【企業研究】電通、博報堂、ADK
はじめに
今回の記事では”総合広告代理店”の業界/企業研究を行っていきます。
総合広告代理店といえば、
・「華やかでキラキラしている」
・「仕事が非常に大変」
・「電通と博報堂の違いがよくわからない」
というイメージを抱く方が多いのではないでしょうか?
しかし、上記のイメージに対して、
・「なぜ?キラキラしている人が多いのだろうか」
・「なぜ?広告代理店の仕事は大変なのだろうか」
・「なぜ?電通は強いのだろうか。博報堂は何で差別化しているのか」
と深く考えたことがある就活生は少ない印象を受けます。
筆者はこれらの疑問に回答できるようになることが総合広告代理店に内定する上での必須事項だと考えています。なぜなら、これらの疑問に回答できること=総合広告代理店の仕事の本質を理解している、すなわち仕事で何が求められている(=どのような人物や能力が欲しい)のかを理解していることであり、面接で何をどのようにアピールすればよいのかを戦略立てることができるからです。
このNoteを読めば、
◆総合広告代理店の業界/企業分析の時間が節約できる
◆総合広告代理店の難関な選考の攻略法がわかる
上記のメリットを得ることができます。
総合広告代理店を強く志望する方はぜひご覧ください。
総合広告代理店の業界構造および仕事内容
(広告代理店のビジネスモデル)
広告代理店とは、広告主のプロモーション活動を代理で行う仕事を指します。広告代理店の中には、マス4媒体だけでなくインターネットを含めた広告媒体を取り扱う総合広告代理店、インターネットなどの特定の広告媒体に特化した専門広告代理店、もともとは特定の会社やグループ会社の広告を扱うために設立されたハウスエージェンシーと呼ばれる形態があります。
総合広告代理店のキープレイヤー
業界の市場規模および動向
2020年度は外出規制が出され、消費者の需要が著しく減少したことによって総広告費は大幅に減少しました。しかし、リーマンショック以降日本の総広告費は堅調な上昇傾向にあります。2019年度までの総広告費の上昇要因は「インターネット広告」によるもので、一方で下降要因は「マス4媒体」によるものです。
1996年以来連続してインターネット広告費は上昇しており2019年には市場規模2兆円を突破しました。これは企業と消費者のコミュニケーション手段がテレビや新聞を中心としたマス媒体からインターネット、特にSNS、Webサイト、Youtubeなどのオンラインプラットフォームに移行していることを示唆しています。
上記のデータから、マス4媒体の市場規模は依然として2兆円以上は推移しているもの、近年のデジタルトランスフォーメーションの流れを見ていると、今後企業と消費者のコミュニケーション手段はよりインターネット媒体に移行していくと考えられます。よって、マス4媒体の市場規模縮小とインターネット広告の市場規模拡大の流れは続くと考えられ、マス4媒体に収益を依存している総合広告代理店には逆風が吹くと予想されます。一方で、この逆風は総合広告代理店にとっては従来のビジネスモデルの見直しや新規事業に取り組むきっかけになるとも考えられ、新しい時代を企業と一緒に切り開きたいと考える就活生にとっては面白い仕事になっていきそうです。
総合広告代理店の収益構造
ここで総合広告代理店の大手2社を見てみましょう。電通と博報堂両社ともにマス媒体における収益(売上)の構成比が30%を超えていることからマス媒体、特にマス媒体の構成比の大半を占めるテレビ広告が収益の柱であることが分かります。一方で、収益構成比におけるマス媒体の割合は年々減少傾向にあり、インターネット広告の割合が上昇しています。このことから、両社ともに経営資源をインターネットに対して本格的に投下し始めていることが読み取れます。
総合代理店の代表的なCM一覧が載っているサイト
キープレイヤーの主要財務情報の比較
グラフから売上規模、すなわち事業規模は電通が業界で群を抜いていることが分かります。電通は海外比率も総合広告代理店の中で圧倒的に高く、世界規模でビジネスを展開していることが読み取れます。ADKの財務情報は上場株式廃止の関係で入手ができませんでしたが、上場廃止前の売上は約3500億円になります。博報堂の事業規模の1/3程度と見積もることができます。
上記を見ると、博報堂の方が電通よりも収益性が高いと読み取ることができます。しかし、この解釈には注意が必要です。電通は近年、資産の効率化や組織体制の大きな変更を行った関係で多額の構造改革費用を損益計算書に計上しています。よって、電通の収益力の低下の原因は将来の収益力向上のための投資活動とも読み取れます。だからこそ、一概にも電通が博報堂よりも収益性が劣ると言うことはできません。
一方で、2019~2020年にかけては消費者の需要が減少したこともあり、企業のテレビ広告に対するニーズも減少しました。収益の大半をテレビに依存する電通はかなり大きな収益低下圧力を受けたはずです。この収益低下要因を忘れてはなりません。対して、博報堂は電通よりも収益低下の傾向が少なく見て取れるので、電通よりもデジタル領域に対する取り組みが進んでおり、オフラインでの需要低下の圧力を受けにくかったとも読み取れます。
