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「タスキ彼方」を読んで

この作者さんの「タスキメシ」シリーズは以前に読んでいました。陸上(長距離)とゴハンとを合わせた、シリアスなんだけど軽やかな小説という印象でした。

この作品も「タスキ」が付くのでてっきりそのシリーズかと思いましたが、全然違いましたね。

いまでこそ箱根駅伝と言えば日本の大学陸上長距離部門の超花形コンテンツですけど、基本的に「関東学連」の主催、つまりは関東地方の大学のみの大会です。今年は第100回という区切りでしたから、単純に考えれば100年前から始まっていることになりますが、実際の第1回は1920年。つまり、途中に途切れているわけです。

途切れた理由、そしてそれが再開できた理由がこの小説のテーマです。戦時下の息苦しい話ばかりだと読んでいてもツラいと考えたのか、この作品では「昔は何度も優勝したかつての伝統校」である「日東大学」を通して物語が紡がれます。かつての伝統校も今はシードを落とし、さらには予選会も敗退するという状況。そんな中で奮闘する新米監督、本番にすこぶる弱いエース、超大学級の実力を持ちながら駅伝には興味がないと公言する部員などなどがいて、チームの立て直しをしつつひょんなきっかけで戦時下に途絶えた箱根駅伝の歴史を紐解くことになる…と言うストーリー。

物語はそんなわけで令和と昭和(10-20年代)を行ったり来たりします。どんなことでも、習慣になっているものを一度切ってしまうと再開するにはかなりのエネルギーを必要とします。箱根駅伝の再開も、なんとしてでも走りたいという学生の熱意が原動力になっているとはいえ、戦地で多くの仲間を失い気力も失っているメンバーを鼓舞する描写などはやはり胸が苦しくなりますね。

NHKの大河ドラマ「いだてん」でもそんなシーンがありましたが、20キロを走る足元は足袋ですよ(かろうじて底はゴム製)。しかも戦時中や戦後は物資が不足していて、10区間あっても支給される足袋は2足しかなかったりするのです。それでも学生たちは走るのです。

学生たちの「走りたい」という思いがずっと引き継がれていることに感動を覚えました。来年の箱根駅伝が、今から楽しみです!

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