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『光る君へ』の世界を読む


毎年、その年の大河ドラマに関連する本を1冊は読むようにしている。今年はいつもより気合い入れて読んでしまった。

人生はあはれなり…紫式部日記

小迎裕美子・著 KADAKAWA

まずは入門編としてコミックで読んでみた。コミカルなタッチでわかりやすく、紫式部日記と源氏物語の内容をザックリ知るにはいい。
この著者は紫式部を陰湿というのではなく、うじうじとネガティブな面倒くさい女なんだと述べている。親しみは増すかもしれない。

紫式部日記(ビギナーズ・クラシック 日本の古典)

山本淳子・編 角川ソフィア文庫

原文と現代語訳が併記されてるビギナーズ・クラシックシリーズ。最初はがんばって原文から読んでみたが、そのうち面倒になって現代語訳のみに目を走らせてしまった。

『紫式部日記』は女性が書いたものではあるが、恋愛的な内容はほとんど出て来ないし、家庭的な話もあまりない。むしろ宮仕え=仕事に要点が置かれている。最初は物怖じしていた紫式部だったが、時代のトップレディーに仕える秘書のような役割に、次第にやりがいやプライドを持つようになっていく様子がうかがえる。

日記はまず中宮彰子の出産から始まる。彰子の実家である土御門邸、道長の邸に親族と女房たちが詰め、大勢の僧侶にお経を揚げさせて…そりゃもう大騒ぎで準備を進める。出産後もあれやこれやと祝い事が続き、皇子誕生の華々しい様子が印象的だ。

紫式部 女房たちの宮廷生活

福家俊幸・著 平凡社新書

こちらは紫式部の生涯、源氏物語について、そしてその時代の女房の立ち位置や仕事について書かれている。華やかなキャリアウーマンであると同時に当時は人前に顔を出すことがはしたないとされている中、仕事柄男性からも顔を見られてしまう女房はある面か軽んじられていたらしい。今風に言うとちょっとあばずれの印象を持たれていたのかもしれない。

当時を知る意味で和泉式部日記の内容や和歌が紹介されているが、和泉式部の和歌がまた、艶っぽい。当時自分の上役にあたる男性と男女の仲になる女性を召人と言ったらしい。今で言う愛人にあたり紫式部は藤原道長の召人だったんじゃないか?と言われている。確かに二人の和歌のやりとりも掲載されているが、和泉式部と帥の宮との和歌のやりとりに比べると色気がイマイチ。仮に道長の召人であったとしても一時的なものだったんじゃないかと私は思う。

逆に結婚前、夫の転勤に着いていく親友へ宛てた和歌や、後に夫となる宣孝への和歌はとてもセンスがいい。この友人は大河ドラマのさわさんのモデルじゃないかな?なんて勘ぐったり。

枕の草紙(ビギナーズ・クラシック 日本の古典)

坂口由美子・編 角川ソフィア文庫

せっかくなのでライバル清少納言も読んでおこうと手にした。この本は10年くらい前に読んでいて、その時は清少納言のみずみずしい表現や目の付け所に単純に感心しただけだった。

紫式部関連のものを読んだあとだと、いろいろ違った見え方ができる。いわば紫式部は道長派、清少納言は道隆派なわけでそれぞれ対立する派閥のスタッフとして務めている。そのため清少納言は道隆や伊周を褒めちぎっている。どうやら道長派と比べて道隆派は華があったようだ。

ところが、その道隆亡きあと後ろ盾を失った定子の運命は下傾する。清少納言は暗い記述はしないが、紫式部日記の彰子の出産の記述は大変華々しかったのに対し、枕草子の定子の出産は非常に質素だ。父は既に亡く、兄は流罪になり頼れず、実家もないため中宮職長官の平生昌の家でお産をする。門が狭くて牛車が通れず、歩かなければならなかったことが書かれている。

この世をば

永井路子・著 朝日時代小説文庫

最後に大作に挑む。永井路子さんの小説は割と読みやすいのだけど、これは少々てこずった。ストーリーにあまり抑揚がなく主人公の道長自体が華がなく地味。永井路子さんは道長を凡人と評している。父・兼家のような強いリーダーシップもなく、長兄・道隆のようなカリスマ性もなく、次兄・道兼のような野望もない。ただただ周囲に気を配り、うまく立ち回ってきた運のいい人だと述べている。

道長は女性に好かれたことが一つの成功の秘訣さとされている。実際に姉の栓子と道長の関係は北条政子と弟の義時を連想させる。それから妻の倫子とその母穆子、妻の実家の財力も大きな後ろ盾になっている。

ところで、期待した紫式部は本書にはほとんど姿を現さなかった。下巻の最後のほうに侍女の一人が倫子のところにこっそり
「殿さまは彰子さまの女房を追いかけています」
と告げ口した、その噂話の中にしか出て来なかった。

しかし、『光る君へ』を見る上で一番参考になるのは本書だと思う。ちょっと長いけど、妾の明子とか兄の道兼などドラマとキャラクターがずいぶん違ったりするのは、また面白い。

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