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オムニバスアルバムは楽しい①ストーナーロックの好盤

オムニバスが好きで面白そうなものを見つけるとつい欲しくなってしまう。

オムニバスは当たり外れが結構あるが、収録されている曲がほぼ全部ダメでも2、3曲いいものがあればそこそこ元が取れた気分になれる。
もしそれが知らないバンドばかりのコンピだったら2、3曲いい曲があったイコール、いいバンドを2つ3つ見つけられたことになるから喜びもひとしおだ。

また、収録している曲がほぼ全曲自分好みで、しかもそのアルバムでしか聞けない貴重な楽曲がいくつも収録されている盤だったりすると、ものすごく得した気分になれるなんてこともある。

もちろん全曲ダメダメで大ハズレの時もあるが、それも含めてオムニバスは楽しい。
子供の頃に駄菓子屋でやった当たりクジやガチャガチャとほぼ同じ感覚で買っている。

さて、そんなオムニバス好きな僕が最近購入したストーナーロックのコンピが非常に良かったので、是非ご紹介したいと思う。

それがこのアルバム、In the Groove。

1999年にリリースなので、かなり前に作られた作品だが、全然そんな感じはしない。
Discogsで調べてみたらアメリカのThe Music Carteltというレーベルから出ていて、ここはストーナーロックやドゥームメタル系の作品を有名どころも含めてかなりリリースしている。
この手のジャンルには相当強そうなレーベルだ。

このアルバムを購入するきっかけは、学生の頃に聴きまくっていたCorrosion Of Conformity(以下C.O.C)のサードアルバムBlindで歌っていたKarl Agellは今、何をしているのだろうかとふと思ったことからだった。

そこで彼の活動歴をネットで検索してみると、C.O.C脱退後にやっていたLEADFOOTというバンドで参加していたこのオムニバスを知ることができた。
LEADFOOTはファーストアルバムをよく聞いていたのでどんなバンドかわかっていたし、もし他の参加バンドがハズレでもKarl Agellの歌が聞けるならまぁいいか、ぐらいの軽い気持ちで購入を決めた。

注文から数日後、商品が無事届きさっそく聞いてみた。

お目当てのLEADFOOTが4曲目だったので、1曲目から3曲目はちょっと聞いてそんなに良くなかったらいったん飛ばして後回しにしようかななんて思っていたが聞き始めるとまったく飛ばす気にならなかった。
結局、最後の曲まで一曲も飛ばすことなく聴き込んでしまった。

結論を言えば、このアルバムは当たりだった。

収録されている曲は、僕のイメージするこれぞストーナーロックと言えるものから、ストーナーロックとの境界線が曖昧なドゥームメタル、70sハードロック、90sオルタナティブロックなどなどスタイルが違い面白い。
しかしごちゃ混ぜな感じではなく、ちゃんと統一性がある。

では収録バンドと曲を一曲目からご紹介しよう。
【※曲順の番号の後にバンド名、その後のカッコ()にはそのバンドの出身国、/の後、最後に曲名を記載します】

1.ROACHPOWDER (スウェーデン)/ Toxic River
気だるさと荒々しさが同居したヘヴィなグルーヴと凶暴なサウンド。
曲の開始時からすでにつかみはオッケーといった感じの1曲目に相応しい出来だ。
ダミ声のヴォーカルは迫力があり、歌い回しがブルースを感じさせ個人的には非常に好み。ファジーなギターサウンドもかっこよく70年代のハードロックからの影響も大いに感じる。

2.NEBULA(アメリカ)/ Full Throttle
ストーナーロック界の大御所バンドであるFU MANCHUの元メンバーだったEddie Glass(g)とRuben Romano(ds)がFU MANCHUを1997年に脱退した後に結成したバンド。
この曲はストーナーロックというより破壊力抜群のガレージロックといった方がしっくりくるかもしれない。
実際のテンポはそこまで速くないが、爆走ロケンローといいたくなる。
メチャクチャかっこいいのだが、この曲はスウェーデンのストーナーバンドLowriderとのスプリットDouble EPで発表済みというのだけがちょっと残念。

3.KARMA TO BURN(アメリカ)/20
90年代以降のメタル、いわゆるグルーヴメタルの影響を感じさせるタイトなリズムと、うねるヘヴィリフで押してくるミドルテンポのインストゥルメンタル。
インストなので歌は入っていないがヘヴィな縦ノリで、これはライブでは頭振れそうだなぁと思った。
1997年に発表されたファーストアルバムにはヴォーカルがいたようだが、セカンド以降はトリオ編成のインストバンドとして活動している。
ヴォーカルありも悪くないと思うのだがインストで動いていた方がやりやすかったのだろうか。

KARMA TO BURNのファーストアルバムの1曲目はこちら↓

4.LEADFOOT(アメリカ)/Gonna Creep Up On You
元C.O.CのヴォーカリストKarl Agellが率いるバンド。
このアルバムを購入したのはこれを聞くためだった。
ここではアイルランドの英雄Thin Lizzyの1973年にリリースされたサードアルバムVagabonds of the Western World に収録されている曲をカバー。

