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Anthony Braxton – New York, Fall 1974 (1975)

 鬼才Anthony Braxtonの持つ奏者としての実力と変幻自在なアイデアを知らしめた、アリスタ・レーベルからの記念すべき一作目。今回彼は5本ものリード楽器を駆使しており、晩年のEric Dolphyから延長されたビバップの解釈とモダン・クラシカル的な音楽の統制の可能性を追求している。
 A面はKenny Wheelerのトランペットを含んだカルテットの3部作だ。バンドの構成としてはオーソドックスながら、第一部「23B」の冒頭から息もつかぬほどにテンションの張りつめた応酬が交わされる。Braxtonがフルートに持ち替えた第二部「23C」ではソロパートを排し、WheelerとベーシストDave Hollandと三位一体になりながら、恐ろしく息の合ったアンサンブルを展開していく。
 リズム隊がアウトしたB面では、盟友Richard Teitelbaumのモーグ・シンセサイザーやバイオリンを巻き込み、サウンドはより先鋭化している。おそらく最もジャズの文法から乖離したのは、Teitelbaumの宇宙的なシンセ・サウンドと対峙した第一部「38A」だが、Oliver Lakeをはじめとした4人のサックス・プレイヤーたちが繰り広げる第二部「37」の構成美も見事の一言だ。まるで会話のように飛び交っていく各々のブロウは激しさを増して丁々発止の様相を呈してゆき、次第に一体感を高めて同じリズム、そして同じ呼吸の共有へと至る。『New York, Fall 1974』はジャズの自由・即興性と現代音楽の統率性が同居したBraxton哲学の極致だ。