塵芥と女神とタンタンタンッ

なんにでも夢を見る権利はある。生きているのだから。先を期待したり、貯蔵したり、明日の楽を考えておく。

チリチリの塵芥(ちりあくた)のひと粒は、ある家庭にて、ある物語を聞いた。人間ではない化け物が魔女によって人間にしてもらえていた。
塵芥は、塵なので、今はもう換気されて、その家には居ない。別の家の布団にくっついて、ダニやダニのふんでひしめくなか、ゴミクズの集合体のなかに潜んだ微生物たちの総意として、意識らしき、なにやらシグナルを発した。

翻訳すると、以下になる。

『神さまぁ、かみさまぁ、マジョはメスなら女神ざまぁ……。人間になってみたい、ここは狭くて過ごしづらくて。人間になれるんなら、人間になってみたいよぉ』

心優しい神というものもいる。日本には八百万の神々がいる。女神の一神が、振り向いて、遥か下の足元のずっとずっと下にある、ある家庭の使い古された布団を見た。
日本には八百万の神がいる。変わり者もいる。なにせヤオヨロズの神々であるから数が多ければ変わり者も混じる。

いいだろう、女神は答える。
ただ、家庭の布団のなかに降りるつもりは、なかった。

『ここまで来れたら人間になれ』

女神は、女神であるから、所詮は視点が異なる生き物であった。塵芥は、微生物の集合体だから、わあい、わあい、と喜んだ。

人間になるぞ、人間になるぞ!

毎日同じく喜んだ。女神もうなずいた。そうしてる間に、布団は押入れにしまわれた。
「そろそろペッタンコだわな。買い替えだよ」
「次はもっと高い布団にしようよ」

塵芥は、暗闇のなか、わあい、わあい。
女神は遥かそらのうえにて、ふん、鼻を鳴らして退屈している。まだ来ない。チリアクタとやら、まだ来ない。

その家庭の押入れのふすまは、タンッと威勢の良い音を立てて、閉められた。
タンッ!


END.

読んでいただきありがとうございます。練習の励みにしてます。