総合広告代理店の成功要因
総合広告代理店の事業成功要因を分析してみましょう。総合広告代理店の事業成功の鍵となるのは「広告主への販売広告枠数」と「媒体社から委託される広告単価」になります。
「広告主への販売広告枠数」を増加させるためには「コンタクト可能な媒体社数(広告枠を委託してくれるテレビ局、新聞社など)」と「媒体社から委託される広告枠数」がまず必要になります。そして、委託された広告枠をいかに製造業などの広告主に「販売成約」できるかどうかが重要になります。
「媒体社から委託される広告単価」を増加させるためには「媒体社とのコネクションおよび過去の事業実績」が鍵になります。過去に取引実績がある会社であれば媒体社は進んで高品質かつ高単価な広告枠を代理店に委託します。また、実績があれば売れ行きの良い広告枠を代理店に任せてくれる可能性が高まります。
総合広告代理店の業界首位を走る電通の例を考えてみましょう。ここで、大切なのは「なぜ電通が他の代理店よりも強いのか?」です。これを論理的に説明できるか否かどうかで企業分析の質は変わり、志望動機に活かせる要素も大幅に変化します。
電通の強みは創設100年を超える歴史と実績に基づく「媒体社とのコネクション」と「広告主に対する販売成約率の高さ」です。総合広告代理店の事業を成功させるには端的に言えば「集客が取れるな高単価な優良広告枠をどれだけ委託されるか×どれだけ委託された広告枠を販売できるか」どうかで決まります。電通の場合、100年以上に渡って開拓および関係構築してきた媒体社との接点から、競合他社よりも優良な広告枠を取りやすいだけでなく販売成約がしやすいという競争優位性があります。だからこそ、電通は博報堂とADKよりも業界で優位になることができるのです。
個別企業分析①【電通】
(理念・価値観)
電通の伝統的な企業理念といえば、電通の「鬼十原則」と呼ばれているものがありました。しかし、厳しすぎる労働環境がもたらした女性社員の自殺事件によって企業理念が大きく変更されました。そのため、現在では「見たこともないイノベーションを提供する」ことがスローガンとして掲げられています。
-どのような人物を求めているのか
電通の新卒採用担当者がインタビューにて下記のように回答しています。
上記の求める人物像から「思考力」と「行動力」が面接で重点的に測られると考えられます。
-なぜこのような人物を求めているのか
広告業界の首位を長く維持してきた電通ですが、インターネット革命の影響で消費者との接点がオフラインからオンラインへと移り変わるようになりました。このトレンドから従来のマス広告に依存した収益モデルでは長期的には競争優位性を維持することが難しくなっています。そのため、電通では近年新規事業に対する取り組みや企業改革の動きが多くみられます。このいわば新しい挑戦を行う上で、将来の電通の成功を担う若手社員には「厳しい環境の中でも解決策を見つけられる思考力」と「それを実践して成功に導く行動力」を求めていると考えられます。(筆者考察)
(強み)
電通の強みは国・自治体・テレビの優良広告枠に対する交渉力です。これらの広告枠は他に比べて非常に販売単価が高く、一定数以上の消費者の目に映るため総合広告代理店にとっても成果を出しやすい媒体です。
電通は古くからの歴史と実績で積み上げた信頼と交渉力を駆使して、これらの案件を有利に獲得することができます。そのため、博報堂やADKを引き寄せない売上をマス媒体で上げることに成功しています。
また、海外に対する強さも圧倒的です。電通の売上構成の大半は海外市場での売上です。このことから、日本および海外企業に対しても事業パートナーが存在することが読み取れます。今後の総合広告代理店の事業モデルは間違いなくデジタル領域を中心にして、外部ステークホルダーとパートナーシップを組みながら顧客のマーケティング支援を行う方向に進んでいきます。このようなモデルが総合広告代理店における成功要因になった場合に、国内および海外に多数の取引先やナレッジのある電通に軍配が上がる可能性が高いと言えます。
(今後の戦略)
2021年に発表した中期経営計画によれば、電通はカスタマートランスフォーメーション&テクノロジー領域(CT&T)に注力し、今後のこの分野の売上構成比を50%に高める方針を取ると宣言しています。
CT&T領域では、顧客のデジタルトランスフォメーションを支援していく事業を展開しています。例えば、従来であればデータを取得することが難しいまたはデジタルトランスフォメーションに取り組んでいなかった顧客に対してデジタルソリューションを展開することで、顧客のマーケティングレベルは飛躍的に上昇します。その後、顧客からデータ分析およびデジタル領域に特化したマーケティング業務を請け負うことで収益を得ます。
また、M&A投資も活発的に行うと記載があることから、今後少子高齢化に伴い経済規模が縮小する国内事業を見据えて海外進出を盛んに行う方針を読み取ることができます。
個別企業分析②【博報堂/博報堂DYメディアパートナーズ】
(理念・価値観)
-どのような人物を求めているのか
