海老原豊

評論家。SF、ミステリ、文学。近著『ポストヒューマン宣言』(小鳥遊書房)

海老原豊

評論家。SF、ミステリ、文学。近著『ポストヒューマン宣言』(小鳥遊書房)

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  • SF評論本『ポストヒューマン宣言』紹介

    2021年8月に出版する自著『ポストヒューマン宣言』に関する記事まとめです。

最近の記事

毒であり薬――藤田直哉『シン・ゴジラ論』(作品社)書評

(シミルボン2019年10月09日投稿) 「現実(ニッポン)対虚構(ゴジラ)」と銘打たれた『シン・ゴジラ』が、人々の多様な解釈・議論を巻き起こしたのはなぜか? に迫る。なぜだろう?  ゴジラは政治・哲学が届かない〈美〉の問題をあつかう「魔法の箱」(テリー・イーグルトン)として機能している。悪夢として、そして快感として、おもわず何度も反復してしまう。もはや「神の国」ではなくなった日本の空虚を埋めるサブカルチャー・アイコンなのである。そもそもカルチャー(文化、宗教、サブカルチ

    • こんなレビュワーになりたいーー吉村昭『戦艦武蔵』を紹介する大槻ケンヂ

      (シミルボン2018年1月6日投稿) よし、俺も「大人の文学」を読もう…。 たしかこんな文句で紹介されていたのが、吉村昭『戦艦武蔵』だった。紹介していたのは大槻ケンヂ。(どのエッセイ本かは忘れた) 私と大槻ケンヂの「関係」小学6年生のときに、宝島社の音楽雑誌に広告が載っていた大槻ケンヂのエッセイ本を買った。近所の図書館を回り、筋肉少女対のCDを借りてはテープダビング(!)し聞いた。中学生になって行動範囲が広がったので、中古CD屋を巡っては筋肉少女帯のCDを集めた。大槻ケ

      • 直感と推論のあいだーー綿野恵太『みんな政治でバカになる』(晶文社)

        ぱっと見て「冷笑的」「シニカル」なタイトルだと思うかもしれない。このタイトルにのみ釣られて、感情的な脊椎反射で、この本を批判したくなるかもしれない。(そうした人もいたような…)しかし、通読してわかるのは、直感・感情に開き直るのでもなく、いたずらに揚げ足取りだけに興じる冷笑主義でもなく、その両方を行ったり来たりするのが重要であり、そのために現実を数字で功利主義の視点で見つめるシニカル(時に冷笑主義とさえ言われるかもしれない)な態度は、必要なものだ。 カーネマンのファストー&フ

        • 無意識データ民主主義の欠陥ーー成田悠輔『22世紀の民主主義』(SB新書)評

          民意データ(インプット)と、社会的意思決定(アウトプット)のあいだに計算式(アルゴリズム)がある。投票だけではない様々な民意データを集め、アルゴリズムによって意思決定していけば、国民は選挙に行かずとも民主主義が成立するのではないか? と(挑発的?)に成田は問う。大規模なデータ収集と適切なアルゴリズム構築で、選挙よりも良い民意反映システムを作れないか、という発想は成田に限った話ではない。成田も参照している東浩紀『一般意志2.0』がすぐに思い浮かぶが、その東浩紀も近著『訂正可能性

        毒であり薬――藤田直哉『シン・ゴジラ論』(作品社)書評

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        • 直感と推論のあいだーー綿野恵太『みんな政治でバカになる』(晶文社)

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          10本

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          デジタル・サバンナの部族主義ーー綿野恵太『「逆張り」の研究』筑摩書房

          逆張りとは? もともとは株取引の用語で、相場の流れに逆らって売買する手法のこと。皆と同じ主流に棹さすのではなく、反主流に(株だけではない)「投資」することで、反主流が主流になる未来で報酬を得られる、と考える。筆者は、とある新聞から「逆張り論者」として原稿依頼を受け、結局は断ったが、以来、「逆張り」とは何かを考えるようになった、という。筆者の『「差別はいけない」とみんないうけれど。』という本を私は読んだことがあるが、この本をふくめ筆者の主張はしばしば「逆張り」や「どっちもどっち

          デジタル・サバンナの部族主義ーー綿野恵太『「逆張り」の研究』筑摩書房

          動きすぎてはいけない!?――十三不塔『ヴィンダウス・エンジン』(ハヤカワ文庫SF)

          (2020年12月20日シミルボン記事の再掲) 動かないものが見えなくなる奇病ヴィンダウス症。治療法がなく患者は徐々に世界を認識できず、やがて「白離」状態を経て、死に至る。主人公キム・フテンは、ヴィンダウス症から奇跡的な回復を遂げる。彼を除くと1名しかいないヴィンダウス症の回復者として、ある研究に協力するように頼まれ、中国へと向かう。そこで彼を出迎えたのは、それぞれの思惑を秘めた人たちであった。 第8回ハヤカワSFコンテスト優秀賞受賞作品。惜しくも大賞は逃した。デビュー作

          動きすぎてはいけない!?――十三不塔『ヴィンダウス・エンジン』(ハヤカワ文庫SF)

          人間はウソに弱い生き物であるーー石川幹人『だからフェイクにだまされる』(ちくま新書)

          「だから」とタイトルにある。何に続く「だから」なのかといえば、人類がおよそ300万年前に始めてから進化によって獲得した心理的傾向(のまま)「だからフェイクにだまされる」のだ。「問題の根源は、人類の歴史で育まれた伝統的な心理構造が、比較的自由な現代の社会環境とミスマッチを起こしていることに人々が気づいていない点にある」と筆者はまとめている。進化心理学の見地から、生物種としての人間がもつ心理的傾向(バイアス)を説明し、現代のフェイク(ニュースのみならず、実体と離れた力の誇示ふくむ

