海老原豊

評論家。SF、ミステリ、文学。近著『ポストヒューマン宣言』(小鳥遊書房)

海老原豊

評論家。SF、ミステリ、文学。近著『ポストヒューマン宣言』(小鳥遊書房)

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  • 『ディストピアSF論――人新世のユートピアを求めて』

    新刊(単著)『ディストピアSF論――人新生のユートピアを求めて』(小鳥遊書房)の内容を紹介していきます。

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記事一覧

「ゴミの生活」を復活させた

「ゴミの生活」とは、私が大学生の頃に書いていた日記ブログのタイトルである。サイトはもとより元のデータもない。何を書いていたかはわからないが、「ゴミの生活」とタイ…

海老原豊
3日前
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これもまた「未達の感覚」なのだろうか…?ーー澁谷知美、清田隆之『どうして男はそうなんだろうか会議 いろいろ語り合って見え…

澁谷知美と清田隆之が聞き手となり「男性問題」に関係するゲストと「どうして男はそうなんだろうか」と率直に語りあった本。以下、興味深いと思った点をメモ的に記してみた…

海老原豊
3日前
4

責任の無化をお引き受けします!ーー吉村萬壱『CF』(徳間書店)書評

CF=Central Factory、巨大企業。事業内容は犯罪者の責任を無化すること。それに伴い被害者の感情、特に加害者への復讐心も緩和される。巨大な工場で怪しげな液体をただ攪…

海老原豊
3日前
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新刊『ディストピアSF論ーー人新世のユートピアを求めて』(小鳥遊書房)取り上げたSF作品紹介

2024年6月末発売予定の新刊がAmazonで予約できます。 再校ゲラを戻し表紙デザインも完成しました! 第1章◉古典的ディストピア—三部作から二一世紀ディストピアへ ジョ…

海老原豊
3日前
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10年後の日本ーー村上裕一『ネトウヨ化する日本』角川EPUB選書

積読10年の答え合わせ 2014年の本。サブタイトルは「暴走する共感とネット時代の「新中間大衆」」。新中間大衆には「フロート」とルビがついている。実は、本が出た直後に…

海老原豊
4日前
4

日本語不安は実は日本文化不安ーー佐々木テレサ、福島青史『英語ヒエラルキー グローバル人材教育を受けた学生はなぜ不安なのか…

早稲田大学国際教養学部出身で、早稲田の大学院日本語教育を修了した佐々木の修士論文をもとにした論考と、大学院での指導教員である福島による解説からなる本書。本書での…

海老原豊
11日前
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ポストトゥルースの起源を求めて――リー・マッキンタイア『ポストトゥルース』(人文書院)

ポストトゥルースとは「公共の意見を形成する際に、客観的な事実よりも感情や個人的な信念に訴える方が影響力のある状況を説明するないしは表すもの」と本書ではOEDの定義…

海老原豊
13日前
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『ディストピアSF論――人新世のユートピアを求めて』(小鳥遊書房)目次紹介

新刊紹介です。 ディストピアと聞くと「監視+人工知能」「人間の動物的欲求に最適化されたアルゴリズム」を思い浮かべるかもしれない。もちろん監視の問題も扱うが、その…

海老原豊
13日前
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男が女になることを義務付けられた世界で――田中兆子『徴産制』(新潮文庫)

徴産制…「日本国籍を有する満十八歳以上、三十一歳に満たない男子すべてに、最大二十四カ月間「女」になる義務を課す制度。二〇九二年、国民投票により可決され、翌年より…

海老原豊
13日前
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ひとりぼっちの火星から2000人の住む月面都市へ――アンディ・ウィアー『アルテミス』早川書房

(シミルボン2020年2月14日投稿 500メートル四方の空間に、連絡路で結ばれた5つの地上・地下ドームからなる月面都市アルテミス。2000人の人間がそこで生活している。主な…

