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映画『夜明けのすべて』の感想というか自語り

はじめに


正直に言う。
この映画は松村北斗さんが主演だったから、観に行った。
いわゆる「推し」の一人である。
でも彼を通じてこの物語に出逢えて、本当によかったと思っている。
ということで感想というか、隙あらばな自分の話をしたくなったので、書きました。
ネタバレ配慮しないで書いている点、ご了承ください。

藤沢さん

僭越ながら、立場が似てるなあと思った。
年齢とともに重くなるPMS、母親と仲良し、とか。

ちゃんと婦人科に行ったのに、母親に血栓症の危険?があるからピルが飲めない。
飲んでる薬の副作用で信じられないほどの眠気に襲われ、頼まれていた仕事もできず、気まずくなり、会社を退職してしまう。
ノーマルな時はほわっとした、優しいかんじ。PMSの時は、ちょっとしたことで「そんなに怒る?」ってくらいイライラして怒ってしまう。段階とか踏まずに急に怒りだすので、周りは驚いてしまう。

そんな役を誇張せず、等身大に演じる、もねさんの演技がすごい。

この映画の私が好きだった所の一つは、恋愛関係の発展が一切ないところだった。
二人ともお互いのおかげで救われていくのだけど、「でも私にこんな彼氏できる予定ないしなー」という卑屈な気持ちに、ならなかった。
…そう!そうなの!男女だからどうとか一切ないのがいいねん!
もっとこういう映画を観たい。

私も生理痛で、母に迎えに来てもらったことが何度もある。
小学生の時は塾に、
中学生の時は学校の最寄り駅に、
大人になっても家の最寄り駅に。

なんで私はこんなに辛い目に…とか考えながら、痛みと不快感がただ過ぎ去るのを待って横になるしかないあの虚しさ。

ある時は、痛みに耐えきれずロキソニンを飲んだら、時間と共にどんどん酷くなり、#7119を母にかけてもらったことがある。顔が青ざめていく娘を見て本当にハラハラしたらしい。自家用車がないのでタクシーで行くしかなく、結局その方が酔う、という理由で行かなかったが、自分でも「これ大丈夫か??」と思った。

そこから、痛み止めを飲むのが怖くなってしまった。
お腹の痛みと不快感で嘔吐したことも、あと何十年もとにかく耐えるしかないのかと絶望していたことも、はっきり覚えている。

学年が上がる毎にだんだんと生理痛、というか生理前の症状が酷くなり、とうとう高校生の時に、産婦人科に行った。
問診を受けたりエコーで見てもらったりしたが、何も異常はなかった。
ので、漢方薬を処方された。
あと教えてもらったのは、ロキソニンを飲むのにもタイミングというものがあるらしい。
痛みが強くなってから飲むと余計に痛みを増幅させてしまうから、むしろ予兆の段階で飲んでおくべきなのだと。

でもさあ、
そんなん誰も教えてくれないじゃんね???義務教育じゃん???(誇張)てか何でそんな諸刃の剣みたいな作用あんねん。

社会人になっても一度、やらかしている。薬を飲むタイミングをミスったのだ。普段は「これは、そろそろだな…」と思ったら食後に飲むようにしていた。
ある日の仕事中、気が付いたら割とお腹が痛む状態になっていて、でももうすぐ退勤だからな…と飲むか飲まざるかを悩みに悩んだ挙句、久しぶりに大変な痛みと気分の悪さに襲われていた。
「どうせあとは帰るだけなら…」と一か八かロキソニンを飲んでから効くまで横になって少し休み(幸いその時は効いた)、落ち着いてから車通勤している上司に家まで送ってもらったことがある。

…とまあそんなかんじだったので、昨年とうとうピルを飲み始めた。
改めて色々調べてもらったが、何も問題はないということだったので一応は安心しているのと、「だったら何故こんな症状が…」という気持ちが入り乱れている。
私はピルが飲めるから飲み始めたし、お金も払える状況にあるし、1種類目から副作用も出なかったけど、「体質で飲めない」って、辛いな。目の前に問題を解決できるかもしれない手段があるのに、そのお金を払うつもりもあるのに、使えないのだから。

藤沢さんはせっかく山添くんみたいな良き理解者ができたのに、実家に帰ってしまう。
でも山添くんが近くにいなくなっても、「イライラした時は、車を洗いに行こう」って思わせてくれたのは、希望の光なんじゃないだろうか。
「PMSになったらイライラしちゃう!しょうがない!」じゃなくて、少しでも他の人に当たり散らさないで過ごす方法を探せるかも、という希望。
イライラしちゃうこと自体もイヤだけど、周りの人に迷惑をかけてしまうこともきっと、悩みの原因だから。

山添くん


パニック障害を発症してから、無気力に生きている。
冒頭にも言った通り「松村北斗」目当てで観に行ったのだが、鑑賞中はちゃんと「山添くん」と捉えて観ていた。

パニック障害は本当に辛いと思う。
私は普段、電車に頼って生きている。電車がなかったら、仕事にも行けないし、遠征もできない。職場は近所で妥協するか、近くに引っ越すしかない。人生のあらゆることを、諦めなくてはならない。山添くん自身も言っていたが、周りの人が離れていく。相当絶望するだろう。

