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あの日僕はどう感じたか四章:汗を拭う

※ 過去掲載作です。
全七章。

過去に投稿サイトへ掲載した作品を再掲載しております。
なるべく掲載当時のままにしておりますが、読みにくい表現やその時代だから許された描写、表現には修正、加筆等をさせて頂いております。
基本的に掲載当時を尊重し、再掲載

お楽しみ頂ければ幸いです。


  更衣室のシャワーで俺は身体を洗っていた。

  夏休みが始まって間もないが、だからこそ気が抜けない。

  陸上部はこの夏に大会があるのだ。
俺は今までの努力が功を成して大会に選ばれた。

  考えてみれば不思議な話だ。
最初はさほど運動が得意な方ではない男子が、中学上がっていきなり知らない奴に腹を殴られて入った陸上部。

  そして、まだ中学一年生だと言うのにレギュラーに選ばれたのだ。
俺は嬉しかった。
ただ、攻撃されたことがきっかけで入部した事でこうして実績を挙げたのがなんだか良くない感情で手にしたものではないのかと考えてしまうこともある。

  俺は強くなりたいだけなのだ。
だが、武道ではダメだった。
怖かったと言うのもあるのだが。
俺はそんな事をシャワーで浴びながら考える。
身体を拭き、下から服を着る。すると二人ほど別の部員が入ってきた。沼田ぬまた池野いけのだった。

  沼田から腹を殴られて挨拶される。

みねもすっかり良い身体になったな。」

「やっぱレギュラー入りは違うよ。
鍛え方がさ。」

  強くなりたいからな。
二人には良く分からない事かも知れない。
そして、シャツを着ている時に白風興哉しらかぜおきやが入ってきた。

「こ、こんにちは。峰君。」

  白風はレギュラーではなかったが大会には参加することになっていた。

  まだ挨拶がぎこちない。
あれから少しずつ話せるようになったんだが。

「お前も夏休みだってのに大変だな。汗ビショビショじゃねえか。」

  白風しらかぜはタオルで汗をしきりに拭いていた。

「だから、ちゃんとシャワー浴びたくて。」

  俺は三つあるシャワー室のうち沼田と池野が使ってない方を顎で教えた。

  白風はありがとうと言ってシャワー室に入る。
ちょうど沼田と池野がシャワー室から出て行き、着替える。

「峰、まだいたのか。俺らは先帰るぜ。」

「ああ。」と返事しておいた。
二人は早く着替えて帰っていく。

  あの二人も身体がしっかりしてきたのか肩から大胸筋、腹筋とそれぞれ細さとかが違ったが鍛えられていた。

  でも、俺は負ける気がしない。
だが、白風も凄い。
大会のレギュラー入りは出来なくて悔しそうにしていた彼もめげずに練習を続けていた。勉強と忙しいだろうに。

  あ、忘れていた。
俺も着替えないと。でも、上を着る前に自分も腹の強度を殴って確かめてみた。

  胸も殴り、改めて入学当初と違う事を確認する。
俺に攻撃をした名も知らないあいつも平滝という男子にもあれから会っていない。
平滝ひらたきにはまたお礼をいいたいな。
俺は白風興哉と少し話したいから外で待つ事にしていた。

  そして、少し彼のシャワー室を覗いた。
当然背面しか見れなかったが最初見た時の華奢な背中もだいぶ筋肉がついてきていた。時折り白風は後ろを気にしてないのか腹が見えたがしっかり割れ目も強くなっている。ガリガリだったあいつの身体がここまでしっかりしてくると俺も嬉しくなる。同じ部活でよかった。あいつの努力をある程度知っているから。
俺は外で待つ事にした。

夏練なつれんと祭りへの誘い


  シャワー室で僕は考えていた。
時田君が祭りに誘ってくれた事はとても嬉しい。

  部活や塾がある事を理由に夏休み遊べないというのはフラストレーションが溜まる。
どこかのタイミングで時田君と遊べないだろうか。
それに慶太けいたとも話したい。

  下校時に一緒にはなるけれど、それも多いわけじゃない。

  シャワーを浴びていろんな考えが浮かぶ。
僕の身体は相変わらず細い。
いつも読みあさってる身体の本を見るたびに自分の細さに恥ずかしくなる。

  レギュラーではなくとも僕は僕で鍛えているのに。
自分の割れた腹筋はまだまだ未完成。
中学生だから仕方はないんだけど。

  滴り落ちる水滴が肩、胸筋、腹直筋、脚へ流れ落ちるこの瞬間と共に、もう少し一つのことへ考えられる集中力が欲しいと僕は思っていた。

  ふと誰かの視線を感じていた。
長く居すぎたかな。
僕はシャワー室を後にする。
更衣室は他の部員も数人いた。

「白風お疲れ様。あいかわらず頑張ってんな。」

「夏休み入ったってのにきついよな。」

「お前らどっか遊び行こうぜ!」

  みんな元気だな。
僕はそう思った。
そして僕は着替える時に皆の身体もチェックしていた。
筋肉量というのは見ていればどれだけ本人が部活に打ち込んでいるかわかるものだ。

