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毅さ「英語のそこのところ」第124回


【前書き】

 今回、投稿するエッセイは7年前の2016年12月22日に水戸市の「文化問屋みかど商会」のファクシミリ配信誌に掲載されたものです。時節にそぐわない内容はご容赦ください。
 25日はクリスマス。神のひとり子の生誕日ですので、ちょっと思い出話的なものをお贈りします。無料です。(著者)

拙著「英語の国の兵衛門」のkindle版を出版しました。

 2008年に株式会社メディア・ポートより上梓され、その後同社の解散により入手不可能になり、みなさんにはご迷惑をおかけしておりましたが(一時は、古本が2万3万ぐらいで取引されていたようで。いやはや、私には一銭も入りませんが_| ̄|○)、kindle という形で復活させることが出来ました。
これを機にぜひお手に取ってみてください。

映画や小説の台詞を英語にして英語力を鍛える「ESM Practice 実践英語・英会話力トレーニングドリル13」発売中!

 English Sentence Maker 実践英語・英会話力養成テキスト(全10巻)で、英文法を網羅しましたので、「ESM Practice 実践英語・英会話力トレーニングドリル7」以降では、様々なコンテンツの名言、名台詞を英語するより実践的なトレーニングをやっています。
 この「ドリル13」では「12」に続いて、地震に遭遇した際に困っているNative English Speakerを助ける言い回しとUKの高級紙ガーディアンの記事を題材に英文を作っていきます。

あ、でも、地下鉄は動いてるってさ。
地下鉄は詳しい? 
ううん。乗ったことないよ。
新宿のホテルに帰りたいんだ。
憑いてるね、おれも新宿方面なんだ。一緒に行こうぜ。
イスタンブールがずっとマンチェスターシティとチェルシーを主催することになっていたが、一週間にわたる交渉ののち、ポルトがチャンピョンズリーグの決勝のための会場として確認されている。(from the Guardian the 13th of May, 2021)
などは、英語でどう言うのでしょうか? 
このテキストを使えば、きっちり身に付きます。お試しください。

大好評! Kindle で一日500ページビュー 「English Sentence Maker」シリーズ

 English Sentence Maker は、あなたの感情や意見、思っていることを伝えるためにはどの時制や助動詞、文法事項を選ぶべきかがわかる実践英語・英会話力養成テキストです。

 著者の主宰する英会話スクール「英語・直観力」の企業向けテキストから、契約企業様向けの問題文などを差し替え、一般向けに手直ししました。

 7年間で100名以上のビジネスピープルを単独での海外出張や海外赴任ができるスキルを持った国際ビジネスピープルにした実績があります。

 ぜひ、この実績あるテキストを完全マスターしていただき、世界を相手にビックディールを成し遂げ、人生を愉しんでください。このテキストはその扉を開くカギになります。

 実践英語・英会話力養成テキストEnglish Sentence Maker は、3つの特色を持っています。

 ひとつ目は、能動的な学習だということ。
 English Sentence Maker は書き込み式のテキストです。各Lesson ごとの解説を読み、そのあとに掲載されている日本文をご自身のノートもしくはkindle のノートブックなどに英語にして書き入れてください。その際に、知らない単語は調べたりせずに、日本語のまま英語の文の位置においてください。そうすることで、知っている単語、知らない単語を区別し、身に着けるべき単語を浮かび上がらせることが出来ます。

 ふたつ目は、どの文法事項を使うかの判断基準を身に着けられるということ。
 小・中・高校と長い間英語を学ぶために、多くに人々は英語の現在形、過去形などの文法事項を知っています。しかし、残念ながら、その文法事項をどういう場合に使えばよいかという判断基準を身に着けていません。

 たとえば、ここ何ヶ月かフットボールに夢中になっているということを伝えたい場合に使うべき時制は、現在形でしょうか? それとも現在進行形でしょうか? 迷われると思います。
 この知ってはいるけれども使い方に迷ってしまう文法事項を使う判断基準を各Lesson ごとの解説でくわしく説明しています。それを理解することで、英語を使う際に十全にあなたの感情や意見、思っていることを伝えることが出来るようになります。

 みっつ目は、英語を英語で考えることが出来るようになるということ。
 English Sentence Maker は日本語を英語にしていくことで、英語を習得していくテキストです。しかも、どういうときに、どういうことを言いたいときに、どの文法事項を使えばよいかという判断基準が出来ていくために、日本語の文字面を英語に移していくのではなく、日本語を読んでその内容をイメージして、そのイメージを英語にするというスキルを身に着けることが出来ます。頭の中のイメージから英語を作ることが出来るということは、そこに日本語は介在しません。つまり、英語を英語で考えることが出来るようになるのです。

具体的には、

私は彼が来るだろうことを知っていた。

という日本語を英語にする際には、日本語の文字面を英語に移していくと、

I knew that he will come.

