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「病院で働く」ということ・・・ Dr エリプス

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「病院で働く」こととはどういうことか。 外科医として25年以上を経過し、これから職業人として残された時間にできることはなんだろう、とふと考えました。 そこで、臨床の現場で実際に… もっと読む
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医師のキャリアアップを考える(専攻医~卒後15年目くらいまで)

 医師のキャリアアップについて、前回は研修医~卒後5年目くらいまでの期間について書きました。今回は専攻医といわれる時期の後半(卒後5年目前後)から15年目くらいまでの医師としてのキャリアアップの考え方を書きたいと思います。  医師として臨床経験5年目くらいになると、専門とする領域の疾患は一通り経験し、早ければ専門医取得が視野に入ってきます。診療科によっては「一人前」な臨床医として周囲から認められつつある時期かもしれません。  しかし実際のところ、自分一人ですべての症例の治

【病院で働くということ】・・・Vol.11:医師によるパワハラの土壌

 医師の医療現場によるパワハラ行為はパワハラという言葉が世の中に診とする前からあったと聞いています。医療現場における「働き方改革」と比べると影が薄いですが、とても大きな問題です。  以前のブログでも書きましたが、多くの職種が働く病院という組織は、事業の形態としては「業務集約型」事業です。  一方で売上である診療報酬の大半は、医師が行う診療行為により発生しているという現実があります。  そこに医師が他のすべての職種の上に立っているという医師側の勝手な誤解を生み、現場にひずみを

【病院で働くということ】・・・Vol.10:寝起きが良いことは医療者としての才能

 もともと眠りが浅い体質からなのか、夜間の電話呼び出しが常時あるからなのか、夜中であっても物音にすぐに反応できます。夜間の地震にはほぼ気付くし、携帯の呼び出し音は2コール目には出られます(携帯を取り落として出られなくなることはあるけど)。 「え、先生起きてたんですか?」 と電話越しに言われるくらい普通に電話に出るので相手はびっくりするらしいです。  まあ、あくまでも返事をはっきりしているだけで頭が覚醒しているわけではないので、話の前半の内容が理解できず、もう一度聞き直し

【病院で働くということ】・・・Vol.9:つらい時ほど笑顔で

 だれでもつらい時、しんどい時はあります。イライラもするし、むかつきます。でも自分の心の中はどうであれ、それを隠して無理矢理にでも笑顔でいる方が結果的に周りも自分自身も気分が良くなることに気がつきました。  これまで私も「先生の元気そうな笑顔につらいときに救われました」と言われたこともあります(自分としては、結構しんどかった時期もありましたけれど)。  病院を受診される患者さんは、こちらの気分や精神状態なんて全く関係なく診察を受けられているわけで、不機嫌モード・疲労感

【病院で働くということ】・・・Vol.8:外科医が苦しむとき

 外科医が最も苦しいと感じる時、それは予想外の合併症が起こった時なのではないでしょうか。  想定通りに行かないことは外科医という診療科を選んだ医師は少なからず経験するはずですが、当初の想定以上の患者さんの病状悪化や、患者本人・ご家族からの結果が良くないことに対する叱責は精神的には非常に堪えます。  もちろん治療前には様々なリスクを想定し、患者さんやご家族へその説明も行い、十分理解をしてもらってから治療に入るわけですが、それでも治療後の合併症はある一定の割合で起こりますし、予

医師のキャリアアップを考える(研修医~卒後5年目くらいまで)

 医師は医学部を卒業して国家試験に合格し、臨床研修医になった瞬間から医師としてのキャリア形成が始まります。ここでいうキャリアとは臨床医としての経験を積んでいくことを指し、研究・学位取得などのアカデミックキャリアのことではありません(こちらの話は別の機会にしたいと思います)。  まず医師になって5年間は通常研修医・専攻医として臨床医としての研鑽を積むことになります。ここで大切なことは、とにかくたくさんの症例を経験し、臨床感覚を鋭くしていくこと。特に初期臨床研修医として勤務が

