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老子の「足るを知る」という言葉が嫌いだった|韓国映画「パラサイト 半地下の家族」に見る格差のはなし

わたしはずっと「足るを知る」という言葉が嫌いだった。

「足るを知る」は、古代中国の思想家、老子の言葉。「今持っているものに満足することで精神的に豊かになる」という意味が込められている。

でも、今持っているものに満足してしまったら、一生「ココ」から抜け出せない。「ココ」ではないどこかを求めて努力することは、そんなにダメなことなのだろうか。

「足るを知る」の意味と違和感

カンヌ映画祭でパルムドールを受賞した、ポン・ジュノ監督の映画「パラサイト 半地下の家族」。

映画にでてくる半地下に住む家族の家には、「足るを知る」を意味する韓国の言葉「安分知足」が飾られている。

この映画の中で今いる環境を自ら変えようとした人たち、すなわち「安分知足」に反した人たちは、一体どうなったのか。
(ここからはネタバレになってしまうので、まだ映画を見ていない人はぜひみてから読んでほしい)

「パラサイト 半地下の家族」では、貧困層と富裕層の間に明確な境界線がある。

貧困層から富裕層へ境界線を越えようとした者は、結局だれ一人として超えることができず、大きな罰を与えられた。

そして、富裕層であるにも関わらず、境界線の下の世界をのぞき見ようとした者も同様だった。

最終的に平穏無事な生活の中に身を置くことができたのは、もともと富裕層で、自分たちの下に別の世界があることに一切興味を持たず無視し続けた、裕福な妻と子どもだけ。

ポン・ジュノ監督は記者会見の中で、「映画を通して何を一番伝えたかったか」と問われ、私たちの世界に広がる「二極化」と、それに対する「未来への恐れ」であると答えている。

「足るを知る」という言葉の本当の意味

「足るを知る」という言葉が嫌いという人は、意外と多い。

その理由は、「足るを知る=ガマンする」と近いニュアンスに感じる人が多いからだ。

しかし、これは誤解。

実際の書物「孟子」を読むと、「足るを知る」には続きがある。

「足るを知る者は富み、強めて行う者は志有り」

この言葉には「逃げずに現実と向き合い、努力を続ける人だけが目的(志)を成し遂げられる」という意味が込められている。

半地下の家族は、はたして自分たちの現実に真正面から向き合っていただろうか?

彼らがしていたことは富裕層の家に忍び込み、彼らの生活に寄生するだけであり、その先の計画や本質的な解決策を講じていたわけではない。

もし彼らが自分たちの境遇と本気で向き合っていたら、少しは違う結末を迎えていたのかもしれない。

富を得るための本質的な解決策とは?

半地下の家族は、富を得るために何をすればよかったのか。

フランスの経済学者であるトマ・ピケティは、著書「21世紀の資本」の中で「世の中は格差が広がるようにできている」という事実を不等式で示した。

『r>g』=資本の投資収益率は、賃金の成長率より、常に高い

トマ・ピケティがすごいのは、ちゃんと18世紀まで遡ってデータを分析し、投資と労働の収益率の違いを明確にしたこと。

r=資本の収益率は1年に5%
g=賃金の成長率は1年に1%

1億円持っているお金持ちは、働かなくても毎年500万円が手に入るのに、貧乏人は来年も再来年もずっと労働をし続けないといけない。

富裕層と貧困層の間の境界線を越えるためには、半地下の家族のように富裕層の家庭教師や運転手として労働をしているだけでは意味がない。

その労働で得た賃金を投資に回すことで、はじめて境界線を越えるためのはしごがかかる。

半地下の家族がすべきだったこと。

それは「世の中は格差が広がるようにできている」という事実をみとめ、投資する側に回る努力をすることだったのかもしれない。



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