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『理想を実現できる道東にする』は、私に必要な言葉だった。【ドット道東インタビューvol.1 神宮司 亜沙美】

道東エリアに散らばる点と点をつなぎ、『道東』の新たな輪郭をつくることをステートメントとして掲げて活動を続けてきた(一社)ドット道東。法人設立後、最初に実施したプロジェクト、道東のアンオフィシャルガイドブック『.doto』は累計発行部数1万部を記録。活動の中心を担ってきたクリエイターだけに留まらず、多くの道東のプレイヤーや道東に想いがある人を見える化したプロジェクトでした。

繋がりを、さらにその先へ。

ドット道東はこの春、『理想を実現できる道東にする』というビジョンを新たに掲げ、次のステージへの一歩を踏み出しました。

このインタビューは、ドット道東のこれまでとこれから、実現したい道東の未来について、メンバーの想いを綴ったインタビューシリーズです。

Vol.1 は大樹町で暮らし、教育の地域コーディネーターとドット道東の二足のわらじを履く神宮司亜沙美。大樹町と“道東“がリンクする過程と、ドット道東の活動を通じて実現したい未来について語りました。

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大樹町の市街地から少しだけ離れた場所にある、一室貸しのゲストハウス『HOUSE MOEWA』。林や畑を抜けてたどり着くその場所は、美しく雄大な日高山脈が顔をのぞかせる。

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ドット道東理事を務める神宮司亜沙美ーーニックネーム「じんちゃん」は、このHOUSE MOEWAのオーナーであり、株式会社キタテラス代表でもある。彼女は、大樹町教育委員会で地域コーディネーターも務め、大樹町を中心に様々な活動をしている。

そんなじんちゃんの家から見た日高山脈が忘れられず、札幌市民から大樹町民になった私、岡山ひろみが、ドット道東からオファーを受けてインタビューすることになった。インタビュー場所はもちろん、HOUSE MOEWAだ。

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取材:岡山ひろみ(写真左)
写真:崎一馬

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じんちゃんは、大樹町の、町から少し離れた黒毛和牛の繁殖農家に生まれた。同級生が10人程の小学校に通い、保育園からみんな一緒。先生の持ってくる進学情報から選んで釧路高専に進学し、これと言ってやりたいことがなかったので、学校に来ていた企業推薦一覧から選んで東京へ。

人もモノも溢れる東京が楽しくて都会を遊び尽くし、のびのびした場所で子育てをしたいと思い夫と子どもと一緒に大樹町にUターンした。それが2015年のことだった。

▼協力隊から会社経営へー自分で自分の生計を立てなきゃいけないという焦り

大樹町には、地域おこし協力隊としてUターン。元々の職種であるディレクターの経験を活かし、ポスターやウェブサイトを作ったり、他にもライターをやったりなど、自分でできることを模索した。

協力隊の3年目、任期終了が近づく中で「起業」の選択肢が浮かぶ。「北海道の良いものをストーリーと一緒に届けたかったんだよね」自分でECサイトを立ち上げ、あちこち取材に行って販売した。その傍ら、十勝のチーズを使ったチーズケーキの開発や、鹿革を使った家具など、新商品の企画・開発。ECサイトでものが売れたら梱包して発送作業…全てを一人でやっていた。

「そんなときに、拓郎くんから『道東誘致大作戦をやろう』と誘われたんだよね。それが、その後の脳天直撃学校祭につながっていくんだけど」

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▼コンフォートゾーンから出ざるを得なかった「脳天直撃学校祭」

2018年3月12日〜14日の3日間、日本各地でローカルで活躍するゲストを呼んで行われた道東誘致大作戦は、ドット道東の原点とも言える記念すべきイベントだ。ドット道東代表理事の中西が、道東で活動していた神宮司・名塚・須藤の3人に声をかけ始まったこのイベント。クラウドファンディングでは84万6000円、のべ98人からの支援が集まり大盛況のうちに幕を閉じた道東誘致大作戦、「正直、参加したのはお付き合い的な気持ちが大きかったの(笑)」。