と、しがちです。「知っていた」なのでknew、「来るだろう」なのでwill comeというわけです。
 しかし、よく考えてください。「彼が来るだろう」というのは、「私が知っていた」過去の時点のことです。であれば、「彼が来るだろう」と書いてあっても、過去から見た未来のwould を使って、would come としなければなりません。日本語をその字面のまま英語にしてはいけないのです。しかし、日本語を読んでその内容をイメージして、そのイメージを、判断基準をもって英語にすることが出来れば、問題はなくなります。頭の中に時の流れのイメージがあるために、

I knew that he would come.

という英文が難なく作れるようになります。 英文作成力や速読力を付けたいと思っておられる方ぜひ、手に取ってみてください。必ず、英語・英会話が出来るようになります。

☆「English Sentence Maker 実践英語・英会話力養成テキスト」および「ESM Practice 実践英語・英会話力トレーニングドリル」で使っている英文はすべて、Native English Speakerと協同で製作したものです。安心して、Native English Speakerの自然な英語を知り、習得してください。

【本文】

 出社してきた山本が席についた途端に電話が鳴った。周囲では山本のスタッフの日本人やNative English Speakerたちが立ち働いている。英会話スクール、午後の早い時間は営業やレッスンの準備で忙しい時間なのだ。
 給湯室から走って出てこようとするスタッフの里恵を目で制すと山本は受話器を手に取った。電話は最近、山本が新人研修をしているバイト生の大門からだった。
「あ、そう。受かったの。よかったねぇ」
 40になるというのに山本の声は軽い。大学生の大門に対しても対等な感じで話す。へたすると山本がやや下ではないかと思われることもあった。
「それで、ああ、なるほどね。わかったよ。いや、仕方ないでしょう。もともとそっちの道に進みたかったわけだし。がんばんなよ」
 山本はそう伝えると事務的なことを確認して電話を切った。
「かどちゃん、どうしたんですか?」
 里恵が山本に訊いた。大門はかどちゃんと呼ばれている。
「やめるってさ。大学院の心理学科に受かったんだって」
「ええ、そんなぁ。もうちょっとで現場に出せる段階なのに」
 里恵が大きな声を出す。
「それってひどくないですか? カウンセラーになりたいって言うから、山さんの時間を割いて研修してあげたのに」
「まあ、そういうな」
 里恵と山本の会話を聞きつけて、ケンジが「え、なになに?」と口を挿んでくる。
「やばいっしょ。それ。時間も労力も費用もかかってるんしょ?」
「あと、募集の時の費用も」
「まぁね」
 募集の時の費用というのは、バイトの広告を出した時の費用のことだ。安い費用ではない。何百万単位だ。
「頭来るなぁ」
 あったま、と里恵が言葉の最初をためて言う。
「絶対、得るものを得たと思って逃げたんですよ」
「大したもの得てないさ」
「山さん、腹が立たないんですか?」
 里恵が言った。山本が研修のためにずいぶん無理をしていたのを知っていたからだ。いっぱいいっぱいの業務に加えての研修だったために、就業前や後に時間を作ってやっていたことだった。
「おれなら、おれの時間と努力を返せって叫んじゃう」
 ケンジが尻馬に乗って言う。
「そういうなよ。彼にも彼なりの事情があるだろうしさ」
「……人がいいんですねぇ」
「……おとなですねぇ」
 まえがケンジで、あとが里恵のセリフだ。

 山本は苦笑した。
 山本は自分が人がいいわけでも大人でもないことを知っている。バカにされれば激高することもあるし、贔屓のサッカーチームが負けると一日機嫌が悪いということもある。なので、心が寛いというわけではないのだ。ならどうして腹を立てていないかというと、理由は単純でただ自分がやりたいということをやっていたに過ぎないからだった。
 そういう考えでいると、研修をさせてもらった時点で山本は報酬を受け取っていることになる。その上、その人が能力をつければそれはボーナスだし、実際に研修生が一人前になって会社の戦力になれば二回目のボーナスだ。今回は二回目のボーナスがなくなっただけのことだった。
 前向き、と言えばそう言えるかもしれないが、そんなに御大層なものではない。ただの我侭なのだと、山本は考えていた。ただ、そういう我侭を褒めてくれる人もいる。
 PCに向かい、ことの顛末を報告書にまとめながら、山本はふと学生時代のゼミでの一コマを思い出していた。

「それは、うん、いいね。うん」
 マオカラーのシャツを着た中村教授は口髭をしごくと強く二度うなずいた。
 山本が自分がやりたいことしか身が入らないといった時のことだ。
「そういう我侭さは大切だよ。大事にしなさい」
「でも、それでいいんでしょうか?」
「なぜ?」
「やりたくなくても、やる人のほうが自分をコントロールできて、大人な気がします」
「そういう考え方もある。でも、『非難されてもいい』『損してもいい』から、自分のやりたいことをやるというのは、大切だよ。自分を弱い立場における、それに耐えらえれるということだからね」
「はぁ」
 自分が良くないなと思っていることを褒められるというのは山本としてはぴんと来ないことだ。曖昧にしか答えようがない。
「君は気づいてないようだけど、そういうのは誰もが持てるわけじゃないし、いつも持てるわけじゃない毅(つよ)さだよ。大事にしなさい」
「あ、はい。ありがとうございます」
 山本は頭を下げて礼を言う。よくわからないが、礼を言うべき場面であることは判る。
「ただ、我侭を通せることが君の出世に繋がるかどうは判らないけど」
「いや、出世はしたいです。幸せな家庭を築きます」
 教授が無慈悲に首を振ると、周りのゼミ生たちがいっせいに笑い声を上げた。

