目が見さま

生まれつきノドからコトバを発することができない。

だからといって、生まれつき醜いだとか忌み嫌われるだとか、決まってはいない。産まれた当初こそ騒がれた。母親が糾弾された。無駄飯食らいを産みおって!!

忌み子であったのは、はじめのサルの子のような短期間のみ。
髪が生えてきて目をぱっちりあける。

と、世界は、激変した。急流で丸太がぐるんってまわった。そのうえ、陸へと突きあがった。

なんてぇこと、めんこいやつ。
あらまあ、かわいらしい、愛らしい。
こいつ、俺の子なんだぞ。さわるな、さわるなや。見物しに来るなや。
きれいな瞳、まるでお日様だ!

幼子はそれから神様になった。村総出で育てられて、宝石よ、神よと愛でられた。少女になるとその可愛さで隣村から、果ては大名までが遣いをよこして奉公を命じにきた。(村人が、怒りのあまりに殺してしまい、少女は知らぬことである)

やがて類稀なる美しさは信仰を集めた。女神さま。コトバをしゃべらぬけれど、慈愛と希望にあふれた瞳で私達を見守ってくださる、現人神さま。
彼女は村人に悲しいことがあれば泣き、うれしいことがあれば笑った。それで充分な信仰心が寄せられた。女神さま。目が見さま!!

彼女の神である由来は、瞳にある。
いざ、彼女がそれなりに歳を重ねて没名すると、村人全員と周辺地域のお山何百人たちの信仰心により、ヤオヨロズの神が魂を受け止めた。声をしゃべらず、彼女は驚きながらもしかし次なる生き方を受け容れた。

目が見さま。ヤオヨロズの末席にすわる、ただただ、瞳が満点の星空のように可憐にして美しくどんな詞でも足らぬほど輝いている、そんな神様である。


END.

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