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ある小説家の秘書日記(4)

映画「岸辺露伴、ルーヴルへ行く」を鑑賞。
このシリーズが好きだ。
ミステリというより、奇妙な物語として楽しんでいる。
毎週みると頭が混乱しそうなので、一年に数回、たまに見るのがいい。

露伴の担当編集者、泉ちゃんが好きだ。
ホラーテイストの強い、不気味なキャラがひしめき合う中で、唯一安心できるキャラであり、無駄に明るくキャッキャしてるが実はとても頭がよくて有能ってところが素敵。
おこがましくも、顔は全く似てないが、キャラ的には私と似てるんじゃないかと思ってる。
特に露伴と泉ちゃんのやりとりは、なんとなく私とヨーグルのやりとりに通じるものがある、と思う(たぶん)

ヨーグルにも「あぁ、似てるね」と言われた。
「ヨーグルも露伴に似てるよ」と言ったら「全然、似てない」と一蹴された。

まぁ、確かに私は泉ちゃんと違って追い出されたりしてないけどね。
追い出したいと思われてるかもしれないけどね。
私は編集者じゃなくて秘書だけどね。

某月某日

先生、K社のゲラを完成させて宅急便で送る。
文芸誌掲載の原稿はPDFなのだが、長編は今も紙ベース。
送られてくるゲラには封筒と着払い伝票が同封されている。ゲラを完成させたら、それで送り返すのだ。歩いて数分のコンビニに毎回、お世話になっている。

さて、今回も〆切を大幅に過ぎてからの完成。
秘書、ちょっと心配になって、しつこく「出した?」ときいてしまう。

「出したの?」
「今朝、いつものコンビニに出してきたよ」
「本当にちゃんと出した?」
「だから出したって」

うんざりした先生が「そこまで心配なら追跡サービスで見よう」とパソコンの前に秘書を座らせる。
追跡サービスとは宅配便の控えにある番号を入力すると、その荷物が今、どこにあるかを教えてくれるシステム。

先生、伝票に記載されている番号を入力。すると、画面に出てきたのは……

その番号は登録されておりません。


二人、しばし画面を食い入るように見つめる。

「登録されてないってことは出してないってことじゃないの?」
「そんなことはない。出した。確かに出した」

言うやいなや、先生、家を飛び出した。
「凛子はここにいろ」と言われたけれど、心配なので追いかける。
いつもなら、秘書の歩調に合わせてくれる(先生は歩くのが早い)先生が秘書を無視してどんどん行っちゃう。
「先生、待って~」と言ってるのに無視。
しかも、秘書、信号につかまる。オー・マイ・ガッ。

秘書、運動不足のため、ちょっと走っただけで息がゼイゼイする。
ゼイゼイしながらコンビニに入店。
目に入ってきたのは、コンビニの店員さんがなにやら一生懸命調べてくれている姿。
どうやら、肝心の受け付けてくれた店員さんは今はいないらしい。

店のどこにも原稿の入った封筒はないようだ。つまり、ちゃんと送られてるってことになる。
う~ん。じゃあ、どうして追跡サービスに出てこないのだ?と首をかしげていたところで、受け付けてくれた女性が出勤。

事情をきくと「あの伝票、インボイス対応じゃなかったので書き直したんです」と言われる。

インボイスが導入されて宅配便の伝票も変わったらしい。知らなかった。
どうやら出版社は古い伝票を同封していたようだ。

「これがインボイス対応の伝票なんです」と言われて見せてもらうが、正直、どこがどう変わったのか秘書にはわからない。
なるほど。つまり、書き直されたので先生が控えていた伝票は破棄されてしまい、そのため番号を入力しても出てこなかったというわけか。

とりあえず、ちゃんと送られていることがわかって安心。

お礼を言って帰ろうとしたら、店員さんに小声で「小説家の〇〇さんですよね?」と言われ、先生、ちょっと戸惑う。
「ドラマ見てました」と言われて「ありがとうございます」と頭を下げる。手ぶらで帰りづらくなってしまい、先生と秘書、大量にお菓子を買って帰る。

某月某日

B社の担当編集者さん、T氏から業務メール。
追伸に「X日のお原稿、どうぞよろしくお願いします」とある。

X日?

当初、きいていた〆切日よりも10日ほど遅い。
どっちが本当の〆切日なんだろう。
「X日って言うんだから、X日だろ」と先生は即、X日と断定する。
「えー、いいのかな」と思いつつ、すでに(x日−10日)は二日後にせまってるから、秘書もX日ってことにしておく。

某月某日

B社の文芸誌の編集長、S氏にお会いする。
以前、ヨーグルの担当さんだった方で、今でもお世話になっている。

彼に「この前、Tさんからメールがきたんだけど、そのときの原稿の〆切日が最初にきいていた日にちと変わっていたの」と話す。

すると「実は……」とS氏。

「ヨーグルさんに初めて原稿を依頼したとき、あまりにも〆切過ぎて出してくるもんだから、みんなで『これからヨーグルさんには早めの〆切日を伝えておこう』ってことにしたんです」

……。


そうだったのか。
Tさん、うっかり本当の〆切日を言ってしまったのね。
たぶん、B社だけじゃない。
A社もC社もD社も……そうなんだろうな。

帰りにS氏に「★日〆切の原稿、よろしくお願いしますね」と言われる。
明日はその★日なんだけど、先生、どこまで書けてるかな。