見出し画像

【ふしぎ旅】大竜寺の白狐

 新潟県村上市に伝わる話である。

 昔、瀬波の大竜寺境内に白狐が住んでいた。
 キツネは人間によく慣れ、参詣者が来ても逃げようとはせず、日向ぼっこをしており、近所の人気者になっていた。
 ある時、寺の屋根の葺き替えに来ていた職人が、元気に遊んでいるきつねを見て、屋根の上から木片を投げつけた。
 すると、これが狐に命中し、狐はぐるぐる二、三回まわって死んでしまった。
 その時、狐は「宝生の玉」という宝物を落とした。
 寺の住職は、そんな白狐をかわいそうに思い、境内に葬って、ねんごろに供養し、宝生の玉は寺宝として保存することにした。
 それから間もなく狐に木を投げつけて殺した職人は狂い死にし、家族も死に絶えてしまったという。

小山直嗣、『新潟県伝説集成下越篇』
大龍寺

 大龍寺は、瀬波温泉街とは少し離れた、昔ながらの街並みの中にある。
 温泉旅館が立ち並ぶ前は、こちらがメインの街だったのであろう。


大龍寺


 大龍寺の本堂そのものは、さして、大きくもなく、新しいため、歴史があるとはあまり感じさせないが、境内にある大銀杏が、樹齢三百年ということで、古さを感じさせる。

大龍寺 大銀杏

 なんでもこの銀杏にも、龍神様が宿る神木という伝説があるらしい。

 歴史を感じさせないと先に記したが、開山は戦国時代、その後、水害のための移転を繰り返し、現在の場所に落ち着いたのが18世紀半ばというから、かなり古い。
 格式も高く、越後村上藩、参勤交代の際には、殿様が城での服から道中の服に着替えるのが、この寺だったとか。
 とは言え、現在の本堂は新しく、茅葺の屋根でもない。
 もちろん、狐などを見ることがない。
 そもそも、田舎にいても、あまり野良の狐を見ることは少ない。
 狸などに比べると、かなり警戒心が強いため、人前に姿を現すということが珍しいのだ。
 なので、この伝説にあるような、人によく慣れている狐というのは珍しい。
 そう考えると、この白狐は案外と、妖狐の類なのかもしれない。

瀬波温泉 龍神碑


 そう言えば、大龍寺がある瀬波温泉の始まりは、龍神様が狐に姿を変え、街へ降り、噴湯をつげたという伝説があるので、この狐も、神の使いであったのだろうか。
 
 そんな狐に木を投げつけた職人が狂い死にしたという最後の一行が、あまりにも淡々として、ホラーを感じさせる話である。

お読みいただきありがとうございます。 よろしければ、感想などいただけるとありがたいです。