肉の皮肉なる肉体ルーパー

寿命がない。永遠の命をもつ。その仕組みは、輪っかにすると理解がしやすい。ここに人魚姫が一匹。この魚は、1日をえんえんとぐるぐるくるくるする、ずっとずっと昨日とは違う明日を昨日と同じ肉体で迎えている。

不死身のメカニズムを説明すると、そうなる。ループというものだ。

人魚姫を始めとする、ループする生命体はその仕組みを知らぬ者からすると、畏怖と恐れの対象であった。人魚姫の肉を食うと永遠の命を得られるという。しかし、しかし、実現させめた人類は存在しない。

理由は、ループにあった。

『おはようございます。あたしの命、返してもらいます。食べたんですから。食べられるコトだって、おわかりですね』

人魚姫の肉を食った者の前には、必ず、翌朝にループしてきた当の人魚姫が現れる。

そして殺し、食らう。
ループする肉体のなか、消化されず、しかし昇華されて同一体となり、それはやがて人魚姫の一部、内臓のなかの小人、囚えた捕虜になる。永遠の命を腹に抱える人魚姫は、数多く存在した。

ループする彼女たちは執念ぶかい、同時に暇をもてあましている。時間がループしているから。

だから、食われれば必ず、ループした朝に早速さっそうと食魚鬼の前に、ほんものの鬼さながらに姿を現すのだった。

『返して、いただきます。いただきますよ』

人魚姫にすると、ちょっとしたスパイスの死の苦しみ、食われる苦しさ、そして食人の愉悦。面白さ。楽しいかも? というまねごと。ごっこ遊びに近い。

人魚姫はとくにどうとも思わない。
しかしだから、人間の不死身なる者は決して生存し得ないのだった。不死身であるけれどループされるとどうにもならない。不死身であるけれど永遠の檻に囚われる。

永遠なんて夢を、見てはいけない、つまるところの人魚姫との関わりを否定することこそ、明日を生きる秘訣である。

皮肉な話である。
人魚姫を食いたがる、探す者たちは、えんえんと永遠を求めている。にも関わらず。である。皮肉な話であった。

皮肉な、肉、その中身の話。


END.

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