大田栄作

エッセイを基本に

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最近の記事

記名された青

 厨二病の匂いがする。  ちょうだいよ、水でいいからさ。練れた柔らかい笑顔でさっき買った200円近くする無駄に良さげな水を君が強請った時、僕はもう疲れ果てていて、よくそんなに元気な表情筋を持っているね、と死ぬ手前の顔で返したと思う。冷房をつけているのに毎度の如く暑いこの部屋で情事を重ねることが何度あっただろうか。いい加減に冷房の設定温度を28度から下げることを覚えてもいいだろうに、頑なに熱気が充満したラーメン屋のような部屋でマイ・ブラッディ・ヴァレンタインを流している汗ばん

    • この世界をぶっ壊して汚部屋を創造する

       汚部屋。この言葉はいつ頃から使われるようになったのだろう。昔ならゴミ屋敷のレッテルを貼られていたであろう汚い部屋を、なんとなくコミカルに、けれどもその負のイメージは損なうことのないように作り出された概念なのだろうか。  世の汚部屋の程度はさまざまで、自称汚部屋の人からちょっとこれはどうにもなりませんねという人まで、沢山の汚部屋がある。Twitterでそんなタグが流行ったこともあったようにも記憶している。これはつまり、自らの「汚部屋」を全世界に解き放つことは、選択的に汚部屋

      • Pure Japanese、それは、もう、ンッヴっ

        フジオカが舞う、フジオカが闘う、フジオカが跳ねる、フジオカが悶絶……  空前絶後の戦闘エアロビクス映画、「Pure Japanese」を久しぶりに見たと思う。あれは確か2025年のことだから今よりか少しだけ前の話で、日本人俳優のでーん・フジオカがプロデュースする映画があるとか無いとか言われて、半狂乱になりながら全裸でブルーレイを鑑賞した。2020年代の前半に起こったアレのせいで、映画はかつてのように予算をかけられなくなったから、この映画にかかった予算は435円だったと言われ

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        • 『よそおい』巻頭言

           かつて製作した同人誌、『よそおい』の巻頭言が出て来たのでこちらにアップします。    追いかけてくる。  他者が。  世間が。  私が̶。  私たちは装うことから逃れられなくなった。これは服装や儀礼だけの問題ではない。Instagramに顕著な視覚的S N S (これにはもちろん、TwitterやLINEも含まれるし、S N Sそのものが視覚的であるとも言えるかもしれない)の隆盛により、私たちの多くは「映え」ることを強烈に求められ、そのために装いを強化する必要性に駆られ

        記名された青

          みんな誰かのことを忘れてしまうね

           一体いつから春だと言うのだろう。寒の戻りというにはいささかぬるく、しかし冬というには暖かい日々が続いている。気がつけばもう3月も末ごろで、九州では開花宣言なんかも行われているようだ。第一、開花宣言だとか前線だとかいって持て囃される花は桜ぐらいで、それはもう流石としか言いようがない。そうか、今年もそんな季節が来ましたか。    去年の花の頃といえば、入院が始まったくらいで、世の中に絶望していた時期でもある。あの頃きっと1年後にこうして文を紡いでいる自分など想像もできなかった

          みんな誰かのことを忘れてしまうね