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箱田 雛の不思議な世界

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箱田 雛という名のヒロインの連作シリーズ。 スターシステムではありますが、世界観は全て共通。 酒好き声優の卵なのも、お祖母ちゃん思いの中学生なのも、箱田 雛。 ドアターンの幽霊… もっと読む
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記事一覧

【小説】フィラフステ星人の受難《フィラフステ1》

1.発覚  「...というワケで今後の君の報告を期待する。既に潜入している先輩にもよろしく。」  流暢な日本語による指令は終わった。地球のパソコンと変わらないように改造した通信・モニターから上司の姿が消え、自分も地球人に擬態する。  「なに、今泉クンってタコなの?フィラフステ星人って宇宙人?」  空いたドアから部屋に入ってきた酔っ払い女の箱田雛が矢継ぎ早に質問してきた。   (しまった、発覚した。俺、今泉成人がフィラフステ星人だと。)  終電過ぎまで飲み、潰れたの

【小説】フィラフステ星人の逆襲《フィラフステ2》

1.擬態  それは40年程前の話だ。地球から180万光年程離れたフィラフステ星から銀河系探索に打ち上げた無人ロケットが微弱な、しかし何かの信号とわかる電波を捉えた。地球の、日本からのアニメーション「帰宅後のステマ・まじか」プロモーション宇宙放送。  フィラフステ星人は、その小さな銀河を探検するアニメに感動した。そして、秘密裏に日本海溝の底に遠征基地を作り、タコに近いDNAを利用した擬態シテスムにより人間に紛れ、アニメ業界に棲みつつ、感動するアニメーションを作る為にアニメー

【小説】遺品《遺品1》

お祖母ちゃんが亡くなった……。  少し足は悪かったが、まだ72歳だった。自室のいつも座っていたロッキングチェアで、これもいつも読んでいた星座の本を膝に置いたまま、誰も知らないうちに静かに召されたようだ。  家族葬だったが、仲の良い親戚が多いのと、ご近所さんは無下に断るわけにもいかなかったため、50名が定員の葬儀会場で立ち見も出る通夜となった。人気者だったのだ、お祖母ちゃん。  通夜後は近い親戚だけが残り、同居していた私は両親と共に各テーブルでお酒とかソフトドリンクのお酌

【小説】遺書《遺品2》

 北の街ではまだ雪が降る。昔はこの時期の水分の多い雪でも、傘など使わなかったが、いつの間にか髪が濡れるのを嫌い、私も傘を使うようになった。  住宅街の歩道に積もる今日の雪はやはり重く、靴の選択を間違ったと後悔する。これから自分が向かう所に行くならば、一番良い選択は長靴だったかも知れない。大人になるというコトは、我慢の積み重ねなのだろう。防寒靴の靴底から水が滲みませんようにと願いながら、雪の合間に点在する水を出来るだけ避けて前に進むしかない。  住宅街を抜けて坂を上る。めっ

【小説】遺跡《遺品3》

  父が運転する車は山の中を進む。羆のよく出るところだが、公営の大きなキャンプ場にもつながるためか道路は綺麗に整備されている。5月なのに夏のような温かの休日だ。  今日は亡くなったお祖母ちゃんの骨収めの日だ。去年の秋の大きな地震で父の田舎にあるお墓が倒壊したため、このタイミングで田舎の墓じまいをして、父と父の兄である叔父で、新しいお墓を建てたのだ。写真では見たが洋型墓石という、今時のお墓になる。  霊園らしき所にたどり着く。この街で一番大きな霊園であるそうだ。なぜか南洋

【小説】ドアターンの幽霊

黄色いランプのサーバント  ビビッ・ビビッという、軽故障のブザー音と共に、黄色いランプが派手に回転しながら点滅する。ベルトコンベヤが自動停止する。 「皆、ホールドアップ!」  天井にぶら下がったLEDに「軽故障・自動ライン停止・7番」と表示が出ると共に、PC端末のモニターの管理ソフトの警報メッセージを覗き込んでいた西口智夫はそう言いながら立ち上がり走り出す。30m程あるベルトコンベアの真ん中、天井に「3番線-7」と書かれた作業ブロックの前に着くや否や西口が早口で言う。