読書記録:男子だと思っていた幼馴染との新婚生活がうまくいきすぎる件について (角川スニーカー文庫) 著 はむばね
【通じ合う親愛の情を越えた先にある、二人だけの絆】
名家が出自の秀一は、偶然にも幼馴染である唯華と再会する事で、想いが通じ合い順風満帆な新婚生活を目指す物語。
気心知れた相手との関係は空気感も含めて居心地の良い物である。
そんな相手と結婚出来たら、どれだけ新婚生活は潤沢に楽しいだろうか?
名家の産まれ故に、今まで打算目的で近付く者が多く、人に心を開けないでいた秀一。
しかし、元来の幼馴染である唯華だけは違った。
相思相愛の二人は晴れて結婚する事になり。
そこから派生した新たな人間関係の中で。
そもそも、「結婚」とは成人になるまでは、両者の合意だけではなく、両家の両親にも納得してもらわなければならない。
互いの人生を預かるのだから、それに伴う様々な弊害も生まれる。
そこで、人生経験を自分達より積んでいる親にアドバイスをもらう事で、結婚という行為の本当の意味を学んでいくのだ。
それを踏まえた上で、親からすると未成年の結婚とは経済的な観点からも情緒的な観点からも、簡単には賛成出来ない複雑な心境がある。
愛さえあればどんな困難も乗り越えられると理想を宣ったとしても、そんな綺麗事で渡り歩けるほど、世の中は甘くない。
親友同士だから、互いの事は一番に理解出来ると信じている秀一と唯華。
女子と分かって意識し始める秀一と、ずっと積年の想いを温め続けた唯華。
とんとん拍子に話が進んで、同棲が始まり、同じ家で暮らす事になる。
クラスへ転校してきた唯華と学校では友人として振る舞う事を取り決める中で。
あっという間に唯華は秀一の傍に居ついて、自分のコミュニティをたくましく作っていく。
唯華のボディーガードを秘密裏でしていた少年、瑛太や圧倒的コミュニケーション能力を誇るが、どこか抜けている陽菜。
実は唯華の事が大好きだった秀一の妹、一葉を交えながらも、少しずつ派生した騒がしい日々を積み重ねていく。
唯華の料理の腕前に驚かされたり、二人でゲームで盛り上がったり。
二人で思い出の場所を巡ってみたりする。
瑛太や陽菜を交えて、皆で勉強会をしたり、小旅行に繰り出したり。
そんな日々で、取り戻していくあの日のような距離感。
大切な物を積み重ねていく中、あと一歩がもどかしくて踏み出せなくて。
それでも互いを意識してしまう恋心が重なっていく。
様々な人間と関わっていく中で、改めて気付かされる唯華だけが本当の自分を愛してくれているという事。
誰しも自分のメリット、デメリットを考えた上で、人付き合いを選んでいく中で。
自分の損得よりも、相手の気持ちを優先してくれる人こそを大切にしていくべきだという事。
同居していく中で、その想いは確信へと変わり、阿吽の呼吸のような熟年おしどり夫婦のような心地よさが全身を包み込む。
そんな、互いの痒い所をすぐさま手が届く彼らだったが、互いの「親愛の情」に対する認識のズレを抱えていた。
唯華は恋愛で秀一は友情であり、秀一は親友のように唯華に接してくれるが、唯華は本心では秀一に愛情を抱いているので、表では気心の知れた幼馴染みとして振る舞っているようで、裏では虎視眈々と彼を落とす策を弄そうとする。
子供の頃のような自然体な付き合いをしたいし、相手と更にもう一歩先へと進んだ関係へと発展したい。
何も言わなくても、眼を見つめ合えば、通じ合える距離感。
親友だからこそ、言わなくても、気持ちが分かり合える。
それでも大切な事はちゃんと言葉にして欲しい。
そんな唯華の言外の気持ちをちゃんと察して、最大の障壁である唯華の祖母の試練を乗り越える為に、有言実行してくれた秀一。
あの日と変わらない友情の延長線上、新たに重ねるのは「夫婦」としての恋心。
だからこそ、何となくから始まったその関係が「本物」に変わるのは当然の事。
それは、あの日の想いと新たな願い。
重ねて思い続けた相手への気持ち。
取り戻していく友情の中で育まれる新たな恋心。
苦難を乗り越えて、始まったばかりの新婚生活。
そこから紡がれていく、二人だけの夫婦の形。
確かに恋から始める、それが普通。
でも、結婚から始めたっていい。
それが、自分達ならではのやり方だから。
恋愛のプロセスは十人十色だからこそ、二人ならではの絆を深く結んで行くのだ。
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