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読書感想文【こうしてイギリスから熊がいなくなりました】

2009年 ミック・ジャクソン、絵:デイヴィット・ロバーツ
2018年 田中志文 訳


不思議な本を読んだ。
普段読まない類のものは、やはりnoteの記事がきっかけである。
とりあえず皮肉が効いてて、寓話的で、そういうお話なんでしょ。と、それくらいの事前知識だけだったのが悪かったのか良かったのか。

本を開く前にまず、知っておかねばならないのは「イギリスには熊がいない」という事実である。
以下はネタバレを含む感想なので、タイトルの奇妙さ、イラストの不思議な魅力に惹かれて件の本を読んでみたいと思った方は、どうかこの記事は後回しにしてほしい。

さて自分だが、恥ずかしいことにその事実を知らなかった。
熊がいないなんて、そんな訳はないだろう。だからこのタイトルはなにかの比喩であり、熊というのはイギリスが歴史の途中で失った信念だとか文化だとかの象徴ではないか。
などと考えていた。

イギリスの熊事情については本編を読み終えた後、巻末の訳者あとがきに詳しい。というか「普段は『ネタバレあるから先に本編を』というが、今回ばかりはこちらで補足しておきたい」と訳者が書かれる通りだと思う。
この解説を読んでからもう一度本編を読み返すと、また違った味わいがあるし、深い理解が得られるだろう。
一粒で二度美味しい、とでも言おうか。挿絵が沢山あることも含めて、大人の絵本という印象である。

この本は「精霊熊」「サーカスの熊」「下水熊」など、様々な境遇にいる不思議な熊について、短い話をまとめた一冊である。
人間より遥かに大きく強い体を持ち、恐れられ、嫌われ、生物として弱い人間に不当な扱いを受けてきたイギリスの熊。
一話ずつ、それぞれ奇妙で面白い。そしてそれらの行く先が分かった瞬間が一番、面白いだろう。

凝りに凝った推理モノのような痛快さではなく、例えば歴史の勉強である国の盛衰が遠く離れた国の未来につながるのを紐解いていくような、地味だが確実な面白さがある。
結論から言えば寓話であり、当初に持った印象も全く見当違いというわけではないかもしれない。ただ想像していたよりずっと具体的で現実的で、冷静な物語だった。

イラストと訳者のあとがきと、合わせて二度、三度、楽しみたい本。
教えてくださった記事に感謝を込めて。


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