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【読書感想文】オルテガ・イ・ガセット『大衆の反逆』桑名一博訳、白水社

20世紀初頭のスペインの知識人オルテガ・イ・ガセットの代表作の翻訳を読んだ。19世紀の機械文明の誕生と共にうまれた「大衆」によって、人類の生の衰退がはじまり、世界を牽引してきたヨーロッパが衰退の危機を迎えているという、20世紀初頭にしては慧眼であった指摘の鋭さ。かつてのローマ帝国の衰退と重ねつつ、凡庸な消費者である大衆による支配の危険性に警鐘を鳴らしている。ただ、私は、佐野洋子さんの『ふつうがえらい』という考え方に共感するものなので、オルテガの、知識人のみをよしとするエリート主義にあまり感銘できなかった。ただし、当時はファシズムやコミュニズムによる危機の時代であり、今の時代とはだいぶ状況が違っていたという事情を考慮しなければならないだろう。科学の細分化、専門化が問題という指摘もあったが、ものづくりを国是とする日本人からしたら、どこが問題なのかと言いたくもなるし、世の中が科学の全体像を常に追いかける教養人ばかりになったら、落ちこぼれる一般人はどんなにみじめなことになるか。窮屈なのではないか。むしろ、そうした知識人を尊敬する意識さえあれば、問題ないのではないか。いろいろ突っ込みたくもなったが、鋭い問題意識を投げ込んだという意味で、この著作は古典的名著であることは間違いない。文章も、明解で面白く、達筆で、読んでいて心地よかった。もうあまりお目にかからない本かもしれないが、皆さんにお勧めしたいと思う。

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