海老原豊
2週間前
2

ポルシェ太郎に人類の革新をみた!?――羽田圭介『ポルシェ太郎』(河出書房新社)

(シミルボン2019年12月5投稿) 車小説。零細イベント企画会社の社長・太郎が、ちょっと背伸びをしてポルシェを買う。で、世界が変わる。要約すればそんな話だ。 ポルシ…

海老原豊
2週間前
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なぜ彼らはいつもスプーンを曲げるのか問題――森達也『オカルト 現れるモノ、隠れるモノ、見たいモノ』角川文庫

(2019年11月21日) 『職業欄はエスパー』の続編。森達也は、彼のドキュメンタリーも見ているし、著作も何冊も読んでいる。その中で『職業欄はスパー』が最初に読んだ本で…

海老原豊
2週間前
1

新刊『ディストピアSF論――人新世のユートピアを求めて』(小鳥遊書房)が出ます!

3年ぶりの新刊(単著)が出ます! 『ディストピアSF論――人新世のユートピアを求めて』(小鳥遊書房) 6月末刊行予定です。 詳細は小鳥遊書房公式ウェブサイトをどうぞ…

海老原豊
2週間前
6

毒であり薬――藤田直哉『シン・ゴジラ論』(作品社)書評

(シミルボン2019年10月09日投稿) 「現実(ニッポン)対虚構(ゴジラ)」と銘打たれた『シン・ゴジラ』が、人々の多様な解釈・議論を巻き起こしたのはなぜか? に迫る。…

海老原豊
3週間前
2

こんなレビュワーになりたいーー吉村昭『戦艦武蔵』を紹介する大槻ケンヂ

(シミルボン2018年1月6日投稿) よし、俺も「大人の文学」を読もう…。 たしかこんな文句で紹介されていたのが、吉村昭『戦艦武蔵』だった。紹介していたのは大槻ケンヂ…

海老原豊
3週間前
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直感と推論のあいだーー綿野恵太『みんな政治でバカになる』(晶文社)

ぱっと見て「冷笑的」「シニカル」なタイトルだと思うかもしれない。このタイトルにのみ釣られて、感情的な脊椎反射で、この本を批判したくなるかもしれない。(そうした人…

海老原豊
3週間前
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「ゴミの生活」を復活させた

「ゴミの生活」とは、私が大学生の頃に書いていた日記ブログのタイトルである。サイトはもとより元のデータもない。何を書いていたかはわからないが、「ゴミの生活」とタイトルをつけていたので、たいしたことは書いていなかったのだろう。読んだ本や見た映画の感想はよく書いていた。「〜について書く」のは、好きなのだ。

大学で哲学の講義をとっていたときに、哲学者と呼ばれる人の本が書いているのは哲学ではなく哲学者につ

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これもまた「未達の感覚」なのだろうか…?ーー澁谷知美、清田隆之『どうして男はそうなんだろうか会議 いろいろ語り合って見えてきた「これからの男」のこと』筑摩書房

澁谷知美と清田隆之が聞き手となり「男性問題」に関係するゲストと「どうして男はそうなんだろうか」と率直に語りあった本。以下、興味深いと思った点をメモ的に記してみた。

「いじり」の定義不可能性

男性の支配的コミュニケーションモードである「いじり」は、はっきりと定義できない難しさがある。あるひとはコミュニケーション(の潤滑油)とし、あるひとは暴力やいじめ、ハラスメントととらえる。木堂椎『りはめより1

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責任の無化をお引き受けします!ーー吉村萬壱『CF』(徳間書店)書評

CF=Central Factory、巨大企業。事業内容は犯罪者の責任を無化すること。それに伴い被害者の感情、特に加害者への復讐心も緩和される。巨大な工場で怪しげな液体をただ攪拌するだけに集められた、責任を無化したいものたち。自らの労働の対価として十分な報酬を受け取りながら、かつ責任も無化される。なんて恵まれた職場なのかと思いきや、得体の知れない液体に接するために、体を、あるいは精神を、害している

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新刊『ディストピアSF論ーー人新世のユートピアを求めて』(小鳥遊書房)取り上げたSF作品紹介

2024年6月末発売予定の新刊がAmazonで予約できます。
再校ゲラを戻し表紙デザインも完成しました!