Thin Lizzyのオリジナルヴァージョンはこちら↓

オリジナルの良さを残しつつパワフルにアレンジされており、お目当てであるKarl Agellの歌も、彼らしい憂いを帯びた叫びを聞かせてくれた。
ただ正直、未発表のオリジナル曲だったらもっと嬉しかったのだが、それはちょっと欲張り過ぎかな。

5.ROADSAW(アメリカ)/Blackout Driver
メタル寄りのヘヴィな音とリズムだがタイト過ぎない為、メタルではなくロックンロールのうねりを生み出している。身体が勝手に横ノリで動いてしまうようなグルーヴだ。
ワウがかかったギターのオブリガートもかっこいい。
ここのヴォーカルは良い意味で少し力が抜けていて、ゆるく気だるい雰囲気を作っている。それがバックのヘヴィな演奏に乗ると非常に気持ちいい。

6.SHEAVY(カナダ)/Blackout Driver
声を聞いたら一発でヴォーカルがOzzy Osbourneからの影響が多大なのがわかる。ふざけていないOzzyといった感じだ。
まぁ別にOzzyもふざけている訳ではないのかもしれないが。
独特な声の性質を生かして不思議な浮遊感を生み出しているので、個人的にはこれ以上はOzzyに寄せずにこのままでいってほしい。
ヴォーカルがOzzyの影響大なので、バンドもOzzy期のBLACK SABBATHの影響はかなりあると思うが、この曲に関してはBLACK SABBATH的なおどろおどろしさはあまり感じない。
美しいギターサウンドに幻想的なゆらめきを感じた。

7.RED GIANT(アメリカ)/Quantum Pounder
冒頭のリフとリズムがちょっと SABBATHのParanoidっぽい。
横乗りのヘヴィなグルーヴにサイケデリックなギターサウンドが絡んできて中々かっこいい。
歌は二人のギタリストがほぼ全編で一緒に歌っている。
時々それぞれが意図的に外して歌っていて、ラフさや気だるさを演出しているように思われるが、ここは好き嫌いが分かれるかもしれない。
ちなみに僕は嫌いではない。

8.ACID KING(アメリカ)/Not Fragile
ストーナーロック、ドゥームメタルの重鎮バンドであるACID KINGが
70年代に活動していたカナダのロックバンドBachman-Turner Overdriveの
1974年に発表されたサードアルバムNot Fragileに収録された曲をカバー。
オリジナルは男らしい骨太なハードロックといった感じだが、紅一点にして中心人物であるLori S(Vo.G)の気怠いヴォーカルが全く別物にしている。

Bachman-Turner Overdrive のオリジナルヴァージョンはこちら↓

オリジナルと比べるとかなりテンポを落とし、サウンドはオリジナルのようなハードロック的な音ではなく、90年代以降のドゥームメタル的なサウンド。
バックの演奏は禍々しさも漂っているが、Lori Sの声がかわいくてそれをいい感じに薄めている。
中々クセになるサウンドだ。
ちなみにこのカバー曲はこのコンピが出た1999年にはこのアルバムでしか聴けなかったが、同じく1999年発表のACID KINGのセカンドアルバムBusse Woodsの2004年のリイシュー盤にはボーナストラックとして収録されている。

9.SIXTY WATT SHAMAN(アメリカ) /Whiskey Neck
ブルース色が非常に強い骨太なサウンドな漢のハードロックだ。
ドゥームメタルのようなおどろおどろしさはあまり感じず、サザンロックの影響も感じられ、PANTERAのヴォーカリストPhil AnselmoがやっているDOWNにも少し似ている。でもDOWNのようなダークさはない。
アメリカ南部の長髪髭面のいかついサザンロッカーがバーボン片手に爆音で演奏してる姿が目に浮かんでいたが、ネットで検索したら実際ヴォーカルの人はそんな感じだった。

10.DRIPPING GOSS (アメリカ)/Before The Fall
楽曲の冒頭から他のバンドとは毛の色が違うのがわかる。
この音はストーナーロックでもドゥームメタルでもない。
90年代初頭に出てきたのグランジ/オルタナティヴロックに近い。
ただそことも少し違う。音は似ていないが、これは何だ?と思った時の感触は初めてHELMETを聴いたときに近いかもしれない。
リズムはタイトでテクニカル、ギターのカッティングにはニューウェイヴの雰囲気もある。低音でのギターの刻みは現代的なヘヴィさが漂う。
そして他の収録バンドと決定的に違うのはブルースの要素がないことだ。
このアルバムの中ではちょっと浮いているかもしれないが、個人的には異端児が大好きなのでメチャクチャ好みだ。
ただストーナーロックだけを求めている人にはお勧めできないかもしれない。

