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【猫や猫⑥】猫の肉球押す心ぷよぷよと

我ながら驚く。
もう⑥なのに、まだ私は子猫を拾っている。
ちゃっちゃと話を進めよう。

ペット飼育禁止アパートからペット可アパートに引っ越した。
2012年11月のことである。
2006年に拾ってから六年目。猫の六才は人間なら四十才。ナイスミドルである。

何故引っ越したかというと、向かいの家のババアに猫の飼育を見つけられ騒ぎ立てられたからである。
その詳細はムカつくので省く。
ただ一言。
ご近所トラブルの場合、警察は意外と役に立つ。

何しろ困り果てた私は110番通報したのだ。
そこから所轄の警察署、交番と紹介してもらい、駅前交番の警察官が交渉人となってくれた。
私はババアと直接話さなくて済むようになった。

この騒ぎで不動産屋にも私のペット飼育がばれたが、頭を下げれば引き続き居住は可能だったろう。
何しろ隠れ犬猫飼いが何戸もあったのだから。
けれどもうあのババアの向かいに住むのは嫌だった。
というわけでペット可物件探しが始まった。

賃貸のペット可物件は何故か犬に優しく猫に厳しい。
イッヌ可ヌコ不可である。
犬などキャンキャン鳴くし、散歩で出入りがうるさい。
猫は静かに寝ているだけなのに。
などと文句たらたらで見つけた物件は、当時で築二十年だった。
何と今は築三十年ではないか。
今更驚く。

築二十年のアパートは水道の蛇口が捻って出す形だった。
やっとレバー式の水道が付いた夢のアパート(安い夢だ)に暮らせると喜んでいたのに元に戻ってしまった。
だが二十軒ほど見て回った中でここが一番ましだったのだ。
外観は雑草まみれだったが、除草すれば何とか住めると踏んだのだ。
ペット可物件=ボロ物件
と言っても過言ではない。

【老猫とふたり行く野辺彼岸花】

市内の引越しだった。
新居で猫めは一昼夜、押し入れに引きこもった。
そして出て来ると室内を探索したが、窓にはまだ近寄らなかった。
今度のアパートは角部屋だから窓が四か所もあった。
うち一つは何と出窓である。
私はそこに座布団を据えて、やがて猫めはそこで寛ぐようになる。

これまで猫めはベランダから小さな建売住宅の窓や壁を見るだけだった。
外に人の姿を見たことはなかったろう。いや内にも人の姿は私しか見なかったはずだ。訪ねて来る友だちも恋人も家族もいないのだから。
だが今度の家なら四か所の窓は遥か道を見渡せる。
人も飼い犬も野良猫も歩いている。
車が走るのだって初めて見るに違いない。

引っ越し荷物があらかた片づくと私は除草にとりかかった。
本来、外観の管理は大家か不動産屋の仕事である。
大家さんの自宅はアパートに隣り合っている。こちらから庭も見える。
あの庭を良しとして暮らしている人に除草を頼むだけ無駄と思える眺めだった。

いや住んでもみれば大家さんとてアパートの除草や庭木の伐採はしてくれる。
年に二度ぐらいは。
けれど全てにおいて大雑把だった。ゴミ置き場に運ぶ道々枝葉や草を落として行く。
結局、私が我慢できずに掃除をし直すのが常だった。

ヒメツルソバという花がある。
Wikipedia先生の言葉を借りれば、小さい花が1cmほどの球状に集まった金平糖のような形をしている。
ちょっと見は愛らしい花である。

けれどそれが地を這いうねうねと約30㎝幅の帯状にアパートを取り巻いている様はホラーである。
私は三日かけてヒメツルソバや様々な雑草を、むしりまくった。
草に埋もれたゴミの数々も(BBQ用の炭!?)処分した。

作業中、伸びをしては二階の窓を見上げてニヤニヤした。
姿こそ見えないが、あの部屋には猫めがいるのだ。
何というか、妾奉公させていた女をやっと正妻に迎えた旦那のような気分だった。

引っ越しでママペットクリニック(仮名)は更に遠くなった。
徒歩五十分以上かかる計算である。
自転車を購入するしかなかった。
これなら二十分で行ける。
(駅までも遠くなったので通勤にもチャリは必要だった)

それとて緊急を考えれば悩ましいが、何とかなるだろうと踏んだ。
そして実際何とかなった。



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