読書記録:コミュ症なクラスメイトと友達になったら生き別れの妹だった (講談社ラノベ文庫) 著 永峰自ゆウ
【友情と愛情の裏側にある秘密、不器用な積み重ねの先にある物】
皆の理想の友人として生きる英治郎は、コミュ症な同級生、未悠が生き別れの妹だという秘密を知る事になる物語。
誰に対しても誠実であろうと生き様を貫いた結果、ある種の八方美人のような、皆にとって都合の良い存在になった英治郎。
そんな彼に人気者の志穂が告白するものの、誰かの特別になる訳にはいかず、苦渋の決断を下す。
確固たる目的と目標の中で孤独な少女、未悠の過去を知る事でその秘密を守り抜く決意をする。
彼女の窮地と願いを聞き届ける中で。
そもそも、秘密には様々な種類がある。
バレてはいけない秘密という物と明かした方がいい秘密という物がある。
明かしてはいけない秘密とは、今ある人間関係を揺るがしてしまう物で。
既に、築かれている人間関係を破壊してしまう秘密は明かさない方が良い。
クラスの中でもカリスマ的存在である、志穂の告白を「今は恋に興味がない」という嘘みたいな理由をつけて断った英治郎。
どうして、そんな嘘をついたのか?
それは過去の経験則から、誰とも深い関係になろうとせず、「皆の理想の友人」となって、居心地の良い空間を作ると言う目標があったから。
誰かと深い関係を築いてしまえば、その目標は瓦解してしまう。
だからこそ、彼は告白を断ってしまったのである。
しかし、もちろんそんな手前勝手な理由で、本気で告白してきた志穂の気持ちを無碍にしてしまう罪悪感もある。
その罪を贖おうと、英治郎は志穂が気にかけているクラスメイトと関わろうとする。
そのクラスメイトは、未悠。
長い前髪で目元が見えず、話しかけると呪われるとさえ噂される不憫な彼女。
だが、関わろうとした矢先で、彼女が落としたペンダントから驚愕の事実が発覚する。
それは、英治郎と未悠が双子の兄妹であって、生まれた直後に家庭の事情によって、離ればなれとなった事実である。
彼女にそんな秘密がバレるのを防ぐ為に、彼女の今の生活を慮って、距離を取ろうとするも、勇気を振り絞った彼女から「友達の作り方を教えて欲しい」と嘆願されて。
その想いを突き放すほど鬼にはなりきれず、根暗な彼女の意識改革から始めて。
まずはイメチェンから、と様々な情報を集めて、奔走していく事となる。
その奔走を、志穂に見られて誤解されたり、その誤解を解く為に逆に彼女に仲間になってもらったり。頼れる友人である遥翔と紗季も巻き込んで、少しずつ未悠を改革するグループを結成していき。
次第に他人とのコミュニケーションも自然になっていく。
そうやって、人と関わっていく事で、少しずつではあるが、未悠は受け入れられていって、彼女は孤独だった世界に居場所を見つけていく。
そんな順風満帆な裏で英治郎の心は迷い出してしまう。
未悠の現在の両親との邂逅。
そして、彼女の成長を見守る過程で。
もう未悠の隣に居なくてもいい、むしろ自分が傍にいる事で、彼女を不幸せにしてしまうと。
敢えて、周りを巻き込んで自分が悪役となってでも、皆から距離を取ろうとする。
実の妹である未悠を友達としてプロデュースしていく。
しかし、当の英治郎には自分が兄だとバレてはいけない縛りがある。
英治郎は、未悠が養子に出された事実を一方的に知っている。
本当は誰よりも人に配慮出来て、優しい未悠に友達を作ってやりたいが。
クラスメイトは彼女を「魔女」だと囃し立て、距離を置こうとする。
誰にも頼らずに問題を解決しようとする中で、未悠が何故、そこまで自己評価が低いのか、理由を知っていく事になる。
その原因が少なからず、自分にあったと気付いた英治郎は、「皆の理想の友人」という目標を捨て去って、周りから離れようとする。
それは、過去に犯してしまった間違いの焼き直しで。
それに気が付かず、逃げ出そうとする英治郎を未悠が引き止める、友達として。
止められてから初めて気づく、自分のこの行為がどんな結果を生んでしまっていたのかという事を。
あの日、自分が持ち得ていなかった物を。
もう同じ過ちを繰り返したくない。
だからこそ今、選んだ。
新しい未来へと繋がる、あの日とは違う選択を。
未悠を助けようと不器用な行動を続けていく事で、
クラスカースト上位の志穂の協力まで漕ぎ着けて、
周囲の未悠に対する冷たい無理解の感情が溶けていく。
英治郎の日頃の行いと未悠に対する本気の想いが、皆と積み重ねてきた信頼が、断絶したそれぞれの心の壁の橋渡しとなっていく。
隠してきた秘密のその裏側にあった、今まで必死に積み上げてきた物に助けられていく。
そんな積み上げた物に助けられて、孤独だった未悠と新たな友情を始めていく。
ただ、兄妹という秘密は英治郎しか知り得ない。
いつか、その秘密が未悠に露呈してしまった時、彼らの恋と友情はどうなってしまうのか?
そんな一抹の不安を抱えながらも、英治郎の不器用な積み重ねが、未悠に確かな自信をつけさせるのだ。
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