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読書記録:異修羅I 新魔王戦争 (電撃の新文芸) 著 珪素

【魔王が齎す暗黒の時代は終わり、英傑を決める闘争が始まる】


【あらすじ】

魔王が倒された後の世界。

そこには魔王さえも殺しうる修羅達が生き残った。

一目で相手の殺し方を探り当てる異世界の剣豪、柳の剣のソウジロウ。
音すら置き去りにする神速の槍兵。
伝説の武器を三本の腕で同時に扱う鳥竜の冒険者、星馳せのアルス。
一言で全てを現実にする全能の詞術士、魔才の持ち主、世界詞のキア。
不可知でありながら即死を操る天使の暗殺者。

あまねく種族、能力の頂点を極めた修羅達はさらなる強敵を探し求めて。
『本物の勇者』という称号を手に入れるべく、新たな闘争の火種を生み出す。

全員が最強、全員が英雄、一人だけが勇者。
命を削り合い、『本物』を決めるバトルロイヤルが今、幕を開く。

あらすじ要約
 

魔王が倒された世界で、異能者達が本物の勇者を求めて闘争が始まる物語。 


たとえば、ライオンとトラが本気で戦ったらどちらが生き残るか気になる人もいるだろう。
古来は、山田風太郎の「甲賀忍法帖」であったり、現在は、「Fate」シリーズの聖杯戦争であったり。
最強の矛と最強の盾がぶつかった時、どちらが勝つのか気になってしまうだろう。

「一体、どちらが強いのか⁉」
純粋に、その力のぶつかり合いの行く末を読者は見届けたいし、その闘いでどちらがどのように勝つのか予想するのも、バトルものの醍醐味であり、ロマンである。

そして、生き残った最強が世界に蔓延る恐怖を、かき消すように振り払ってくれる事を民は願う。

世界には恐怖よりも強き力があると。
本物の希望の光とは、その存在自体が絶えず光輝き、周囲を明るく照らし出す。
民を希望に導く本物の勇者が今の世界には必要なのだ。
その革命の剣閃を持つ異世界からの来訪者、客人の来襲によって。
ナガン市に空前絶後の戦争が開幕する。
新たな国家を盤石にするべく、象徴としての勇者を求める現状。
魔王も勇者も正体不明、だが勇者を名乗るに相応しい強者は無数にいる。
我こそは、と名乗りを上げる強者達が血で血を洗う闘争を繰り広げる。
超人、魔人、達人、化物を一つの容器に入れて競わせる、まさに蠱毒の壺。

印象深いのは、剣士VSドクロの槍遣いの能力の読み合いや、改造された魔獣に搭乗する女性VS凄腕の盗賊の騙し合いは、一瞬の攻防であっさりと雌雄が決する緊迫感がヒリヒリと伝わってくる。

ただ、一般市民のユノにとっては、強者は己が奪う側にいるという怠慢と傲慢があり、踏み躙られる弱者の悲惨さを慮らない無関心が戦禍を引き起こすと考える。
言ってしまえば、この世界の大多数は弱者である。
覇権を握る強者はごく僅かである。
であるからこそ、少数の強者が真にこの世界で生き残る為には、圧倒的大多数である弱者をちゃんと慮らなければならない。
いくら、最強であっても一人きりではこの世界に礎を残す事は出来ない。

鳥竜(ワイバーン)の夕暉の翼レグネジィと、盲目の少女・カーテが結び絡み合った、切実な絆がそれを教えてくれる。
確かにそうである。
「強さ」とは単に武力だけを指すのではない。
駆け引き、応酬、取引、策謀、大局観。
そして、勝つ為には手段を選ばない事。
翻って、大切な守るべき物がある優しさも必要で。
最強である事だけでは、生き抜けない権謀術数渦巻く世界の中で、強さに相応しい責務がある。
それこそが、ノブレス・オブリージュである。

しかし、まだ闘いは始まったばかり。
あくまでも、彼らにとっては「トーナメントバトル」の「予選」でしかない。
壮大なプロローグが紐解かれる中で。

民達はただただ仰ぎ見る。
自分達の到底、及ぶはずもない、修羅達の魂の狂宴を。
人外の力を宿す者も、命を賭ける覚悟を抱く者も。
この闘いでは、全ての命が平等にあっけなく、散り果てる。
まるで蝋燭の火を、一瞬で吹き消すかのように。
蝋燭の火は消える瞬間こそが、一番燃え上がる。
そして、命は無限に続くのではなく、有限だからこそ、それを輝かす為に足掻く事が出来る。
終わりがあるからこそ、その儚い輝きは眼が醒めるように美しい。

そんな激動の中で、修羅達のバックボーンが死闘の中で語られ、黄都と新公国を巡る戦禍の中で。
彼らが激突した果て、本物の勇者を決めた先で世界に安寧は訪れるのか?

血沸き肉踊る、魂を燃やして、しのぎを削る修羅達の戦いの行方とは?
英傑の栄冠を誰が手にするのか。
そして、弱者に希望の光を与える真の勇者は現れるのか?

異能者達の修羅の果てに待ち受ける戦果とは、果たしてどのような物になるのだろうか?







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