アウディに乗る妻と中年男①
20代の終わり。俺の商売は完全に行き詰まっていた。お金に困り果て、食べるものにも事欠く始末。やむをえず知人にバイトを紹介してもらい短期間だけ小銭を稼ぎ食いつなぐことにした。
情けないもんだ。
紹介されたバイトは探偵事務所だった。
この時代は個人情報保護法もなく、いい加減で胡散臭い事務所が沢山あったらしい。
俺がバイトに行ったのは、正直なところ反社じみた事務所だったと思う。
雑居ビルの三階にあるオフィスに看板はなく、入口は常にカギがかけられていた。事務所の中には金属バットが