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PENTAXのカメラ

この前のリコーGRIIIxに続いて、機材のお話です。
表現や作品といった話題ではなく、直球の「機材レビュー」です。

PENTAX(ペンタックス)ブランドは、かつては旭光学工業という社名で、1950年代初頭に国産初の一眼レフカメラを発売したことでもよく知られています。アサヒペンタックスSPは、昭和中期の大ベストセラーカメラでした。
現在では、GRシリーズと同じく、リコーイメージングの製品です。

近頃のレンズ交換式デジタルカメラは、「ミラーレス」と呼称されるように、一眼レフ時代の「レフ(=レフレックス)」機構(ミラーやプリズム)を用いない、電子部品優位の仕組みが主流になりました。
そんな中、ペンタックスは、あえて一眼レフカメラを提供し続けるメーカーとして、独自性を発揮しています。

ぼくも「一度使ってみたい!」と思っていたところ、地元の福島市で「PENTAX一眼レフ体験会 in 福島」が開催されると聞き及び(もといXで発見し)、ボディとレンズ2本コミコミで4時間無料という好条件に釣られて参加してきました!

貸し出していただいたカメラとレンズは、以下のとおり。

APS-Cフラッグシップモデル、PENTAX K-3 Mark III

大口径超広角ズーム、HD PENTAX-DA★11-18mmF2.8ED DC AW

小型軽量望遠ズーム、HD PENTAX-DA 55-300mmF4.5-6.3ED PLM WR RE

K-3 Mark IIIは、代々改良が施されて今に至る、ペンタックス渾身のデジタル一眼レフカメラです。
レンズに関しては、当日いらしていたメーカーの方から、
「11-18mmはいいレンズですよ〜」
との推しがありました。
やや不思議に感じられたのは、こうした体験会の場合、まずは使いやすい標準域のズームレンズや単焦点レンズをセレクトしそうなものですが、なぜかこの2本の組み合わせ。何か意図が隠されているのかな?
それにしても、ペンタックスのレンズ、どれも名前が長いですね……。

借りました!

いわゆる「撮影会」ではないので、借り受けた後は、返却時間さえ守れば、どこに出かけるのも自由です。
慣れている場所で撮るか。それとも初めての場所へ行くか。迷った末に後者を選びました。
福島市北部の鹽竈しおがま神社」で紅葉&黄葉狙いです。

鹽竈神社といえば、東北鎮護・陸奥国一之宮として知られる宮城県塩竈市の鹽竈神社が全国的に有名です。福島市にも、広くは知られていませんが、同名の神社があります。
その由緒は、大昔、福島盆地がまだ湖に覆われていた時分、訪れた神々の一行が湖水を炊いて塩を得た故事に始まるそうです。

ご覧のとおり、こんもりと盛り上がった小山のてっぺんに建つお社で、安土桃山時代には会津を本拠とする上杉景勝傘下の山城となり、伊達政宗の軍勢と対峙したとのこと。
ちなみに、読むのも書くのもすごく難しい「鹽竈」の漢字について、以下のページに丁寧な解説があります。

いきなりの急登〜
社殿はやや荒れた感じ
眺望抜群!
(写ってはいませんが、足元の崖が崩れ気味でした...…)

さて、ペンタックスのカメラを使うに当たって、ぼくが一番気になっていたのは、「カスタムイメージ」と呼ばれる色彩セレクト機能です。

フィルムを交換する感覚で画作りを変えられる機能

https://www.ricoh-imaging.co.jp/japan/products/custom_image/

K-3 Mark IIIには全14種類が搭載されています。
もちろん、RAWデータで撮影すれば、現像時に自分好みの色味に調整できるわけですが、カメラを企画製造したメーカー自身が、
「この色こそ!」
と提供している画調はどういうものか、やはり気になります。
すべてを試すことは出来なかったものの、以下、実際の写真をご覧になってみてください。
※一部、露出やコントラストを微調整した写真が含まれます。

