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桜回線 #毎週ショートショートnote 

「お前が長兄か」

江戸時代末期のソメイヨシノ前で呟いた。

多くの植物はストレスにさらされると、超音波を発することがわかっている。これは、植物が脅威を周りの植物に知らせたり、花粉媒介者に受粉を促したり、あらゆるものと会話をしている証拠となる。

しかし、植物は声を発したり、文字を書けないので、異種、同種の双方向のコミュミュケーションがどこまで成り立っているのかは不明。

「お前と、お前らは違うよな」

江戸時代末期の桜木に、遺伝子情報のプログラムを書き換た接木を植えて、「桜回線」をハッキングし、超音波の波長を操作した。

「伝えろ」


「見て!こんな寒い日に桜が咲いてるよ!」

「綺麗だね」

「散っちゃう前に…しっかり見とかないとね」

「来年は満開の桜が長続きするみたいだよ」

「えっ!来年はもっと楽しめるんだ!」

「元気になったら、どこでも連れって行ってあげるよ」

兄は妹の車椅子を押しながら、笑顔で答えた。

お題【桜回線】

そろそろ春ですね!(今日はえらく寒いですが…)
というわけで桜をテーマにしてみました。今週は追加お題としてこんなオプションはいかがでしょうか。
【魅力的な台詞ではじまるお話】

#毎週ショートショートnote  
#ショートショート

<補足説明1>

日本全国で目にするソメイヨシノは、全て同じ遺伝子を持つクローン個体です。

ソメイヨシノは江戸時代末期にオオシマザクラとエドヒガンの交配によって誕生しました。その後、明治時代以降、優れた形質を維持するために接ぎ木によって増殖されてきました。

接ぎ木は、遺伝的に全く同じ個体を複製する技術なので、結果的に日本中のソメイヨシノは同一の遺伝子を持つことになったのです。

これが桜が一斉開花する理由です。

見た目は華やかですが、遺伝的な多様性が少なく病気に弱い。ソメイヨシノは自分自身で子孫を残すことができません。脆弱な品種だといえます。

以上


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