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私の雛人形

幼い頃、雛人形がほしくてたまらなかった。母の雛人形は七段飾りの豪華版だったそうだが、戦後の引き揚げで京城(現ソウル)に置きっぱなしになったと聞いて、残念でならなかったからかもしれない。小さくてもいいけど家具付きでとねだり続けて、ようやく買ってもらったのがこちら。

今では実家に飾りっぱなし

ケース入りでもライトアップもできる凝ったつくりだったが、家具の引き出しが開かないのが不満だった。とはいえ、この時期になると何度も眺めては喜んでいた。だが「早く片づけないと嫁の貰い手がなくなる」と慌てる父に従い、例年早々に片づけなければならなかった。高校生くらいまでは几帳面に出し入れしていたと思う。ところがそのうち片づけるのも飾るのも面倒になって、人形たちは押し入れの箱の中で眠ることになった。

今では信じがたいことだが、その当時、女性はクリスマスケーキ扱いされており、24歳までに結婚しなければ売れ残るとまことしやかに囁かれていた。やがてそれが耳に入ったのか、私の結婚を心配しだした父が「あの人形はどうした!?」と気がついてしまった。母は「もうカビが生えているかもしれないわね」と言いつつも、もったいない精神を刺激されて、押し入れの奥から箱を取り出した。幸いカビてはいなかったものの、虫干しを兼ねて雛人形は座卓の上に並べられた。それを見ながら両親が満足気に「よかった、よかった」と言っている光景が、今に至るも私の目に焼きついている。

不思議なもので、一向に結婚する気配のなかった私の婚約が、その年に決まった。雛人形のおかげと思ったのか、以来、実家では雛人形ケースを小物置きにするのをやめて、年中、お雛様が鎮座ましますことになった。

わが家は男所帯のため雛人形とのご縁が切れて久しい頃、職場の先輩が私のためにと陶雛を贈ってくださった。本当にありがたいことである。白状すると、ものぐさな私はそれさえ飾ることをここ数年怠っていた。お詫びを兼ねて記事にさせていただいた次第。つまらぬ話にお付き合いくださった皆さま、どうもありがとうございました。

きっと桃の花も呆れ返っているだろう


🌸追記🌸
インソムニアさまが当記事を素敵なマガジンに追加してくださいました。
ご縁に感謝申し上げます🎎
chibi3さまも「また読みたい花の記事」と「何度もよみたいnoterさんの記事」に加えてくださいました。重ね重ね、ありがとうございます🙏