HD PENTAX-DA★11-18mmF2.8ED DC AW
カスタムイメージ「風景」
曇りがちだったこの日。彩度高めの「風景」がしっくりきました
HD PENTAX-DA 55-300mmF4.5-6.3ED PLM WR RE
カスタムイメージ「ポップチューン」
鮮やかさを思いきり際立たせる、飛び道具的なモード
HD PENTAX-DA 55-300mmF4.5-6.3ED PLM WR RE
カスタムイメージ「Gold」
温かく柔らかな雰囲気
HD PENTAX-DA 55-300mmF4.5-6.3ED PLM WR RE
カスタムイメージ「Gold」
彩度やコントラストを抑えて落ち着いた印象にも
HD PENTAX-DA 55-300mmF4.5-6.3ED PLM WR RE
カスタムイメージ「リバーサルフィルム」
「風景」よりもコントラストの強い画作りです
HD PENTAX-DA 55-300mmF4.5-6.3ED PLM WR RE
カスタムイメージ「里び」
晩秋のイメージをさらに深める渋い色調
HD PENTAX-DA 55-300mmF4.5-6.3ED PLM WR RE
カスタムイメージ「銀残し」(調色:グリーン)
ローキーな景色をさらにローキーに

映画フィルムの現像手法である「銀残し」のような、ローキーかつハイコントラストや渋みのある色彩表現が特徴です。初期設定では“調色”効果がグリーンに設定されていますが、効果をOFFにしたり、他の色味に変更することで、様々な銀残し表現が楽しめます。

https://www.ricoh-imaging.co.jp/japan/products/custom_image/
HD PENTAX-DA 55-300mmF4.5-6.3ED PLM WR RE
カスタムイメージ「ほのか」
前景に強い色を入れ、彩度の低い背景との対比を狙いました

それぞれの「カスタムイメージ」は、個性がかなりはっきりしているので、「こういうふうに撮りたい」という意図に沿って、わかりやすく使い分けることが出来ます。

「わかりやすい」

これがペンタックスの画作り・色作りのポイントだとぼくは思いました。
一方で「果たしてこのままでよいのかな?」と感じた部分もあります。
例えば「カスタムイメージ」の「鮮やか」。メーカーのWebサイトでは、

輝度の低い青による濃厚な青空や、活き活きとした緑など、自然風景に万能なカスタムイメージ。*ist DSで搭載されていた画像仕上げ設定から変わらぬ画作りを維持しており、 PENTAXユーザーの実に6割の方々が愛用し、“PENTAXカラー”の代名詞となっています。

https://www.ricoh-imaging.co.jp/japan/products/custom_image/

と説明されていて、伝統をしっかり受け継いで行こう、既存ユーザーを大切にしようと努めるペンタックスの良心が伝わってきます。が、同時に、
「*ist DS? 2004年のカメラですよね?」
と驚かずにはいられません。変化と進化の激しいデジタル機器において、610万画素CCDセンサーを載せていた当時と同傾向の画作りを温存しているとすれば、もしかしたら時代の流行に乗り遅れているのではないか?そんな一抹の不安を覚えてしまうのです。
一つの比較対象として、富士フイルムの「フィルムシミュレーション」。
若い世代からも強い支持を受けていると思うのですが、あれって、昔懐かしいフィルムの名称を用いながら(PROVIAとかVelviaとか、商品名そのものではないけどクラシックネガとか)、描き出される写真は実は、絶妙に令和の時代の好みに寄せている感じしませんか?
それと比べると、ペンタックスの画作りって、だいぶ素朴なのかな。
好きな人もいると思います。喩えるなら、
「冬がきたら畳敷きの和室にコタツを立てて、みかんを剥き剥きしたいよね」
そんな雰囲気。ちょっと無理矢理な表現だったでしょうか..….。
飾らない良さがペンタックスにはあります。

HD PENTAX-DA★11-18mmF2.8ED DC AW
カスタムイメージ「風景」

最後に、各機材を使ってみての「ここはこんなふうに思った」インプレッション(印象批評)を。
たった4時間使っただけの、あくまでぼくという、多少偏った人間から見たインプレですので、「まあ、そういう意見もあるか」くらいの気分でお読みください。

