見出し画像

~ある女の子の被爆体験記35/50~ 現代の医師として広島駅で被爆した伯母の記録を。”生かすための解剖、平和のための解剖記録“

解剖データは、亡くなられた方の体験、貴重な声

 被曝した生存者の方々は、後世に体験談を残そうと必死に思い出したくない過去を、発表してきました。しかし、被曝した死亡者の方々も、人生をかけて、その訴えを残しています。その一つが、解剖データです。

解剖データは、原爆投下直後、まだ放射線が残る広島や長崎で働いた医師たちの献身による遺産でもあります。

広島逓信病院の当時の院長であった蜂谷道彦医師と岡山医科大の病理学助教授での玉川忠太医師は、体に原因不明の斑点を作り、白血球が減少し、次々に人々が亡くなっていく様子に矢も盾もいられない気持ちだったといいます。

「俺たちが解剖しなくてどうする」「解剖しなけりゃ分かるはずない」

そして、連日連夜、亡くなった方々を解剖し、原爆症の解明に身を挺しました。

それが、亡くなった方々の声として、現在の世界の人々へ、被爆者が核兵器の被害を伝えるものとなりました。しかし、戦後は、GHQにより原爆の研究発表は禁止されました(1945年11月、日本学術会議にてGHQにより命じられる)。現在はもちろん禁止ではありませんが、しかし当時の影響か、原爆の医学的資料が一般の方々へ広まることが、ほとんどなかったのではないでしょうか。

その声を生かすことができるのは、今を生きる私たちなのかもしれません。解剖を受けた被爆者の方々のためにも、貴重な資料を読み解き、理解することが、今現在、世界に1万4千発ある核兵器の現状を理解するためには、必要なことかもしれません。

////

18歳 女性 外傷なし 白血球数減少

*(「原子爆弾災害調査報告集」日本学術振興会刊 1953)


爆心地から550m下中町の広島中央電話局参考)で被曝した。

火に巻かれたが、やけどなどは無かった。その後食欲不振でほとんど食事ができなかった。

被曝の7日目に西条診療所へ入所し、リンゲル注射(電解質の入った体液に近い輸液)を行った。

9日目に舌に白い膜(偽膜)がみられた。

11日目に発熱。リンパ腺や胸部に異常はなかった。

13日目、39.4度舌に潰瘍を3つ認めた。

15日目、白血球数2700、赤血球数393万といずれも減少がみられた。

16日目に、熱は40.3度、輸血を250ml行ったが、17日目に死亡された。


病理解剖所見

右壊死性扁桃腺炎、咽頭浮腫がみられた。(扁桃腺の粘膜は潰瘍を作っており、咽頭は腫れていた。)

胃、腎臓や虫垂、卵巣出血が認められた。出血を起こしやすい状態だったと推測される。

骨髄の中は細胞が少なく、機能していない(血液を作っていない)状態と考えられた。


解説:咽頭浮腫がというのどの炎症を認めることから、皮膚のやけどは無かったが、いわゆる気道熱傷によるものである可能性はゼロではない。しかし、周辺皮膚にやけどはないことから、その可能性は低いと考えられる。

つまり、咽頭は放射線被曝の影響で粘膜に異常を来した可能性が高い。原爆による被爆者の急性被曝の症状の統計では、「のどの痛み」は高率に認められる症状であった。また、気道熱傷をおこしていない被爆された方の解剖症例において、咽頭浮腫と扁桃腺の潰瘍の所見はよく見られる所見であった。このため、咽頭、扁桃粘膜の異常は、放射線被曝によるところが大きいと言える。(なお、この18歳の女性が喉の痛みを訴えていたかどうかは記載がない)

骨髄の解剖所見では、骨髄で血液を作る細胞がほとんど観察できなかった。死因の推察としては、血液が作られないため、血液中の白血球が減少し免疫機能が低下、感染症をおこしたため(発熱が40度)、敗血症性ショックおよび多臓器不全(全身の臓器が機能しない状態)をおこした。また、血小板が減少し、多臓器に出血が起き、多臓器不全をおこしたなどが、考えられる。

骨髄の異常は、明らかに放射線障害が原因である。

同じ場所での被曝体験:広島中央電話局で被曝された方の体験談

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?