 確かに出世には繋がらないなと思いながら、山本は社長への報告書を送信する。研修の失敗で、叱責されるのは間違いない。会社の時間と費用と労力を無駄にしたと誹られるだろう。
 だが、それも自分の撒いた種だ。自分で刈り取るしかない。
 山本の想いがそこにいたった時、山本は、ああ、こういうところを教授は褒めてくれていたのかと今さらながらに気がづいた。
 もう少し早く判ってれば。と、自分の頭の鈍さに古傷が痛みだす。
 以前山本が進学塾で進路指導をしていた時のことだった。そうあれは、年末のちょうど今頃のことだ。

「いえ、この子はA校を受験させます。B校は遠いですから」
「安逹さん、確かにA校はこの学区の名門です。でも、それはもう昔の話で教育の中身はひどいんです。実際、進学実績も悪い」
 山本はA校とB校の進学実績の数字を安達に見せる。A校が毎年東大に1名の合格を出していないのに対して、B校はコンスタントに毎年10名前後の合格者を出している。
「これは、A校の先生の指導レベルがだいぶ低いということです。入ってきた子をつぶしてる」
 その数字を見て同席している安達の娘、友里が目を輝かせた。同レベルの生徒が入学して3年でこれだけ差がつくのだ。母もB校への進学へ心が傾くに違いない。
「そんなことは関係ありません。うちはA校に行かせます」
「安達さん、本人だってB校を目指して頑張って来たんです。2学期の成績もオール5なんですよ。B校も受かります」
「でも、A校より確率は低いんでしょう? 万が一B校を落ちて私立にでも行かれたらとんでもないわ」
「それ……」
 山本は口を噤んだ。親の本音がそれでは、これ以上説得のしようがない。
「山さん……」
 黙っていた友里が山本に話しかける。
「ん?」
 山本は友里に目を向けた。友里が笑っているとも泣いているとも言える目をして、急いで作った半笑いを顔に押し上げる。
「いいよ。あたし、A校で。A校で頑張ればいいんでしょ。潰されたりしないよ、あたし」
「……」
 山本は心の中で唇をかんでいた。

 あの時、「我侭になれ」「我侭をとおせ」と言えなかったのは、おれの限界だった。我侭をとおすことの本当の大切さが判っていなかったのだ。今頃になって判るとは。
 まぁ、極楽トンボの能天気なおれがそんな真剣なこと考えても仕方ないわな。
 と、新着メールのポップアップがディスプレイに立ち上がる。
「お、早速来たな。即レスだねぇ」
 山本は社長から来たメールを読んで立ち上がった。社長室に来るように書いてある。
「ちょっくら叱られてくるわ。給料、減らされちゃうなぁ~」
 能天気に山本がスタッフに言うと、
「おれたちにおごる分は、もらってください」
「責任取ってください」
 と、半畳が飛ぶ。
「うん、ただ働きにならないように頑張るわ」
 山本は両掌を開いてひらひらさせながら社長室に向かう。トンボのつもりらしい。

 あいつ、どうしてるかな? 
 社長に叱責された後、山本はあの時の友里の半笑い・半泣きの顔を思い出していた。

 極楽トンボでも、後悔することはある。時おり思い出す友里のことは山本のなかで今でもひっかかり続ける棘になっている。

 普段は、Give & Take に厳しいNative English Speakerたちですが、突如として「やりたいからやる」と自分が損する行動をとることがあります。たとえば、突然、新宿のホームレスの人たちにマックを買って行ったり、新潟の地震のさいに支援物資を送りたいから手伝ってくれなんて頼んできたりする。
 そういうのを見るたびに、こいつらは毅いなぁと感心します。これも「自分の中の正しさ」から来るものなんだろうなと、ちょっと羨ましかったりして。日本語の時は「自分の外に正しさ」を持って、英語の時は「自分のうちに正しさ」を持ってと言うのが、私の持論ですが、こういうNative English Speakerの「自分のうちの正しさ」は見習う方がいいのかもしれません。

 もうすぐクリスマス。聖なる夜に「やりたいことをやる」という我侭をとおしてみるのもいいかもしれませんね。意外に神のひとり子が祝福してくれたりして。
 さて、私は書きたい原稿を書き上げたことだし、さらにやりたいことをしに街に出ますか。
 え? さらにやりたいことはなにかって? もちろん、呑むことです。非難されて、呆れられてもいきますよ。今日は新橋あたりに出没しようかなっと。
(初出 水戸みかど商会ファクシミリ配信誌 2016年12月22日)

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