K-3 Mark III
◎:とてもガッシリした作り。ただし、その反動か...…
△:手にした瞬間「大きい!」と感じます。APS-Cセンサー搭載機と考えると、尚更。
◎:重心バランスは良好。「大きい」ですが「重たい」とは感じません。大柄なレンズを装着しても安心して振り回せそうです。
△:操作性もよく練られていると思います。が、気になったのは後ダイヤルの配置。最初、露出補正をかけようとして「スマートファンクションダイヤル」を一所懸命に回していました。今、各社とも、親指で回す右肩のダイヤルが、背面側のメインダイヤルですよね?(しかも、この操作系は、1988年発売のニコンF-801に端を発するはずで、かなりの歴史がある)。実際、その方が断然扱いやすいと思います。後ダイヤルとスマートファンクションダイヤルの配置は入れ替えてもいいんじゃないのかな。
◎:シャッターを切ったときの感触はとても良好です。軽やかに、でも、軽すぎず。
△:AF。ミラーレス一眼と比べた場合、測距点の数や配置に制限を受けるのは、構造上やむを得ないところ。当たり前ですが、画面の部分拡大も出来ません。合焦の速度や精度は「悪くない」感覚です(逆に「すごく良い」とも感じなかったわけですが)。体感的には、自分が使っているLUMIX S5IIとさほど変わらないかなあ。ソニーやキヤノン、ニコンとは差がありますね。
△△:ファインダー。ちょっと(だいぶ)期待外れでした。明るくもなく、かといって、格別ピントの山が掴みやすいわけでもなく。AFポイントの表示も確認しづらいし。「一眼レフ」が売りのカメラで、正直、これはキツいっす。
○:液晶モニタは普通。固定式ですが、特段不便とは感じませんでした。
△△:バッテリーは想像していたほど保ちませんでした。ライブビューでないのに、正味3時間に満たない撮影で1本目がほぼ空に...…。貸出機なので、バッテリー自体がヘタっていた可能性はあります。
○:画質は、人それぞれ好みによって判断が分かれるので一概には評価出来ませんが、基本的に鮮やかな発色が明るく健康的で良いと思います。ノイズは、35mm判センサーのカメラと比べれば、やや多めです(これも当然)。
◎:ボディ内蔵の手ぶれ補正は、バッチリ効くと思います!

HD PENTAX-DA★11-18mmF2.8ED DC AW
○:しっかりした作りです。
△:でも、ちょっと大きめです。太いです。開放F値が2.8だから...…とは思いつつ、APS-Cセンサーのレンズだと考えると、うーん、微妙。ミラーレスが主流の時代になって、広角域の設計の自由度が増したという話を耳にしますが、一眼レフ用の超広角ズームは苦しい立場なのか。
◎:描写は均質・端正・高品位!変な歪みや像の流れもなく、とても使いやすいです。目の前の景色の変化に合わせてズームリングを左右に回転させ、テンポよくシャッターを切って行くことが出来ます。「心地よく使える」これこそがこのレンズのいちばんのストロングポイントかも。
△:開放では周辺光量落ちが目立ちます。結構目立ちます。惜しい。
△:JPEG撮って出しの場合、輝度差のある箇所では倍率色収差がそれなりに出ます(↑の鹽竈神社の鳥居の写真とか)。気になるときはRAWで対応を。
○:AFはスムーズ。
○:ボケも滑らか。
○:「AW」表記は、防塵・防滴仕様を意味します。

HD PENTAX-DA 55-300mmF4.5-6.3ED PLM WR RE
◎:このレンズ、メッチャ良いですよ!気に入りました。掌サイズにもかかわらず、35ミリ判換算で84.5~460mm相当の画角をカバーすることが出来ます。超便利です。
◎:しかも、バキバキのシャープではないにしろ、思いきり使える描写力!
◎:最短撮影距離は0.95m(最大撮影倍率0.3倍)!
◎:軽い!(約442g)
◎:ボケも素直で綺麗。開放F値は暗いけど、写し方次第でちゃんとボケます。シャッタースピードが落ちてきたら、K-3 Mark IIIの手ぶれ補正機構が本領発揮。
◎:PLM(パルスモーター)駆動のAFは速くてスムーズ。
○:「WR」表記は、防滴仕様を意味します。
△:沈胴構造なので、撮影開始に当たって一手間あります。

当初、超広角ズームと望遠ズームの組み合わせを不思議に思っていました。ですが、体験会を終えた後は、短い時間でダイナミックな撮影をこなすことの出来る、メリハリを利かせたコンビだったと理解しました。
ナイス・チョイス!担当者さん、グッジョブです!
(もちろん、馴染みの少ないズーム域のレンズを使ってもらって、購入に結びつけようという意図もあるでしょう...…)

以上で本記事は終了です。
もしも耳障りな箇所があったとすれば、何卒ご寛恕ください。
今回、カメラもレンズもすべて無料でお借りしましたので、その心意気に応えるべく、そして今後の製品開発にわずかでも資する内容とするべく、本音ベースでガッツリ書かせていただきました。

PENTAXさん、楽しい時間をありがとうございました!

(追記)

「コングラボード」をいただくことが出来ました!
この記事は自分でもビックリするくらい伸びました。いやあ、一所懸命に書いた甲斐がありました。
部門別ではなく、note全体で「もっとも多く読まれた記事の1つ」ということなので、なおさら嬉しい限りです。
読者の皆さまに深く感謝いたします。とても励まされております!

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