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殺られる / Des Femmes Disparaissent (1959)

 〈これは社会の闇を暴き出す映画である〉という趣旨の告発文を掲げて始まるÉdouard Molinaro監督の長編第2作は、フランスの上流階級ではびこる売春犯罪とそれに抵抗する労働者の若者の戦いの一夜を、洗練されたモダン・ジャズのサウンドに乗せて描く。Molinaroは一種の大義名分のもとに、暴力と官能に満ちた刺激的なフィルム・ノワールを作り上げた。しかし本作が人々に強く記憶されているのは、当時ヨーロッパで一大センセーションを巻き起こしていたThe Jazz Messengersがサウンドトラックを制作したからだ。
 不気味な夜の路地が映る中、ドラマーArt Blakeyの刻むリズムに合わせてクレジットが繰り出されるオープニングは、映像自体は至ってミニマルだが今見てもしびれる出来だ。Benny Golsonによるこのメイン・テーマは「Blues On My Mind」のタイトルで彼のアルバム『The Philadelphians』にも収録されている。音楽と演出が全編にわたって際立ったこの作品は、場面の転換や照明の明滅といった映像の要所にハッとするようなジャズのサウンドがぴったりと寄り添っている。
 登場人物たちは典型的だが魅力がある。特にシャンソン歌手のPhilippe Clayが演じたずる賢い殺し屋は、冷酷な圧迫感と同時にどこか憎めないひょうひょうとした雰囲気をまとう。Robert Hosseinは一途でギラギラした目つきの主人公を、82年に自殺してしまった女優Estella Blainは危なっかしくも毅然としたヒロインをそれぞれ好演した。
 当時の観客はMagali Noëlの肌があらわになるシーンに熱狂したが、現在はもっぱらジャズ・ファンに称賛されることが多い作品である。あなたが後者なら、パーティー会場でさりげなくBlakeyの『At The Cafe Bohemia』のレコードが映るシーンに思わず膝を打つはずだ。