動きすぎてはいけない!?――十三不塔『ヴィンダウス・エンジン』(ハヤカワ文庫SF)

(2020年12月20日シミルボン記事の再掲)

動かないものが見えなくなる奇病ヴィンダウス症。治療法がなく患者は徐々に世界を認識できず、やがて「白離」状態を経て、死に至る。主人公キム・フテンは、ヴィンダウス症から奇跡的な回復を遂げる。彼を除くと1名しかいないヴィンダウス症の回復者として、ある研究に協力するように頼まれ、中国へと向かう。そこで彼を出迎えたのは、それぞれの思惑を秘めた人たちであった。

第8回ハヤカワSFコンテスト優秀賞受賞作品。惜しくも大賞は逃した。デビュー作ということもあり、選評にある通り、まだまだこれからの部分もある。が、特に面白かった点はいくつかある。

動いているものが認識できなくなるヴィンダウス症。そもそも人間は完全に静止しているものは見えない。眼球が常にブレているので、止まっていると認識しているものも、実は「動いている」ものとして認識している。この手ブレ付加機能(手ブレキャンセルカメラの逆機能)が阻害され、止まっているものを認識できなくなるのがヴィンダウス症なのだ。この病気の設定、克服法、回復者のもつ能力が面白い。

そもそも日本が出てこない。ちょっとかするぐらい。主人公は韓国人。たいはんの舞台は中国のハイテク都市。物語の背景にある社会問題も、韓国の徴兵制や、中国の一人っ子政策、さらには資本とテクノロジーと結託した全体主義、である。今と地続きの日本を舞台にするのをためらうのは、たしかによくわかる。

続編あってもよいかも? と思わせる世界観であった。


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