博報堂/博報堂DYメディアパートナーズでは「粒ぞろいより粒ちがい」をテーマとした採用活動を例年行っています。この方針から「周囲に同調するよりも個性をしっかり全面に出せる人」が求められていることが分かります。
しかし、注意しなくてはならないのが「個性が出せる人=自己中心的な人、目立ちたがり、主張が強い人」ではないということです。なぜなら、博報堂は「パートナー主義」を理念として掲げていることから「周囲と協力できる」人材であることは採用の大前提であるからです。よって、博報堂は「相手の個性をしっかり尊重し、自分の個性も出しながら協力しあうことができる人間」を求めていることと考えられます。
-なぜこのような人物を求めているのか
ここからは筆者の考察になりますが、博報堂は電通に比べると歴史や実績が劣ってしまいます。だからこそ、電通に負けずクライアントから案件を獲得するため(特に、高単価で優良な広告枠の獲得、媒体社から販売枠を獲得すること、広告主に広告枠を買ってもらう)には、「クライアントに強く印象が残ることに加えて、誰よりもクライアント寄り添って課題を解決できること」が重要になります。そのため、個性が全面に出てクライアントに印象を残し、誰も浮かばない発想をすることができる思考力のある人物が欲しいのではないのでしょうか。
(強み)
博報堂の強みは「クリエイティブ」にあります。博報堂は広告枠のコンペで電通と競合することが非常に多いです。この場面で博報堂が勝つ=顧客から選ばれるためには、「広告手数料を引き下げる」か「広告の品質を上げる」しかありません。広告代理店はそもそも粗利益が低く収益を稼ぎにくいモデルなため広告手数料を簡単に引き下げることはできません。よって、博報堂が取るべき戦略は広告の品質を高めることだと推察できます。だからこそ、博報堂は「発想力」を駆使して顧客企業に対してブランディングを行い電通に対して競争優位性を築き、現在の地位を確立したのだと考えられます。
(今後の戦略)
博報堂の中期経営計画の核となるのは「デジタル戦略」だと分かります。顧客企業のデジタルトランスフォーメーションを外部ステークホルダーの力を借りながら推進し、デジタルマーケティング領域の仕事を委託することで収益を確保するモデルに移行する戦略が読み取れます。今後もマス4媒体の市場規模の低下を見越したビジネスモデルの転換を図ろうとする動きではないでしょうか。また、今後少子高齢化に伴い縮小していく日本市場に対するリスク回避のために「海外での進出拡大」を狙っていることも分かります。
そのため、採用においてもデジタル全体を俯瞰して見える、そして英語力がある人材を確保する動きも出てくるでしょう。
個別企業分析③【ADK】
(理念・価値観)
-どのような人物を求めているのか
ADKの採用では電通と博報堂にはない選考が多く存在します。その一つが「スタメン採用」と呼ばれる自分自身の個性を選択して、その個性を自由な発想方法でアピールしていくような選考です。このような選考形式からADKは学生の個性をしっかり見ていく選考形式を採用していることが読み取れます。
業界3位のADKは電通や博報堂に比べると、歴史・実績が劣ってしまいます。その中で選ばれるには、「人」や「発想」の面で博報堂以上に差別化して競争しなくてはなりません。そのような業界構造上、個性や発想を求めるようになっているのだと考えられます。
(強み)
ADKの強みはアニメビジネス領域でのマーケティング支援です。「ドラえもん」、「ワンピース」などの国民的人気アニメのPRだけでなく、アニメの企画・制作やキャラクターグッズの商品化にも強みを持ちます。
今後通信技術の進展やAIの発展によって人々はよりエンターテイメントを享受できるようになります。そのため、ADKの活躍フィールドは日本だけでなく海外にも広がっていく可能性は高いと考えられます。
(今後の戦略)
今後の経営戦略に関する資料データが上場株式廃止の関係で入手ができませんでした。ここからは筆者の憶測になりますが、世界でのエンターテイメント需要は前述したとおり、今後確実に拡大していくと考えられます。そのため、世界のアニメ広告会社との提携・買収の動きは戦略として掲げている可能性は高いと考えられます。また、ADKは電通・博報堂と比較するとデジタル面での戦略が遅れており、こちらの方面の事業領域の強化を図るような取り組みが見えそうです。
まとめ
総合国代理店は人々の利用媒体の変化から転換期を迎えています。デジタル戦略は顧客のマーケティング領域だけでなく、全社的な戦略に関わります。そのため、今後はマーケティングに限らず顧客の全社的な戦略を俯瞰し、その課題解決を担える論理的思考力が強く求められると考えられます。そのため、採用過程においても論理性はますます重視されていくでしょう。
また、案件を取る上で顧客から好かれるようなコミュニケーション能力が求められることは総合広告代理店が仲介業である以上は普遍的であると思われます。そのため、明るさや雰囲気といった要素も確実にアピール要素になるでしょう。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?