【１】シンデレラみたいには、なれない（スピと生きづらさとトラウマとフェミニズムの物語）

シンデレラが生まれた家からから少し離れた場所に、別の村がありました。
その村に、ある女性が住んでいました。彼女の名前はハナコです。
数年前、シンデレラが王子様に見初められて幸せをつかんだという話は、彼女が住む村でも大ニュースになりました。
人々はみんな、シンデレラは心優しく、美しく、そして辛い時も希望を見失わずに前向きな気持ちを忘れなかった、素晴らしい女性だと称賛しました。
シンデレラの存在は女性のロールモデルとして語られ、村の女性たちは皆、シンデレラのようになりたいと願いました。

ハナコが住む国は安全で豊かで、人々も真面目で優しい人ばかりでしたが、周囲からどう思われるかを常に気にして、
あらかじめ決められた「ふつう」の枠からはみ出ず、
何よりも、誰にも迷惑をかけないことが最も大切だと考えていました。
みんな、とても優しい人たちでしたが、一方で、このルールを守らない人が苦しむことになっても、それは自己責任だと考えるふしがありました。
そんな中でハナコが最も恐れていたことは、
村の人たち——つまり、「社会」に見放されることでした。
だからハナコも、村のみんなから立派な女性だと思ってもらうために、
自分もシンデレラのようにならなくては、と思っていました。

ですが、ハナコは心の中で、何者にもなれないと感じていました。
もちろんシンデレラのようにもなれないし、
立派な学校を出たり、遠い遠い国に留学したりして、自分の力でたくさんのお金を稼ぐ、かっこいいリーダーのような女性にもなれません。
自分には、なんの価値もないのだと思っていました。

漠然とした生きづらさを抱えていたとき、
村にあるちいさな本屋で、こういう本を見つけました。

「ザ・ヒキヨセマスター　いい気分でいれば全ての願いは叶います」
「波動の法則〜豊かさ、健康、最高のパートナーを手に入れて人生は思い通り！」
「自分を愛して幸運をつかもう！最強自愛メソッド」
「しあわせ！潜在意識♡全自動で望みが叶う！」
「本当の宇宙の法則　目覚めと悟り〜すべては幻想、願いは既に叶っている〜」
「生きづらさ解消メソッド　不安なあなたにそっと寄り添う幸福のスピリチュアル」

なんだかあやしいと思いつつ、強烈なタイトルと、
やけにきらきらした表紙に興味を惹かれ、いくつかの本を手に取り、ペラペラとページをめくります。

するとそこには、スピリチュアルなパワーや潜在意識というものを使って、人生を思い通りにデザインし、
望み通りのくらしを手に入れた人たちの体験談が書いてありました。
著者の多くは女性で、彼女たちの「ビフォー」はハナコとそっくりでした。人生に対して不安がいっぱいで、人からどう思われるかばかりを気にして、
自分を見失いかけていた時、ふしぎなパワーの使い方を学び、
すべてが好転した、という体験談は、ハナコをワクワクさせました。
自分も、彼女たちのようになれるかも！という希望でいっぱいになりました。

ハナコはすぐに、スピリチュアルや、スピリチュアルなメソッドを応用した自己啓発が大好きになりました。
今までは気づかなかったけれど、本屋さんにはそういった本がたくさん売られていて、しかも、毎週のように新作が出ています。

スピリチュアルと言っても、数えきれないほどのメソッドや考え方があるようでした。その中で、ハナコが特に気に入ったのは、次のようなものです。

・思考が現実になるという法則を使って、望む未来を引き寄せられる
・潜在意識のブロックを解除したり手放したりして自分を愛し、「ありのままの自分」になると、人生がうまくいく

ハナコはたくさんの本を買い、楽しく実践しました。
実際に、心がとても穏やかになったり、安らいだ気持ちになったり、
未来に夢と希望を抱き、心が弾んだりしました。

続く