第1章◉古典的ディストピア—三部作から二一世紀ディストピアへ

ジョージ・オーウェル『一九八四年』(ハヤカワepi文庫)
オルダス・ハクスリー『すばらしい新世界』(ハヤカワepi文庫)
レイ・ブラッドベリ『華氏451度』(ハヤカワ文庫SF)

第2章◉監視ディストピア—スマート化された身体の

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10年後の日本ーー村上裕一『ネトウヨ化する日本』角川EPUB選書

積読10年の答え合わせ

2014年の本。サブタイトルは「暴走する共感とネット時代の「新中間大衆」」。新中間大衆には「フロート」とルビがついている。実は、本が出た直後に買っていた。村上の『ゴーストの条件』は買ってすぐに読んでいたので、次の本が出た、ということで買ってはいた。それから10年…。本棚に眠っていた本書を引っ張り出し読んでみた。2010年代の前半に書かれた本書は、2010年代がどのような時

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日本語不安は実は日本文化不安ーー佐々木テレサ、福島青史『英語ヒエラルキー グローバル人材教育を受けた学生はなぜ不安なのか』(光文社新書)

早稲田大学国際教養学部出身で、早稲田の大学院日本語教育を修了した佐々木の修士論文をもとにした論考と、大学院での指導教員である福島による解説からなる本書。本書での「グローバル人材教育」とは、日本の大学で英語のみを使うリベラルアーツ系大学教育を指す。English-Medium Instruction(EMI)とも呼称される。具体的には筆者が卒業した早稲田大学国際教養学部や、公立だと秋田にある国際教養

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ポストトゥルースの起源を求めて――リー・マッキンタイア『ポストトゥルース』(人文書院)

ポストトゥルースとは「公共の意見を形成する際に、客観的な事実よりも感情や個人的な信念に訴える方が影響力のある状況を説明するないしは表すもの」と本書ではOEDの定義を紹介されている。(孫引きもアレなので、Oxford Languagesのウェブから拾ってきた定義も貼っておくとPost-truth is an adjective defined as ‘relating to or denoting

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『ディストピアSF論――人新世のユートピアを求めて』(小鳥遊書房)目次紹介

新刊紹介です。

ディストピアと聞くと「監視+人工知能」「人間の動物的欲求に最適化されたアルゴリズム」を思い浮かべるかもしれない。もちろん監視の問題も扱うが、その他のディストピア類型も議論する。

第1章◉古典的ディストピア—三部作から二一世紀ディストピアへ

オーウェル『一九八四年』、ハクスリー『すばらしい新世界』、ブラッドベリ『華氏451度』の3作品を「古典」と呼び、これらのディストピアで何が

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男が女になることを義務付けられた世界で――田中兆子『徴産制』(新潮文庫)

徴産制…「日本国籍を有する満十八歳以上、三十一歳に満たない男子すべてに、最大二十四カ月間「女」になる義務を課す制度。二〇九二年、国民投票により可決され、翌年より施行」(本書表紙より)

田中兆子は「もし男も妊娠できるならばどうなるだろうか」という〈もしif〉を描くことで既存のジェンダー規範を攪乱する。という意味で、伝統的なフェミニズムSFである。21世紀も終わりに近づく日本は、少子高齢化、過疎化、

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ひとりぼっちの火星から2000人の住む月面都市へ――アンディ・ウィアー『アルテミス』早川書房

(シミルボン2020年2月14日投稿

500メートル四方の空間に、連絡路で結ばれた5つの地上・地下ドームからなる月面都市アルテミス。2000人の人間がそこで生活している。主な収入は観光。アルテミスからアポロ11号到着場であるビジター・センターへは、専用の電車が走っている。主人公の語り手・ジャズ・バシャラは狭い都市内部をあちこちに移動しては、荷物を運ぶポーターとして生計を立てる。住んでいる場所は都

