見出し画像

現代の企業を蝕む、人事異動と先送りという恐怖のコンボ

現代社会では「答えがすぐには分からず、アイディアが浮かばない限りいくら経っても終わらない仕事」の割合がどんどん増えていっている。

正解が分かる定型業務はコンピューターに置き換えられてゆく訳だから、ある意味必然の流れである。

ところが、この現象が人事異動と紐付くと恐ろしい事象が生じる。

「課題の先送りと、人事異動による逃げ切り」だ。

正解が導き出せないまま決定をズルズルと先送りし、決着がつかないまま人事異動を迎えて逃げ切る。

アイディア勝負の仕事が終わらないまま放置されると、さまざまな弊害が生まれる。

この時の損失はピンときにくいが、解像度を上げるためにもここで掘り下げておこう。

同じ話を繰り返し確認する

当時の検討メンバーが異動によりいなくなっているので、多くの場合「なぜこのような決定となったのか」という理由の部分が分からなくなっている。

もう終わっている議論の筈なのに、関係者に聞いて回るので、全体としては大変な時間のロスになる。

環境の変化によるギャップ

先延ばしにしている間に環境が変化してしまい、企画当初は最適だった解決策が状況に合わなくなってしまう。

大きな組織であれば予算編成の機会は限られているので、追加予算も組めず、結果的に不十分な解決策を現場に強いる形になってしまう。

そもそも逃げ切り前提のアイディアなので詳細化が不十分

アイディア勝負の仕事は前例のないものが多く、周りの人間も正解が分からないことが多い。

そのため、報告の際に誤魔化しがききやすく、逃げ切りを図る担当者にとって都合のよい条件が揃っている。

「90%は私がやっておきましたので、残りの10%はお任せします」と言って去っていったのに、蓋を開けてみると20%程度しか詰められていなかったりする。

その時点で「90%完成している前提で」ヒト・モノ・カネの手配が終わってしまっていると、未完成な70%のギャップを埋めるために絶対にどこかで歪みが出る。

特に厳しいのが時間で、最悪の場合、プロジェクト延期にもなりかねない。


以上に挙げたように、先送りと逃げ切りは無理や無駄を生み、最終的に会社としてのアクションの遅れや成果物の不完全さに繋がる。

アクションの遅れや低品質のサービス投入は市場競争の敗北に直結する行為である。

神経をすり減らして達成した成果が、悲惨な結果に終われば担当者はやり切れないだろう。

解決策の模索とよくある落とし穴

この問題への解決策は、「手数の多さ」を評価基準とする別組織を作ることである。

「新しいサービスをどれだけ生み出したか」や「リリース後の改善をどれだけ猛然とやったか」の指標を作り、評価してゆく組織を作る。

注意点として、企画から実行までの一連の流れは極力同じ人間に担わせるべきだと思う。

くれぐれも企画と実行を別の部署に分けてはならない。詳細を詰めるという最も大変な部分を実行担当者に丸投げする余地が生まれてしまうからだ。

また、実行部分を担わないまま企画だけやり続けると、現場感覚から乖離した企画を作り続ける危険性が高まる。

「企画だけを専属でやることで、従来の発想にとらわれない素晴らしいものを作れるのだ」という考えは幻想である。

新しいアイディアは現状の問題を解決するためのものであり、既存課題への解像度が低いままでは良い解決策が生まれるはずがない。

実行部分を担ったことによる手触り感が次のアイディアの糧となるのだから、両者を分断する理由はないのである。

さらに、斬新なアイディアを現場に落とし込むには必ず抵抗勢力が生まれる。

突破するには相応の熱量が必要な訳だが、途中でバトンを渡された人間と、企画に最初から携わってきた人間とでは熱量に雲泥の差がある。

実行面を別の担当者に任せるのは、現場の抵抗に対して妥協することを認めているに等しい。

ビジネスに妥協はつきものとはいえ、「絶対に譲ってはならないライン」を守った上で柔軟な作り変えをすることができないと企画はすぐに形骸化する。

実行を担当する人間が別であれば、プロジェクトの死守しなければならないラインを把握できないままズルズルと後退を繰り返す可能性が高いだろう。

さらに厳しい現実をいうと、現場の抵抗を抑えてなんとかサービスリリースにこぎつけたとしても、そこで努力を怠ってしまってはすぐに魂の抜けたものになってしまう。

アイディアが初期段階の形のままで素晴らしい成果を上げることはほぼないのである。

運用開始後も改善努力を継続することで、ようやく新機軸は組織に馴染んでゆく。

赤ん坊もそうだが、新しいアイディアは人が熱意を持って張り付き続けないと生き延びれないものなのである。

以上、勝ちパターンの見えづらい現代に起こりがちな、組織の病理について分析してみた。

アイディアを出して道筋を付けただけでは、仕事の実績として評価されないと思ったほうがよさそうである。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?