【掌編】 乙女、締めは締めなれど
「そろそろ締めようか」
大いに喋って、それから大いに飲み食いして。宴の後のやや気怠い空気の中、恭子が言いながらメニューを手にした。最後のページにはアイスやケーキ、デザートが載っている。
女子会の締めは甘いもの。いくつになってもこの不文律は破られない。
「決めた?」
せっかちな恭子は尋ねると同時に呼び鈴に指を添えている。これも学生時代から変わらない。
「うん、バニラアイス」
「あたしはカルーアミルクにする」
「それデザートじゃなくない?」
「デザートよ。締めのスイーツ」
バニラアイスと同じでしょ、と酔っぱらいがうたう。その理屈はなにかおかしい、と頭のどこかが主張するが、八割方酒精に浸かった思考ではうまい反論も浮かばない。まぁ、そもそも反論の必要性もない。
「もうパフェじゃないんだ?」
いつものパターンであれば、と聞けば、胃袋の耐久性がね、と返ってきた。
「あの鋼の胃袋も年には勝てないわけか」
「好みの変化もあるかなぁ」
「ああ、わかるわ。昔はこんなのも特に美味しいと思わなかったし」
ほんの少しグラスに残ったウイスキー。
初めてお酒を飲んだ頃、もっぱら私が好きだったのは冷えたビール。今でももちろん好きだけれど、大人の女子会にはトロリとしたこの琥珀色が良い。
ウェイターがデザートを運んで来るとともに空いた食器を引き上げてくれたが、これはまだ、と留める。名残惜しいのはアルコールか、旧友とのおしゃべりか。
「子供の舌って敏感じゃない。苦味イコール危険って判断するわけよね。年とともにそれが鈍感になって、美味しいって錯覚するの」
「鈍感になってよかったわ。大人の特権」
「確かに。鈍感バンザイ!」
雪を固めたようなバニラアイスと、柔らかな珈琲色のカルーアミルク。形は違えど透明のガラス同士がカツンと手を打つ。私達も、形は変われど、あの頃と同じように。
(半年くらい前?に書いたものをお焚き上げ)
(いい感じのバーに行きたい)
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