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ポルシェ太郎に人類の革新をみた!?――羽田圭介『ポルシェ太郎』(河出書房新社)

(シミルボン2019年12月5投稿)

車小説。零細イベント企画会社の社長・太郎が、ちょっと背伸びをしてポルシェを買う。で、世界が変わる。要約すればそんな話だ。

ポルシェに限らず車は、単なる乗り物ではない。もっというと、乗り物というのは単なる入れ物ではない。乗り物=入れ物/運転手・乗客=中身、という単純な区別は成立しない。中に乗り込む人間は、外の入れ物を操作し、情報を得て、さらに入れ物を操作する

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なぜ彼らはいつもスプーンを曲げるのか問題――森達也『オカルト 現れるモノ、隠れるモノ、見たいモノ』角川文庫

(2019年11月21日)

『職業欄はエスパー』の続編。森達也は、彼のドキュメンタリーも見ているし、著作も何冊も読んでいる。その中で『職業欄はスパー』が最初に読んだ本で、今でも一番好きだ。続編ということで手にとって見た。おなじみの超能力者・清田君に、秋山眞人、ダウザー、恐山のイタコ、UFO研究家、心霊・超能力番組の制作プロデューサーなどに森が直撃取材をしている。

超能力、あるいは心霊現象につい

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新刊『ディストピアSF論――人新世のユートピアを求めて』(小鳥遊書房)が出ます!

3年ぶりの新刊(単著)が出ます!

『ディストピアSF論――人新世のユートピアを求めて』(小鳥遊書房)

6月末刊行予定です。

詳細は小鳥遊書房公式ウェブサイトをどうぞ。
https://www.tkns-shobou.co.jp/books/view/631

概要:
ユートピアがディストピアに変容するトポス(場所)を古典的な作品から現代までSFに探る。

本の紹介:
誰かのユートピアは、

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毒であり薬――藤田直哉『シン・ゴジラ論』(作品社)書評

(シミルボン2019年10月09日投稿)

「現実(ニッポン)対虚構(ゴジラ)」と銘打たれた『シン・ゴジラ』が、人々の多様な解釈・議論を巻き起こしたのはなぜか? に迫る。なぜだろう? 

ゴジラは政治・哲学が届かない〈美〉の問題をあつかう「魔法の箱」(テリー・イーグルトン)として機能している。悪夢として、そして快感として、おもわず何度も反復してしまう。もはや「神の国」ではなくなった日本の空虚を埋め

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こんなレビュワーになりたいーー吉村昭『戦艦武蔵』を紹介する大槻ケンヂ

(シミルボン2018年1月6日投稿)

よし、俺も「大人の文学」を読もう…。

たしかこんな文句で紹介されていたのが、吉村昭『戦艦武蔵』だった。紹介していたのは大槻ケンヂ。(どのエッセイ本かは忘れた)

私と大槻ケンヂの「関係」小学6年生のときに、宝島社の音楽雑誌に広告が載っていた大槻ケンヂのエッセイ本を買った。近所の図書館を回り、筋肉少女対のCDを借りてはテープダビング(!)し聞いた。中学生にな

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直感と推論のあいだーー綿野恵太『みんな政治でバカになる』(晶文社)

ぱっと見て「冷笑的」「シニカル」なタイトルだと思うかもしれない。このタイトルにのみ釣られて、感情的な脊椎反射で、この本を批判したくなるかもしれない。(そうした人もいたような…)しかし、通読してわかるのは、直感・感情に開き直るのでもなく、いたずらに揚げ足取りだけに興じる冷笑主義でもなく、その両方を行ったり来たりするのが重要であり、そのために現実を数字で功利主義の視点で見つめるシニカル(時に冷笑主義と

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