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読書感想:今夜、きみの涙は僕の瞬く星になる (スターツ出版文庫) 著 此見 えこ

【心の傷から生まれた涙を君は受け止めてくれたね】


【あらすじ】
君だけに見せた心の傷も

いつか笑える過去になるのかな

恋愛のトラウマのせいで、自分に自信が持てないかの子。あるきっかけで隣の席の佐々原とメールを始めるが突然告白される。学校で人気の彼がなぜ地味な私に?違和感を覚えつつも付き合うことに。しかし、彼はかの子にある嘘をついていて…。それでもかの子は彼の優しさだけは嘘だとは思えなかった。「君に出会う日をずっと待ってた」彼がかの子を求めた本当の理由とは…?星の見える夜、かの子は彼を救うためある行動に出る。そして見つけたふたりを結ぶ真実とは――。切なくも希望に満ちた純愛物語。

Amazon引用

SNSで、見知らぬ人と簡単に繋がる事が出来る現代の少年少女の物語。


交流が容易だからこそ、心の一番柔らかい所を曝け出す事で、思わぬしっぺ返しを食らう事がある。
過去のトラウマで、恋愛に対してマイナスなイメージを持ってしまうかな子。
偶然のきっかけで、クラス内で人気の佐々原と交流する事で、遂には告白される間柄になる。
日陰者の自分に微笑んでくれる佐々原を不審に思いながら、繫がりを深める中で顕となる彼の隠された秘密。

現代の必至なコミュニケーションツール、ラインの使い方も人それぞれだろう。
どうでも良い事をまめに報告してくる人。
返信がやたら遅くてなかなか既読がつかない人。
スタンプや絵文字を多用する人。
長文を一気に送ってくる人。
さっぱりした後腐れないやり取りがしたい人もいれば、しつこくつきまとうようなやり取りを好む人もいる。
そういったやり取りの違いがある中でも、交流が長く続く人達は、ひとえに相性と価値観の問題だろう。

ラインという連絡手段が、現代社会に溶け込みすぎているが故に、その何気ないやり取りで傷付く人や悲しむ人が居る事に当事者は気付けない。

自分の衝動欲求を満たす事を最優先にして、相手の気持ちを慮ろうとしない一方通行のコミュニケーションは果たして会話をしていると言えるのだろうか?

SNSの発達によってコミュニケーションが気軽になりすぎた故の弊害は間違いなくある。
人といつでも繋がっている事で、幸せを感じて安心出来る人もいれば、その束縛的関係がしんどい人もいるのもあって当たり前の感情。
それを社会は画一的なルールで抑えようとするから、おかしな事になるのは必然だろう。

前の彼氏とのラインのやり取りを引きずるかな子。
そんな彼女に接触をはかろうとするクラスの人気者の佐々原。
地味な自分に、何故、華やかな彼は関わろうとするのか?
訝しみながら関わり続ける中で、佐々原の優しい嘘に気付いていく事になる。
恋愛がトラウマであった筈なのに、もう一度恋をしてみようと前向きに思えた。

かな子と出会う日を待ち焦がれていた佐々原の本当の目的と、そこに息を殺して潜む、切なく痛みに満ちた理由。
それを知ったかな子は星が降る夜に、佐々原を救う為の、大胆な行動に出る。
その行動はけして賢いやり方ではなかった物の、今のかな子が出来る精一杯のやり方で。

あの日、佐々原のついた嘘は生涯忘れる事はないだろう。
なぜならば、心に古傷を負った自分の涙を拭ってくれたから。
一人では恋は出来ない。
二人だからこそ、この暗中模索な現代で真実に辿り着く事が出来る。
その真実は身を苛むような鋭い痛みに満ちていたが、その痛みを乗り越えた先には、過去を笑い合って迎えられる希望の未来が拡がっていた。

他人の気持ちは簡単には分からない。
それは、今も昔も同じ。
ラインが発達した現代でもコミュニケーションの齟齬は必ず起こる。
だからこそ、大切な事はツールに頼るのではなく、直接、顔を合わせて話しをする事が重要で。
自分本意でなく、相手の気持ちを想像するのが大切で。
そんなアナログなやり方が、意外と人と人を繋ぐ架け橋となる。

哀しみで流した涙はやがて目が醒めるような輝きを放つ星となるから。
その涙を無駄にしない為に、眠れない夜を一つずつ越えていく。

優しい嘘を受け止めて、涙を認める人を大切にするのだ。




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