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▲道東誘致大作戦の一コマ

この道東誘致大作戦でできた縁から5ヶ月後、更別村に5名のゲストを呼んで2日間に渡って開催されたのが脳天直撃学校祭だった。

「道東誘致大作戦で、ゲストでお呼びしたALL YOURSの木村昌史さんに事業相談を聞いてもらったお礼に、木村さんのクラウドファンディング『イベント開催権』に支援したの」

しかし、「本当にその時は、いっぱいいっぱいだった」とじんちゃんは振り返る。自分で自分の生計を立てなきゃいけないという気持ちと、立ち上げたECサイトだけでは生計を立てられなさそうな現実、違う方向を探さなきゃいけないという焦りと、子育てもあった。それでも自分が呼んだ手前、「絶対にやり切らないといけない」。そんな責任感と、忙しさの間で、脳天直撃学校祭も開催するので精一杯だった。

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▲脳天直撃学校祭の打ち上げにて(撮影:原田啓介)

「自分で限界だと思っていても、今までは限界を超えないようにセーブしていたんだと思う。こなせていたのがその証拠。でも、脳天は本当の意味で限界だったな。一人で頑張れることの限界だったのかも」

本当は頼れる人が周りにいたのに一人で頑張っていて、自分で自分の首を締めていたと言う。一人で頑張ってしまう自分と、今までの自分では踏み出せなかった領域につれて行ってくれるのがドット道東だということに気がついた。

「ドット道東のメンバーと一緒にいると、自分が予想しなかった出来事がたくさん起こるんだよね。そこからいい出会いにつながったり、次のアクションが生まれたり…必然的にコンフォートゾーンから出ざるを得ないのがドット道東なんだと思う」

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▲脳天直撃学校祭集合写真(撮影:原田啓介)

脳天直撃学校祭の限界突破を経て、起業して無理して自分だけで稼ぐのはやめ、求められる仕事を精一杯こなしてみようと考えを改めた。ちょうど、地域おこし協力隊3年目のときに、大樹町教育委員会から地域コーディネーターの打診があり、二つ返事で「やります!」と答えた。

小学校、中学校、高校とそれぞれ1校ずつしかない大樹町は、大樹町で大樹町を学ぶカリキュラム「大樹学」を小中高一貫して行い、地域との関わりを作るため、地域コーディネーターを設けたのだった。1年目は小学校に、2年目は中学校、3年目は高校と少しずつ関わりを広げていった。

「一つずつ目の前のリクエストに答えていったら、自然と信頼してもらえるようになったと思う、3年目くらいになるとようやくそれを感じるようになった」

誰もやったことがない、何が正解かも分からない仕事だからこそ、必要だと思った役割に積極的に関わっていった。そうすると、連携がなかった学校間の連携が生まれ、つなぎ役の機能になっていたのだった。「やっと自分らしく働けてきた」とじんちゃん。「ディレクターって一人では何もつくれないしごとだけど、人と人をつないで新しい価値をつくれるんだと思った」

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▼子どももいる、活動の主軸は大樹町…自分がドット道東に関わっていて良いのか?

「道東誘致大作戦、脳天直撃学校祭と続き、そこで出会った人たちが刺激を受け、各地で何かを始めて…その流れを止めちゃいけない、止めたらもったいないと思った」と振り返る。「止めずにどうやって繋がりを生み続けていけるかなと思ったときに、名前のなかった私たちの活動を”団体”として、キチンとしたものにしようと思った」それが、2019年1月のこと。

そこから何度も話し合いを重ね、2019年5月7日に、一般社団法人 ドット道東を設立。これまで個として活動していた道東エリアに散らばる点と点をつなぎ、その活動を通して『道東』というエリアの新たな輪郭をつくる、というステートメントを掲げ、活動を開始した。

その4ヶ月後の2019年9月から『道東の点をつなぐ、アンオフィシャルガイド「.doto」を出版したい』というタイトルのクラウドファンディングを開始し、334万円、398人から支援を集め、ガイドブック制作へと進んでいく。

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122ページにもわたるガイドブックは、2020年6月に発刊し、道内外に大きな影響を与えた。道東を盛り上げたいと思って取り組んだガイドブックを世の中に出してからは、迷いが増えていった。

