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読書記録:チョコレート・コンフュージョン (メディアワークス文庫) 著 星奏なつめ

【勘違いから始まった苦くて甘い恋は、互いの気持ちを素直にしてくれる】


【あらすじ】

バレンタインすら残業を強いられる仕事に疲れ果てたOL千紗。
お気に入りのヒールが折れてしまい、まさに泣きっ面に蜂状態。
そんな千紗を救ったのは、理想の王子様ではなく、凶悪な風貌から社内で「殺し屋」と恐れられる龍生だった。

千紗はお礼のつもりで義理チョコを渡すが、勘違いした龍生に交際を申し込まれてしまう。

「断ったら殺される!?」

命の危険を感じた千紗は、偽の恋人になってみる。だけど強面の龍生が提案してきたのは、なぜか交換日記であった。

凶悪面の純情サラリーマンと頑張り過ぎなOLの、涙と笑い純情ラブコメ。

あらすじ要約

バレンタインすら仕事に打ち込む、疲れ気味なOL、千紗を救ってくれた外見がいかつい龍生と義理チョコを巡り、偽の恋人として交際を始める物語。


季節がバレンタインデーになろうと、社会人には変わり映えしない一日。
今日のこなすべきタスクの量に辟易しつつ、溜め息が滲み出る。
見た目の風貌から、春が巡る事は無く、寂しい冬の時代を生きてきた龍生。
お気に入りのヒールが壊れてしまって途方に暮れた千紗を意外な形で救う事で。
互いの人となりが分かって、どことなく惹かれていく。
仕事に対して真面目で一途な千紗と不思議な縁が巡って来る。
たとえ、勘違いから始まった恋だとしても。

ちょっとした勘違いで始まった二人の交際はまさかの交換日記を交わして。
誕生日プレゼントに用意したのは巻物であったり。
強面の外見に似合わずツッコミどころ満載な龍生の奇行に、堪えきれない笑いが溢れる。

生真面目でどこかズレていて、それでも小さな子が困っているのを見過ごせない龍生の優しさを垣間見て、その優しさに応えてあげたいと思う千紗。
理想の運命的な出会いではなかったけれど、その優しさに自分は救われた。
千紗は徐々に龍生に心を開いていき、自分の弱い所も受け入れようとしていく。
凛とした大人になる為に、自分の武器であるお洒落を磨いて。
コンプレックスだった自分の容姿にも、自信が持てるようになる。
強面の故に自信がない龍生が、憧れに千紗との交際するにあたって、色々ズレた行動の中で、真っ直ぐな想いをぶつけてくる。
彼の気持ちは少年のように無垢で純粋で、最初は恐る恐る龍生の言う事を聞いていた千紗だったが、素の姿を見せてもいいと思えてくる。
素朴なありのままの姿を見せても、否定されない。
何ら装飾もない、その純粋さが眩しく輝いて見える。

純粋な人ほどまっすぐで強いから。
回り道しても、最終的には長続きするから。
二人はすれ違うけれど、結局は相手を信頼した方が物事は上手く運ぶ。
相手を無償に信じる事は、とても勇気のいる事だけど、それは相手も同じであると思うようにすれば。
他人に疑心暗鬼になるより、自分が弱さを抱え持ったままでも、踏み込んだ方が良いと気付く。
変に取り繕っても、格好をつけても、良い事はない。
そして、龍生の「会社にゆとりがないから新人に即戦力を求めてしまう、新人を育てるゆとりがない」という真摯な指摘に、千紗は会社に改善案を提出する行動力を見せる。

千紗の、自分にも他人にも余裕がない様子に、「思い切って、他人に任せてみる」という龍生のアドバイスは的確に心を癒やす。
何でも自分でやろうとする事はない。
出来ない自分を認めて、出来る人に委ねればいい。

龍生に対する周囲の反応は過剰にも映る。
ちゃっかりした性格の龍生の妹・莉衣奈がとても、良い性格をしている。
見た目にも負けず、彼がやさぐれずに生きてきたのも、妹を歪みなく育てるのに必死だったからだろう。

最初は物騒な噂のせいでビビりっ放しだった千沙が、龍生とのデートを重ねていくうちに彼の持つ優しさや魅力に気づき始める。
彼の事を大切に想うようになっていく姿は、甘々で不器用な二人の恋模様が実直に描かれる。
スマートでエレガントなエスコートではないにしろ、等身大でありのままの接し方は信用出来て、安心出来る。

ホワイトデーに龍生の母の形見の婚約指輪を貰ったものの、自分の気持ちに自信が持てず、断ってしまう。
それでも、見ているだけ、想っているだけでは何も始まらないと。
一歩勇気を出して踏み出した事で、その誠意を認めてもらえた。

最後は、二人のメルヘンチックな追いかけっこで幕を閉じる。
片方は鈍器で殴られると思って逃げているのに、もう片方は、野原や砂浜の上を恋人気分で駆け抜けているという何処か滑稽で錯乱的だけど、チョコレートのようなほろ苦い幸せが身を浸す。

恋愛とは、盲目になる事であり、脇目も振らず、相手に注目してしまうからこそ、後から振り返った時に何処か小っ恥ずかしい思い出となる。
意中の相手の事を、心に浮かべると、胸に差し込む甘い痺れが生まれるけれど。
仮にからかわれて、騙されていたとしても。
それさえも、許してしまえるくらいの大切な人と出会える事。
端から見れば、おかしいと思われるかもしれない。しかし、その混乱している心こそを、ダイレクトに受け入れる事が、自分を成長させる証となる。

何処かズレていても素朴で優しい龍生の事を知ってゆくうちにいつのまにか大切な存在になって、代わり映えのない世界も変わってゆく。
そんな不器用な二人の恋は甘くて、もどかしくて、受け入れられるような優しさがあった。
仕事をして、社会の為に齷齪と働く中で、ほんの束の間でも、ほっと一息つけるような互いが居場所に成り得た二人。

自分の誰が見てくれているか分からない頑張りも、誰かがちゃんと応援してくれているんだという認識に変われば、仕事に対する姿勢とモチベーションも変わってくる。

恋を始めるのはいつからだって遅くない。
きっかけはなんだっていい。
恋をすれば、必ず今の自分から何かが変わる。
愛するという事は、今の自分を忘れる事だから。
誠実に生きていれば、いつかちゃんと自分の事を考えてくれる人と巡り会える。
真剣に恋愛をするには、自分自身の心のキャパシティーを少し空けて、ゆとりを持たせる事が大切であり。
そんな自分の気持ちを素直に伝えられる相手と関係性を築いていく事が大切である。

歳を重ねるほど、昔のように一途に相手を愛するピュアさが失われていくけれど。
そんな荒んだ心中でさえも、出逢う人々の人となりに興味関心を抱き、自分の先入観ばかりに囚われなければ。
自分が好きになれて、そんな自分を好きになってくれる人と巡り会えるはず。
そんな紆余曲折を経て、間違いや失敗も体験しながらも、恋する尊さとときめきを思い出して、取り戻していく。

そして、辿り着く二人だけの、珠玉の素敵なハッピーエンド。

純朴な心を通じ合える二人は、周囲に祝福されながら、どこまでも甘い幸せな関係を築くのだ。












 

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