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【ショート】歪んだガラスの神殿


 僕が野球盤の次に手にした野球ゲームが、オセロでお馴染みのツクダオリジナルから登場した『ダイヤモンドベースボール』である。


 これはあの「ポケットメイト01 野球ゲーム」を巨大化して自立させたようなもので、パチンコと野球を融合させたゲームとしては完成されたゲームだった。なにせ、ボールが入った穴のメニューによって走者=パチンコ玉が塁を進み、アウトカウントとか得点も自動的にパチンコ玉で表示されるのだ。素晴らしいカラクリであった。

 巨大で自立するクリームホワイトの筐体は、そのアクセントのために付けられた段々のせいか、なぜか墓石……いやギリシア神殿のようにも見えた。中のカラクリ部分はガラスのような透明なプラスチックで構成されていたが、その神々しい姿もギリシア神殿に見えた理由であろう。

 バット型の大きなパチンコレバーがやや使い難かった感じがしたがもとにかく電池のいらない野球ゲームとしては完成したゲームだったと思う。


 しかしながらひとつだけ困るコトだあった。

 パチンコ玉と透明なプラスチックのカラクリの動きが織りなす音が結構な爆音だったのである。


 パチン!ガシャン!ガラガラ!ガシャン!


 晩御飯より後にやってはいけないコトに、家族会議で決まったのは言うまでもない。


 さて、そんな中で気になったのが、こんな爆音を立てて動くのでは、いつか素晴らしいカラクリが壊れるのではないかというコトだ。

 しかし、結果的にはこの『ダイヤモンドベースボール』が、その動作によって壊れる様を見るコトは無かったのである。残念ながら丈夫だった。いや、確かに丈夫だったが、さらに残念な理由のために。


 僕たちが住んでいたのは北海道。そしてその中でも当時はマイナス30℃に近い最低気温を記録する町だった。

 ひたすら寒い冬休み『ダイヤモンドベースボール』を石油ストーブの前に置いて、そのまま外に遊びに行ったのが壊れた理由だった。


 僕は家に帰ってそれを見た瞬間、

「終わった、壊れた。」

 と泣いた。


 必要以上に暖まった『ダイヤモンドベースボール』。透明な盤面のファーストのあたりが(ダイヤモンドベースボールはカラクリの都合上、ホームベースが右、ファーストベースが上という形になっていた)、目で見てわかる程に歪んでいたのだ。

 さっそくバット型のレバーでパチンコ玉を弾いてみる。

 しかし、こういう時に限ってランナーが出ない。数度弾いてやっとランナーが出た、動いた!

 だが、進塁しなかった。ファーストからホームに向かってガシャガシャと動くカラクリの一部が、ある位置から動かなくなってしまった。ファーストからセカンドに進めないのだ。


「ええい、動け!動け!!」


 盤面のファーストベースを、まるでパチンコ屋でどハマりしたオヤジのようにバンバンと叩いた。

 するとどうだろう、叩き方によってはセカンドに玉が動いて行く、良かった、これでゲームが出来る!

 叩き方としては今で言う掌底のように、掌で叩くとよく動いた。まあ、当時はまだ骨法ブームも掌底使いのプロレスラーも出て来ていないから、掌底なんてコトバも知らなかったけれど。

 ただし、さらに喧しいゲームとなった『ダイヤモンドベースボール』は茶の間を追いやられ、自室でしか出来ないコトに家族会議で決められてしまった。ストーブの無い部屋だけど、扉を開けてやるのも許されなかった。

 暖房の無い、極寒の世界にだけ存在を許されたそのゲームを、寒さに耐えて、手袋をしながら打ち、事実上も(盤面)を打ったのだ、しばらくは。


 もちろんそんな日々は長くは続かない。


 ある朝、いつものように盤面を叩いていると、いつもと違うグワシャっていう音が聞こえた。あのカラクリがなぜか下の方に移動した気がする。気がするだけではなかった。カラクリの押さえ部分が折れてしまっていたのである。

 分解してセメダインでくっつけたりしたが、結局は治るコトもなく『ダイヤモンドベースボール』は捨てられるコトになった。実働は多分3ヵ月程だった気がする。素晴らしいゲームだったのに。また泣いた。


 そんな傷心の僕を気遣ってか、妹がお年玉で買ってくれたのがエポック社の『ベスト9』というゲームだった。いや、ホントは確か、僕のスキー用ゴーグルを勝手に使って無くした代償だったハズだ。

 『ベスト9』は右横にあるレバーを一球毎に引いてロックしてから投球ボタンを押すと、ゼンマイの力でボールを印すLEDが機械仕掛けでギュンと動く。それにタイミングを合わせて打撃のボタンを押すと、当時の当たり付自動販売機のようにLEDが点滅して動き、点灯した位置で判定が決まるゲームだった。半自動というのが一番適切なゲームだった。



 そう、電池必須の野球ゲームの黄金時代が既に始まっていたのだ


~Fin~

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