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【読書感想文】今井むつみ、秋田喜美著『言語の本質』中公新書

去年の5月に出た、中公新書の一冊である。元大学の言語学の教員であった義母に薦められて読んだ。オノマトペという言葉をキーワードにして、言語の本質に迫る名著である。言語が身体に接地している立場で、人類のアブダクション理論という能力が言語の獲得と学習に大いに役立っていると位置付けている。赤ん坊とチンパンジーの比較実験の話などは大変面白い。それなりに難しいが、書き方が明解なので、まったくついていけないこともない。
「人は文なり」ともいうが、言語(ロゴス)とは人間の定義そのものともいえないくらい大切な人間の能力であるから、この言語の本質に迫るという試みは、そのまま人間とは何かという問いに接地するものなのではないかとも思える。そこは、哲学ではなく、言語学・認知心理学からのアプローチなので、少し違うかもしれないが、興味深く読まされたのは確かである。どうして人間にはアブダクション推論の能力があるのかという問いに対しては最後まで結論がなかったようだが、実に面白い観点である。ほとんどのチンパンジーにはないというが、個体によっては存在したというから、人類の進化の問題にも一石を投じている。子供の言語の獲得の問題や、オノマトペの使われる絵本の意味などへの示唆も、我が子がいて絵本好きの私には興味深い。そもそも義母がこの本を私に勧めてくれたのも、絵本へのアプローチがおもしろいからという理由であった。読後の満足感は一方ならぬものがある。勧めてくれた義母に感謝したい。

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