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韓国の貧困と虐待

韓国映画は、今、ものすごく勢いがある。
韓国エンタメ界は、日本の数年先を歩いている。
映画製作の歴史を見れば、日本の映画界の方が、先に出発し、韓国の先を歩いていた。
日本には数年いや、数十年遅れで、出発した韓国の映画製作だが、古臭い伝統とか、しきたりとか関係なく、新しいやり方で、とにかく見せる映画を作ってきたし、それは、世界規模レベルのエンタメにジャストフィットしていた。

「聖なる復讐者」は、パク・チャヌクの助監督を経験してきたキム・ソンスが監督をしている。
チェ・ユンギの「クリスマス・キャロル」が原作。
バスに揺られる少年の姿から始まる。
どこに向かうバスなのだろうと見ていると、車内に柵があり、ああ、収監されるところなのだとわかる。

主演はアイドルグループ「GOT7」のパク・ジニョン。
主人公イルと双子の自閉症の弟ウォルの二役を見事にこなしている。
イルと同じ公営団地に住み、同じ少年院のファンは、「不思議な国の数学者」で、高校生役をしていたキム・ドンフィ。
少年院のカウンセラーは、「愛の不時着」の北朝鮮の諜報員「耳」のキム・ヨンミン。
教官の「狂犬」は、「犯罪都市」のホ・ドンヨン。

力の強い兄イル

私だいぶ、韓国エンタメ通になってきた。

自閉症の弟ウォン



韓国の貧困といえば、昨今は、「パラサイト」が基準になっているようで、
「ビニールハウス」や「高速道路家族」などの映画の宣伝文には、パラサイトより過酷とか、パラサイトの方がまだましなどと言葉が並ぶ。

それでいえば、「聖なる復讐者」は貧困だけでなく、少年院での性的虐待が絡んでくるので、パラサイトよりも何倍も何十倍も悲惨ということになる。

取り壊しが進む公営団地。
ブレイディみかこさんのイギリスの公営団地よりももっと貧しい(たぶん)韓国の公営団地に住むイルは、双子の弟(自閉症で知的障害、3級)と祖母と三人暮らし。両親は2年前に逃げた。
パク・ジニョンはウォンの障害特性を、丁寧に演じている。
イルは生活のため、公営団地の立ち退きの仕事をしている。(ほぼ、暴力で)
自分も公営団地に住んで、立ち退きを迫られているのに。
矛盾だらけの生活。
家が無くなれば、零下18度。

クリスマスイブの夜、弟のウォルが殺され、貯水槽から発見された。
事故死と処理されたが、兄のイルは殺人だと判断し、犯人捜しのため少年院に入る。(犯人は少年院内の誰かだとつきとめる)
この映画はほぼ少年院の中での話である。
だから、出演者は皆同じ制服。
たぶん、映画祭の衣装賞からは一番遠い映画である。
それにもかかわらず、少年を演じる俳優の演技がしっかりしているので、一人一人、きちんとした顔で、しっかり見分けがつく。
ああ、憎たらしい奴。気弱な奴。親の権力に頼るやつ。
パク・ジニョンにせよ、キム・ドンフィにせよ、もう三十歳なのに、しっかり、少年院の生徒をやっている。

逃げた両親、暴力、貧困、障害、性的虐待を真正面からとらえ、こんなにつらい課題ばかりを突き付けられた少年はどうやって生きていったらいいのだろうかと問いかける。
つらい現実に真剣に立ち向かう少年の姿を描いた映画である。
少年の目の力に引き付けられる。





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