【病院で働くということ】・・・Vol.7:病床稼働率を気にする経営者

民間病院にありがちであるが、病床稼働率が下がってくると経営陣がソワソワし始める。経営サイドから現場に向け、「入院患者を増やして」だの、「救急車断るな」などと指令が出ることがある。 現場の言い分としては、ベッド状況に関わらず緊急の患者は受け入れているし、そもそも病床稼働率に合わせて入院の適応基準は変わらないということ。 ベッド稼働率が病院経営に大きなインパクトを与えることは理解するが、空床を目立たなくするため、経過良好な早期退院希望患者にも退院を延期させる、など本末転倒の

「病院で働くということ」・・・Vol.6 医師に対する評価

医師は病院内外で、様々な方法・角度から評価を受けます。 患者さんやその家族はもちろん、ともに働くコメディカルスタッフ、雇用主である経営者、同僚・上司(指導医)・部下である医師などからです。 その評価はかならずしも一致するわけではなく、 「あの先生は患者さんの受けはいいのに、看護師には嫌われている」とか、「あの先生は経営者からは高評価なのに、現場スタッフには不人気」などさまざまな形で評価されています。 そもそも人が人を評価すること自体どんな業界でも難しいことですし、その評

「病院で働くということ」・・・Vol.5:理解できない相手と

病院内で働いていると、どうしても理解できない考えや行動をする人がいます。 なぜそこでそんなことを言う? なぜそういう振る舞いをする?  などなど。 多くはその人の行動が自分の予想・期待通りではないことに起因していると思いますが、やはり理解不能は人との関係はストレスですよね。 その人の置かれた立場や社会的背景やこれまでの言動から、 「まあそういう人なんだろうなあ」 という想像がつけばいいのですが 時には想像を超える理不尽な行動で周囲に悪影響を及ぼす人もいます。

「病院で働くということ」・・・Vol.4:第一印象は大事

今でも患者さんとの初めての対面は非常に緊張しますし、治療を受けられる患者さんはそれ以上だと思います。 「初めまして。△△科の○○です。よろしくお願いします。」と名札を相手に見えるようにして挨拶をしています。なるべく柔らかい印象で、威圧的にならないように・・・。 以前聞いた話では、宿泊するホテルの印象は到着時のフロントの対応で8-9割は決まる、とのこと。これから治療を受けようかどうしようか、不安を抱えて病院を受診される患者さんやご家族に対して、最初の医師の印象はこれからの信頼関

「病院で働くということ」・・・Vol.3:医師の当直業務

 医者になってかれこれ25年以上、月2回以上の当直業務がずっとありました。30歳代の最も多いときで月8-9回、アラフィフと言われるようになった現在でも月に3-4回は当直として病院での業務にあたっています。  医療者以外の方には「病院に仕事で泊まるって大変ですね。」「全然眠れないんですか?」とよく言われますが、もはやルーチンワーク化していて大変かどうかは自分ではよく分かりません。当直によってはほぼ一睡も出来ないこともあるし、4-5時間まとめて眠れることもあります。ただ眠れる

「病院で働く」ということ・・・ Vol.2:医師の働き方改革

 2024年4月から医師の働き方改革が制度として始まります。これまでも多くの報道などでその問題点が指摘されていますが、そこには立場の違いにより、また伝え方の切り口によりさまざまな意見があり、本質が見えにくい状況でもあります。  今回の働き方改革の本当の目的は、医師の過重労働の抑制により、医師の健康を確保し、医師の疲労蓄積による医療事故を減らすことだと思っています。そのためには時間外労働時間の上限を設定し、強制的に休みを取らせることが第一歩になりますが、その第一歩から地域医

「病院で働く」ということ・・・Vol.1:病院で働くということ 

病院で働くということは、どういうことでしょうか。 それは、医師・看護師・検査技師・セラピスト(PT・OT・ST)・管理栄養士・事務職員など、さまざまな職種で構成された多くのスタッフとともに、組織のなかで患者様の診療行為を行うという同じ目的を持って働くということです。 多職種が働く病院という組織は、事業の形態としては「業務集約型」事業といえます。 世の中の多くの企業がコロナ禍でリモートワークを取り入れることになりましたが、医療機関は実際に患者様と接し、医療従事者が密接に関