量的データと質的フレームで示す若者の読書--飯田一史『「若者の読書離れ」というウソ 中高生はどのくらい、どんな本を読んでいるのか』(平凡社新書)評


➀若者は読書しなくなっているのか?

本書は、「若者の読書離れ」が事実なのかデータに基づき検証している。タイトルにあるのでネタバレではないから言うが、「若者の読書離れ」はウソだ。第1回が2000年に実施されたPISAの学力到達度調査で読解リテラシーが振るわず、他地域と比べて「趣味で読書する」人も少ないとされた。90年代から業界団体から政治への働きかけ、学校図書館の充実などがあったが、200年のPISAの結果を受け、読書推進策として「朝読(書)」運動が活発になる。小中学生は学校で読書をするし、学校外での読書も昔よりするようになったと、筆者はデータで示す。

➁本を「読まない」のか「読めない」のか

小中学生の読書量は増えた。高校生は不読率は減ったものの、冊数は増えない。大学生は、昔と大学に通う学生層が変化したこともあり、本を読む人は減っている。ここ数十年の日本人全体の読書量を見ても極端な増減は見られない。社会が変化し、インターネットが普及し娯楽が多様化したにも関わらず。

「まとめると、高校生以上の日本人は、ふたりにひとりが書籍を読み、月1~2冊読む人が全体の3割。書籍を読まない人も含めた全体では、分量にして月に平均1~2冊程度の読書量になる。(…)そしてテクノロジーが進歩しようが、教育政策が変わろうが、高校生以上になると書籍読書の変化の幅は限定的である。それが遺伝的にもっとも心地よく、遺伝の影響のほうが外部環境から受ける影響よりも強いからだろう。(51)

本書p.51より

筆者は「読まない」と「読めない」の違いは、見かけ以上にあいまいであると指摘している。「機会や習慣、訓練を受けていないから「読まない」ので、これらを与えたらどうか?」と読書推進(政)策は提案するが、そもそも遺伝的影響で「読めない」人もいる。言われてみればその通りなのだが、言われてみるまで私もあまり意識してこなかった点だ。

この場合の遺伝的影響とは、親が読書をする習慣を持っていれば子供も読書をする習慣をもつ、という習慣の遺伝を指しているのではない。脳の器質的に、読書ができて、読書を好むタイプと、文字で情報を得ることが苦手なタイプに分かれることを指す。すべての人間が本好きになるわけではない。すべての人に読書を推奨することは(特に学校教育において)入り口としては良いだろうが、読書が苦手な人もいるわけで、強制するべきではない。学力アップに読書が推奨されることがあり、語彙の獲得に読書は効果があるようだ。とはいえ、読書をしたら「国語のテストで高得点をとれる」といったはっきりとした因果関係は(これまでのところ)ないので、読書は楽しくやるのが一番なのだろうと思う。逆に言うと、これだけ趣味が多様化し、コスパやらタイパやら大人も子供も気にする時代において、それでも本が読まれ続けているというのは、人類にとって本がいかに大事なメディアであり、娯楽であり、楽しみであり続けていることを物語っているのではないか。

➂中高生はどんな本を読んでいるのか?

データをひきつつ状況を整理したあと、筆者は中高生の3つのニーズと、それを満たす4つの型を提示し、人気作品を紹介していく。このフレーム(枠)がしっかりしているので、具体策を追いながら中高生のニーズ・型、読書傾向をつかむことができる。

3つのニーズは
➀正負両方に感情を揺さぶる
➁思春期の自意識、反抗心、本音に訴える
➂読む前から得られる感情がわかり、読みやすい

4つの型は
➀自意識+どんでん返し+真情爆発
➁子どもが大人に勝つ
➂デスゲーム、サバイバル、脱出ゲーム
➃「余命もの(死亡確定ロマンス)」と「死者との再会・交流」
である。

(これは本書の読書論からは離れるが、デスゲームが中高生に定着している事例として人狼をあげたい。1999年『バトルロワイヤル』(2000年の映画版)以降、一大ジャンル(型)となった「デスゲーム」(「バトロワもの」)だが、最近の中高生(小学校高学年を入れてもいいだろう)は、カードゲームの人狼をよくやる。宿泊行事の定番カードゲームと言えばながらくトランプとウノだったが、ここ十年で人狼が加わった。カードゲームでやる人狼は、純粋な論理でやらない(やれない)。ネット掲示板でやる非対面式&匿名の人狼とはことなり、カード式人狼は対面でやり、推理にはどうしてもカードの持ち主のふだんの振る舞いが入り込むからだ。それは人狼なのか? と思うかもしれないが、これも人狼なのだろう。ちょっとしたデスゲームを中高生は楽しむ。)

本書は量的なデータだけではなく、質的なフレーム(枠組み)を提示し、10代の読書がどのようなものか説得的に示している。どうやれば10代の読者に届くのか具体的な提言もしているが、そもそも「読まない人」「読めない人」もいることに注意を促す。もちろん、読書を楽しむ層は確実にいるので、その層に効果的にアプローチするには、量・質の分析は必須。いつまでも「最近の若者は本を読まない」と言わないように(自戒)。むしろ、これだけ社会環境が変化しているのに読書する層が一定数いることに、私は希望を見た。

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