「クリエイターの集団としてだけじゃなく、ドット道東に求められていることがある気がする。自分はどんな役割を果たせるんだろう…」

二人目を出産して間もないこともあり、時間の使い方にも悩んでいた。ドット道東の理事でありながら、大樹町の仕事もしている。ドット道東のメンバーで唯一子どもがいて、大樹町で子育てをしていくことは自分にとって大切な時間でもある。どちらかを選べない自分へのもどかしさや、仲間への申し訳なさ…。

ドット道東と関わっていたいという気持ちはありながら、時間の制約があって100%フルコミットできない状況で、「自分がドット道東にいていいのかな」と思っていた。

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▲経営会議をした釧路で(撮影:原田啓介)

ガイドブック発刊からの1年は、自分とドット道東の関わり方を決める1年にした。そのためには、ドット道東の目指すところを言語化しなければならない。経営会議を何度も何度も行い、みんなで話し合ったという。しかし、なかなか腹落ちするまでたどり着かない。

「最初に決めた1年が経とうとしていたから、もう無理かな、離れるしかないかなって思い始めてたんだよね(笑)」

そんな時、ドット道東に以前から関わりのあるコピーライターの荒水悠太さんから提案があり、メンバーそれぞれが文章に気持ちを表すことに。内側の言葉を整理すると、「次の世代」「もっと色んな人」に対して広げていく言葉が自然と並んだのだった。

▼「理想を実現できる道東にする」それは自分にとっても必要な言葉だった。

ドット道東が1年かけて議論し決めたビジョンは「理想を実現できる道東にする」

それぞれに道東の理想があり、それぞれの理想を叶えるために走っていいということ。他の人の理想も、クリエイティブで貢献しようと決めたのだ。理想の形はみんな違っていい、理想を持った人たちがいられる団体にする。道東の、コト・ヒト・スキルを繋ぐネットワークになり、理想を実現するヒトに伴走する。

「それでやっと身の置き方が定まったんだよね」『理想を実現できる道東にする』その言葉が、みんな一緒にいて良いという考えだと思った。

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「色んな人に関わってほしい」という言葉は、ドット道東以外の人に向けたものだけではなく、じんちゃん自身の関わり方をも許容する言葉となる。

「私は時間的に100%コミットできないけどドット道東に関わっていきたい。同じような立場の人たちが関われる仕組みを作ることに役立てるのではないか」

▼同じ価値観で集まる団体じゃない、私たちは「民間のパブリック」でいたい

「それぞれの町や、それぞれの事業エリアや、自分なりの何かを拠点にして、道東の魅力を担う人がたくさんいたから、それを見える化したのがドット道東。だからドット道東はみんなの活動の結果でしかないと思っていて。」

ドット道東の活動と、大樹町の地域コーディネーターの活動の本質は、通ずるところがある。今まで繋がっていなかったコトやヒトを繋げ、新たな価値を生み出すのだ。ドット道東がやってきたこともそう。道東の各地で活動してきた人たちが、ガイドブックというきっかけで見える化し、繋がった。そしてじんちゃんはこう続けた。

「もっと、理想を実現しようと思う人が、道東の各地で増えたら良いと思う。そのためにはハブとなる場所や人や取り組みが必要で、それを形にするノウハウを集めて提供していきたい」

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道東の理想はこうだ、と提案するのがドット道東のやりたいことではなく、それぞれが自分なりに道東での暮らしを楽しむ人を増やしたいとじんちゃんは言う。

「同じような価値観で集まるような団体にしたくなくて、民間のパブリックになるイメージを持ってる。それぞれの価値観を大切にして、いろんな生き方を目指していい時代だから、雰囲気でコレが正解だと言わないような団体にしたい。たくさんの価値観を溶かしていきたいんだ。関わってくださいと言わなくてもドットになってほしい。重なる部分があったらぜひ一緒に楽しみましょう」

ドット道東は、「理想を実現する道東にする」というビジョンを掲げ、「1000人の道東の理想を載せたビジョンブック」を出版する新たなプロジェクトを開始しています。

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取材・文:岡山ひろみ
写真:崎一馬

▼ドット道東メンバーインタビュー記事 #道東の未来 はこちらから


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