  ここにいるみんなは練習を耐え抜いているだけあってしっかり肩から腰にかけて良い体をしていた。
何をもってそう言うかは僕の基準でしかないけれど。

  よく割れた腹筋。
みんなそこまで打ち込んでいるわけじゃないけど筋肉が付きやすいのかな。

  未成年の不完全な肉体でもこうして眺めるとこれ以上の肉体になれるなんて…。
僕はみんなに軽く挨拶をして外へ出る。

するとみね君が待っていた。
約束はしてなかったけど僕を待っていたのかな?と感じた。

  峰君は僕以外とのコミュニケーションは結構淡白だった気がした。
いや、僕ともかな。更衣室で着替え終わったらすぐに帰っていたから。

「よっ、白風。」

  う、うん。と僕は返事をした。

「とりあえず、どっか食いにいかないか?」

  僕はいいよと言った。
正直とても嬉しい。あの逞しい腹筋をしている彼からこんな誘いがくるなんて。
それでも僕はそっちの気があるわけじゃない。
友達になれそうなこの機会が嬉しいだけ。

グリザイヤ(手頃なレストラン)にて


  僕らはチェーン店のグリザイヤに来ていた。
学校のジャージを脱ぎ、お互い私服に着替えて。僕も峰君も制服の下に私服を着るタイプじゃなかったから新鮮。

  僕はサラダバーとドリンクバーだけ頼んだ。
お金がそんなにあるわけじゃなかったから。

「なんか余裕ない時に誘っちまったかな?」

「そんな事ないよ。
僕、こうしてグリザ来るの久しぶりだし。」

  峰君もカロリーの高い物は頼んでいない。
安くて低カロリーで美味しいメニューばかりだ。

「白風ってさ、どこの小学校だったんだ?」

灘小なだしょうだよ。
峰君は?」

「俺は干潟ひがた小。
この辺の小学校では影が薄いからさ。」

  僕らがいた灘小学校は学区も人数も多く、この市では有名だった。

  僕は小学校の時に親に無理やり地元の少年野球チームに入れられていろんな小学校と試合をしていたけど干潟小学校の事はあまり当たらなかった。

  噂では干潟小学校は人数が少ないからあまりチームがいないと聞いていたけど。

「僕、少年野球やっていたから干潟小の…名前は知っているよ。」

  峰君は「名前はかよ。」と笑っていた。

「少年野球やってたんだな。
お前アグレッシブじゃん。」

「そんな事ないよ。
無理矢理親にやらされていたからさ。」

  僕はサラダについているクルトンを口に入れる。
峰君は変わらず話す。いつの間にか目の前の料理を平らげていた。

「小学生の時はそんなもんだよな。
でも、こうして満潮まんちょう中学で一緒になれるなんて。」

  峰君は僕と話すのが嬉しそうだ。

  やっぱり、彼の筋肉に見惚れていたのはいやらしい想いだったのかな。
後ろめたさが湧いてくる。

「お前も中二になればもっと身体できてくるよ。基礎体力はありそうだし、お前いっつも頑張ってるからさ。」

「峰君には敵わないよ。僕は継続する事で精一杯だからさ。」

「それがいいんだよ。
今、俺達の学年もどんどん最初より少なくなりそうだし。お前となら一緒にこの部活入れられそうだしさ。」

  峰君の言動から寂しさを感じた。

「僕は辞めないよ。」

  峰君は嬉しそうにうなづいた。
あ、大事な事を言うのを忘れそうになった。

「あのね、峰君。
今夏休みでしょ?僕の友達が夏祭りに人を誘って欲しいって言われててさ。
ちょうど夏祭りなら大会も終わってるし、気分転換にならないかなと思って。
どうかな?」

  峰君は少し考える。

「祭りか。そういうの誘われたの初めてだ。」

また考える峰君。

「興哉?それに君は!」

  突然僕らに声をかけた人がいた。
その正体は彼だった。

「慶太?なんで君がここに?」

  峰君は僕にも珍しそうな視線を送る。

「峰か。まさか興哉と仲がよかったなんて。」

  峰君は黙ってしまった。
二人共面識あったの?

「慶太もお疲れ。誰かと食事しに来てたの?」

慶太はたまたまドリンクバーに行こうとしていたらしい。
グラスを見てわかった。
すると峰君が僕に質問をなげる。

「お前達、友達だったんだ。
いつからなんだ?」

「俺と興哉は小学校からの付き合い。
まさか興哉と親交あったなんて。」

  慶太は僕の交友関係に珍しさを感じている。

「部活で仲良くなってさ。
せっかくだから祭りに誘おうと思って。」

  峰君のこと、慶太は知ってたんだ。
相変わらず交友関係が広いなあ。

「祭りがどうこう聞こえたけど、なんか会話の邪魔だったかな。
俺は席に戻るよ。」

  すると峰君が立ち上がった。

「白風…俺、祭り行くよ。それに平滝にも…その…」

  慶太は峰君の目を見る。

「興哉。
俺も時田に誘われて祭り行く事にした。
だからさ、二人共よろしくな。」

  そう会話をし、グリザイヤで過ごした

続く


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