          人間はウソに弱い生き物であるーー石川幹人『だからフェイクにだまされる』(ちくま新書)

          「新しい支配」への抵抗は可能かーー木澤佐登志『闇の精神史』(ハヤカワ新書)評

          本書は、第1章「ロシア宇宙主義」、第2章「アフロフューチャリズム、第3章「サイバースペース」と終章からなる。 3章のサイバースペースの議論は、私が3年前に書いた本『ポストヒューマン宣言』(小鳥遊書房)でうだうだと議論した論点を、すっきりスマートに整理されていて、その手際はさすがである。(脱帽している場合でもないか…)。私が「ポストヒューマンのパラドックス」や「ポストヒューマンの人間的葛藤」と呼んだものは、本書では〈不気味なもの〉や、単に〈もの〉と表現される。マトリックスより

          「新しい支配」への抵抗は可能かーー木澤佐登志『闇の精神史』(ハヤカワ新書)評

          ハッシュタグの、隙間ーー『#ハッシュタグストーリー』(双葉社)

          ハッシュタグでつなげられた四つの短編。麻布競馬場「#ネットミームと私」、柿原朋哉「#いにしえーしょんず」、カツセマサヒコ「#ウルトラサッドアンドグレイトデストロイクラブ」、木爾チレン「#ファインダー越しの私の世界」が収録されている。麻布競馬場とカツセマサヒコ目当てで読み始めた。麻布競馬場もカツセマサヒコも期待通りに面白かったのだが、今回初めて読んだ柿原朋哉と木爾チレンの作品も面白く、アンソロジーならではの出会いだ。 ハッシュタグは便利である。自分の属性から「これは!」という

          ハッシュタグの、隙間ーー『#ハッシュタグストーリー』(双葉社)

          まじめにゆるく考えるーー東浩紀『ゆるく考える』(河出文庫)

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          「文化」は誰のものかーーカロリーヌ・フレスト『「傷つきました」戦争』(堀茂樹訳、中央公論新社)

          筆者はフランスのジャーナリスト、評論家、映画監督。『シャルリー・エブド』にコラムも寄せる。反レイシズム、反差別主義者であるが、反アイデンティティ至上主義者である。近年、主にアメリカの大学内で、今ではその外へ、そしてヨーロッパにも広がっているアイデンティティ至上主義者(と筆者が呼ぶ)による「反レイシズム」が、実はレイシズム(人種主義)に行きつき、左派の希望とは裏腹に保守主義・右派を利するだけではないか、と主張する。 筆者が豊富な例で示す「文化盗用」がその一例だ。文化盗用とは、

          「文化」は誰のものかーーカロリーヌ・フレスト『「傷つきました」戦争』(堀茂樹訳、中央公論新社)

          イノベーションは個人が起こすのではなく集団脳の累積的文化進化の結果である--ジョセフ・ヘンリック『WEIRD 「現代人」の奇妙な心理 下巻』(白揚社)

          面白い&分かりやすいので下巻もサクサク読めたぞ。分厚いが註がたくさんついているので、思ったほど厚くはない。下巻は各章ごとに要約した。 8章 人類の歴史において一夫多妻制が多かったが、一夫一婦制が導入された。そもそも一夫多妻制も文化進化の結果であり、男性のみならず女性にも遺伝的な動機はある。いかに自分の遺伝子を多く残すか、という。一夫一婦制が一夫多妻制に競合する文化として進化したのは、男性のテストステロン(異性獲得のための男性ホルモンで、競争=攻撃を促す)を抑制するためだ。一

          イノベーションは個人が起こすのではなく集団脳の累積的文化進化の結果である--ジョセフ・ヘンリック『WEIRD 「現代人」の奇妙な心理 下巻』(白揚社)

          小麦帝国の侵略--ジョージ・ソルト『ラーメンの語られざる歴史』(国書刊行会)

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          ノンネイティブ・ロールモデルの不在--鳥飼玖美子『本物の英語力』(講談社現代新書)書評

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          心霊写真としての自撮りーー大山顕『新写真論』(ゲンロン)読書メモ

          カメラは撮る者と撮られるものに亀裂を入れる。あいだにあるのはレンズ。撮影者は神様のように、世界を切り取って提示する。撮影者の姿はできあがった写真には映り込まない。撮影者の特権性は撮影者の透明性である。むかしのカメラはテクノロジーとして未成熟であり、そのために使用者に習熟を求めた。筆者はスマホがカメラの完成形だと言う。スマホにはレンズ越しに世界を見る経験が必要ない。スマホのスクリーンに映ったものをスクリーンショット(スクショ)する。スマホは写真からカメラの特権性を剥奪した。誰で

          心霊写真としての自撮りーー大山顕『新写真論』(ゲンロン)読書メモ

          YouTuberの遺伝子はあるのか?--安藤寿康『遺伝マインド』(有斐閣)書評

          日本における双子研究の第一人者の筆者・安藤寿康による、遺伝研究の概説書である。「遺伝子研究」ではなく、「遺伝現象」に着目する。ある表現型をもつ遺伝子を特定するのではなく、一卵性と二卵性の双子やきょうだいの行動を比較することで、人の何が遺伝しているのか・遺伝していないのかを突き止める。といっても、「遺伝なのか、環境なのか」というありがちな二者択一にはならない。むしろ、遺伝現象を調べれば調べるほど明らかになるのは、遺伝現象は遺伝子が担う情報が環境を介して表現されている、ということ

          YouTuberの遺伝子はあるのか?--安藤寿康『遺伝マインド』(有斐閣)書評