11.RAGING SLAP (アメリカ)/Mississippi Queen
RAGING SLAP はストーナーバンドというよりは、80年代から90年代のメインストリームな音を出す、サザンロック色の強いハードロックバンドという印象がある。
このアルバムでは70年代アメリカン・ハードロックの代表バンドであるMOUNTAINの1970年にリリースされたファーストアルバムClimbing!の1曲目をカバー。
原曲のイメージを壊さずに、少し緩さを感じさせるアレンジで仕上げている。センスの良さを感じさせる。
この曲は色んな人、特にアメリカのバンドがカバーしていてアメリカ人大好きソングなのかなと思っている。
僕もこの曲がめちゃくちゃ好きで思い入れがあり、MOUNTAINのギターヴォーカルのLeslie Westの暑苦しい声とギターが大好きなので、このアレンジは僕にはちょっとおしゃれというか洗練され過ぎな感じがしてしまった。
ただ、以前Zakk Wyldeがトリオでこの曲をやっているのをYouTubeで見た時でさえ、歌がもうちょい暑苦しい方がいいなぁと思っていたので、僕の感覚がおかしいのかもしれない。

12.THE BAKERTON GROUP (アメリカ)/The Mack
1991年結成の今や超ベテランの大御所ロックバンドCLUTCHのサイドプロジェクト。
CLUTCHは日本ではそこまで知名度が高くないかもしれないが、本国アメリカでは超有名バンドだ。
ストーナーロック的な要素もあるが、非常に懐が深く演奏技術も高いのでストーナーロック、ハードロック、ブルーズロック、グルーヴメタルと何でもこなしてしまい、それらを全て彼らの骨太サウンドに染めてしまうすごいバンドだ。
THE BAKERTON GROUP はCLUTCHのメンバーがインストのジャムバンドをやりたくて結成されたようで、メンバーは全員CLUTCHのメンバー。
ここでもファンキーかつサイケデリックなジャムを聞かせてくれる。

13.TERRA FIRMA(スウェーデン)/In Orbit
BLACK SABBATHから正当な流れで継承された音。これぞドゥームメタルという曲だ。
ヴォーカルのLord Chritus(vo)はCOUNT RAVEN、SAINT VITUSといったドゥームメタルバンドにいた筋金入り。SHEAVYのヴォーカルのように声まで似てはいないが、BLACK SABBATH時代のOzzyからの影響は感じる。
ギターとベースはデスメタル畑の人のようだが、ここでは完璧なドゥームメタルのグルーヴを作り出している。
ちなみにベースのNico Elgstrandは、2004年からスウェディッシュデスメタル界の重鎮Entombedに参加している。

14.ALTAMONT(アメリカ)/Rattlesnake Shake
最後はアメリカンヘヴィミュージックの重鎮MELVINSのドラマー、Dale Croverがギターとヴォーカルを担当するトリオ。
8曲目に収録されているACID KINGのベースヴォーカルのLori Sは以前Dale Croverの奥さんで、リズム・セクションがACID KINGと重複している。
ブリティッシュブルースロックバンドFleetwood Macが1969年リリースしたサードアルバムThen Play Onに収録されている曲をカバー。

Fleetwood Macのオリジナルヴァージョンはこちら↓

このカバーだが、なんと90年代にレコーディングした方がまるで60年代にレコーディングしたかのようなサウンドだ。オリジナルよりもこちらの方が好みかもしれない。ファズギターもイカしてる。
MELVINSではドラムのDale Croverだが、ギターもヴォーカルも非常に魅力的だ。
アンダーグラウンドで名を馳せているミュージシャンにはこういったハイテクとは違う、楽器をかっこよく聞かせる技術に長けたマルチミュージシャンが多く存在する。

以上、僕の中では捨て曲なしの14曲でとても楽しめる内容になっている。

全曲通して聞くことが多いので言ったら全曲お勧めになってしまうのだが、敢えて推したいのは、1のROACHPOWDER、2のNEBULA、そして13のTERRA FIRMA。
NEBULAは既発曲というのが残念だが、やはりカッコいいのでどうしても推してしまう。
そして次点として、このアルバムの中では異彩を放つ10のDRIPPING GOSSを挙げたい。
ストーナーロックでもドゥームメタルでもないが、もし90年代のオルタナティヴロック、グランジが好きな方には興味を持って頂けると思う。

このアルバムを買うきっかけとなった4のLEADFOOTはもちろん良かったのだが、カバー曲なので出来は悪くはないがちょっと物足りなさを感じた。
なのでこのアルバムの中では正直、先程挙げたバンドの方に軍配が上がった。
まぁ聞きたかった楽曲が予想以上ではなかったかもしれないが、LEADFOOTが聞きたいと思ってこのアルバムを購入したお陰で、今まで知らなかったカッコいいバンドをいくつも知ることが出来たのだから、思わぬオマケが付いてきたみたいなもの。
コレがあるからオムニバスはやめられないのだ。

ストーナーロックが元々好きな方、これからいろいろ聞いてみたいと思っていた方、どちらにも安心してお勧め出来るアルバムなので、是非聴いて頂きたいと思う。






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