前の職場にいた、一見するととても元気で明るい肝っ玉母さんみたいな人が、「電車に乗れないの、パニック障害だから」と教えてくれたことがある。人は見かけによらないものである。

彼がPMSについて、邪な気持ちなしに、「それでも(時々なら)できることは、ある」と言い切ってくれたこと。
それと、藤沢さんの立場からしたら当然「見てれば分かります」とか面と向かって言われても「ずっとPMSくるか?って監視してるってこと?キショ…」となる女性側の気持ちと、助けようとする気持ちを持ってくれたことへの感謝は両立するんだよ、ということを描いてくれたのがよかった。
気にかける動機が興味本位か、本当に相手を思う気持ちかどうかは、伝わってしまうものである。

あと、いざとなっても助け方は不器用なとこ。
「あ~あ、その言葉、余計に怒らすぞ!(今は何言っても怒るけど)」というギリギリのとこで、傍から見てたら面倒だからほっとかれてもおかしくないような場面なんだけど、それでも途中で投げ出さないこと。後から冷静に考えたらすごくありがたい同僚だ。

メイキングでも観れるので書いてしまうが、髪切るシーンの笑い方は多分、素が出てたんじゃないかと思う。ここでほんのちょっとだけ「松村北斗出てる…?」と思った。藤沢さんのおせっかいの仕方はオカンだった。
この前100均で、セルフカット用のアレ売っててちょっと楽しくなった。

舞台挨拶


私は舞台挨拶もある回を見たのでその時のことも。
監督の第一印象はいかつい感じで、この内容の映画から想像していない雰囲気だったので、意外だった。
でもあの短い会見の時間の中でさえ、監督が題材を丁寧に扱い、俳優を大切にしている方なんだと感じた。手紙もすごいよかったし…

中でも、最初のあいさつの締めが、原作者への感謝だったこと。
この、「生きづらさ」を主軸に取り扱う映画の監督が、それを言う。
あんな悲しいことがあったから言った訳ではないだろうけど。これは深読みしすぎかもしれないけど、無意味ではないかもしれないと、ふと思った。

話を振られて
「キュー―――!!!!!」
って擬音を使って話を始めた時、「松村北斗だあ!!!」となった。

↑なんと、その部分、公式インスタに載せてくれています。

あと、試写会アーカイブにも「松村出てるよお!!」てなった。
本当に松村さんのあしらいがうまいですね、もねさんは。

全体を通して

主演の二人とも、なんかこう、絶妙に変な人っぽい
藤沢さんが歩きながらみかんを食べてるのとか、初詣に行ってお守りを山ほど買って配ってるとことか。
山添くんも、人を寄せ付けない、ちょっと独特な感じ。
そういう「ちょっと変」も共存できる世界が、いいなと思う。

人が生きていて、特殊な仕事でもしていなければ、突飛な事件なんか滅多に起こらない。特に映画になるような話は、大きい事件を中心に描かれがちだ。
けれど一見平凡に見える凡人の人生の中でも、その人にとっては寝込んでしまう程のショックな出来事はあるし、些細なことが夜明けの兆しに見える瞬間はある。だからきっとこの映画は、観る側の多くの人に、共感できるところがあるんだろう。

山添くんの上司も、栗田社長も、ああやって、苦しみを乗り越えようとしている。
いや、痛みや悩みを乗り越える、というか、取り去ることはできないから、一緒に生きていこうとしている。
それは独りではきっと難しいことだ。
だからああやって同じ境遇の人と語り合い、支えあうのだ。

人は外見だけでは何も分からない。
でも「自分が経験していないものは分からない」と全て切り捨てるのだったら、何にもならない。
自分からしたら悩みがなくて羨ましいと思うような人でさえ、本当は何かを抱えているかもしれない。
いつでも、誰に対しても助けるだけの人なんてきっといない。
だから想像して、寄り添うことが、大事なんだ。
次は、私もあんな風に寄り添いあえる職場に行きたいな。

自分自身のことなのにままならない、そのもどかしさ。
努力してどうにかなるものではない、という諦め。
まだまだ社会の理解が浸透していないことへの諦観。

この映画の英訳は、『all the long nights』。夜明けの明るさのほうではなく、明ける前の、夜の部分にフォーカスするんだな、と思った。

人はそう簡単に、変われるようにはできていない。
機械のスイッチを押して切り替えるように、簡単に変われたならいいのにと思うけど。
痛みや、悩みの原因を消してくれる薬があるなら、こんな思いはしなくてすむのにと思うけど。
できない以上はお互いに、できる範囲で、支えあっていくしかないんだと思った。

私も「助けてくれ~~!」と思うことばっかりだけど、こんなふうに誰かが辛い時、寄り添えるようになりたい。
この映画の山添くんに、松村北斗さんを選んでくれてありがとうございました。

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