018年以降の選挙では、僅差で民主党候補を支持し続けていることを踏まえると、共和党にとってより獲得しやすいのはウィスコンシン州です。
 一方、これは必要条件に過ぎません。仮に、ウィスコンシン州とペンシルベニア州を獲得しても、ジョージア州、アリゾナ州、ネバダ州を落とすと270人には届きません(ノースカロライナ州は共和党、ミシガン州は民主党が勝利することを前提としています)。

 共和党は、ミシガン州を獲得するハードルが高い以上、サンベルトの激戦州も獲得する必要があります。

 これが共和党にとって最も難しい点で、民主党は「ラストベルトに注力すれば勝てる」のに対し、共和党は「ラストベルトとサンベルトでの勝利を両立する必要」があります。
 地理的にも大きく離れるため、選挙活動のハードルが物理的に上がるだけでなく、人口動態や産業構造が異なる両地域での選挙活動は政治的にもより難しくなります。

 それでは、共和党はどのような勝利戦略が考えられるのでしょうか。

残る4州をどう取るのか

 ノースカロライナ州、ウィスコンシン州で共和党、ミシガン州で民主党が勝利したと仮定した場合、獲得した選挙人の数と残る州の状況は、次のようになります。

 残る4州は、ペンシルベニア州、ネバダ州、アリゾナ州、ジョージア州で、共和党は25人の選挙人を獲得すれば勝利できます。共和党はこのうちの少なくとも2州で勝利する必要があります。

 ジョージア州は強い民主党シフトが続き、アリゾナ州も民主党シフトが続いています。ペンシルベニア州は民主・共和両党が綱引きを続け、ネバダ州は唯一共和党シフトを続けています。

 ジョージア州は人口動態上、年々共和党にとっては厳しい選挙になっています。アリゾナ州は国境地帯のため移民問題が重要になること、ネバダ州は人口動態が優位であることから、共和党が適切に争点を設定し、穏健・中道層の引き寄せを達成できれば、勝利への道は見えてきます。

 民主党の戦略と比較すると、共和党の勝利戦略の難度は高いですが、適切な争点設定と穏健・中道層からの支持を得られる候補選出が鍵となります。

2024年大統領選挙へ 何が勝敗を分けるか

無党派/穏健層の重要性

 2024年の大統領選挙は、民主党からバイデン大統領が出馬する見通しとなっていますが、共和党の候補は激しい予備選の後に指名されます。

 ここまで両党の戦略や激戦州の情勢を分析してきましたが、勝敗を分ける大きな要素は「態度を決めていない無党派/穏健層にアプローチすること」です。党派的分極化が進む中、民主・共和両党の支持層は選挙においてますます強く結束しています。

 分極化の時代で選挙の勝敗を決するのは、党派の間に残った僅かな無党派/穏健層の行動です。各激戦州で生活に身近な争点に絞ってアプローチすることが必要で、予備選を勝ち抜く上で用いた主張も場合によっては封印することが求められます。

 次期大統領選の候補者には、勝敗を分ける無党派/穏健層への求心力が絶対条件になります。激戦州によって無党派層にリーチする上で重要な争点が変わるため、州に応じた戦略を立て、それらを矛盾なく政策パッケージ・イメージ化することが求められます。

接戦5州の結果

 大統領選挙全体の勝敗を分けるのは、ウィスコンシン州、ペンシルベニア州、アリゾナ州、ネバダ州、ジョージア州の5州です。

 これらの州では、重視される争点や求められる政策の方向性が異なるものの、共和・民主両党が拮抗し、なおかつ指名候補や選挙時の政治状況によって勝敗が変わる余地が非常に大きい点が共通しています。

 共和党がリードする争点は経済・移民、民主党がリードするのは中絶・気候変動が中心ですが、州やリーチ対象とする有権者の性別、収入、学歴の違いによって、各争点の重要性は変動します。
 また、候補によっても訴求力が強い争点、そうでない争点が変わるため、この先は選挙戦が進行し状況が固まってからの分析が必要です。

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