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【読書感想文】ゲーテ著木村直司訳『色彩論』ちくま学芸文庫

潮出版社のゲーテ全集からの文庫版である。ゲーテの自然学に関わる論文のみを集めている。ゲーテはよく知られているように、詩人、政治家、であるとともに、自然学研究者であった。その自然学は、現代の自然科学とは異なり、錬金術や神学の流れとともに位置づけられるものであり、科学というより、むしろ自然哲学である。ただ、当時の最先端の自然科学の成果も影響しており、その形態学や骨学、色彩論の生理的色彩などの学説は、今でも評価できるものであるようである。ただ、一部だけを取り出して評価するのは、ゲーテ自身も望まないであろうし、18世紀末から19世紀初頭のドイツ言論界の文脈の中でとらえるのがもっともな解釈であろう。私自身は、一時期現代の自然科学に不信感を抱き、その文脈で、ニュートンに執拗な反駁を加えたゲーテの取り組みについて、興味を持っていた。ただし、現代科学批判というよりは、自然というものを有機的な全体として捉え、いきいきとした命として人間に語りかけてくるものという自然観が、現代には失われてしまったかけがえのない考え方として、当時学生だった私に熱く語りかけてきたのだった。私の卒論のテーマはゲーテの『色彩論』教示編の自然の言語について、であった。時代錯誤であったかもしれないが、当時はかなりの入れ込みようで、ゲーテばかり読んでいた。しかし、社会人になって、その暇はなくなって、それ以来ご無沙汰していたが、久しぶりにこの当時購入したが読んでいなかった文庫版を手にして、大変懐かしかったし、ゲーテはやっぱり読みやすいなあと再び感動した次第である。内容の是非より、読んでいて美しく、楽しいのである。自然、いきいきとした自然がそのまま語りかけてくるようである。最近、私の学生当時からすでに研究者として名を成していらっしゃった元慶應出身の研究者の方が東大の先生になられいていることを知り、嬉しかったのをここで書いておきたい。私の目の付け所もあながち間違っていたわけではないのだなと思った次第である。私もまた少しずつ読み直していきたい。

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