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水源をたどったら妖怪がいた

高知は土佐山に来ている。

先月に続いて「旅づくりワークショップ」のためである。今回は山梨から水質の研究チームや地域資源観光の研究チームが訪れていたので、水を採取するために水源に行く、という大テーマがあった。

山中にある土佐山アカデミーが主催
看板犬のユメ

まず訪れたのは、「山姥の滝」

山の奥にひっそりと滝はあった

伝説では、滝の右側に山姥がいるという。山姥とは、山の姥、つまり乳母であり、命の象徴でもある。なんとなく包丁もって襲ってくるみたいなイメージがあったのでちょっと意外だった。各地にまつわる伝承や民話は、土地の気候風土と結びついて、地方地方のアレンジが施されていて面白い。

土佐山アカデミー事務局長の吉冨さん

滝は、まだ観光化されていない。ちょっと前までは完全に森に隠れた滝であったのだが、今は整備中で、歩道をつくったり、ゆず園をつくったりして、人が訪れられるようにしているのだ。(およそ1年後を目処に公開される予定)

今回は特別に工事中の滝のふもとにまで案内してもらって、水を採取したり、山姥を探したりした。山姥は見つからなかったが、静けさがひとつの価値であることに気づいた。決して大ぶりな滝ではないが、山の空気の中でミスト状の水しぶきに近づいて、神聖な空気に包まれるのはなんとも気持ちのいい体験である。

滝のすぐ近くに、有名な石がある。その名も「ゴトゴト石」である。押すとゴトゴトと動くのだが、決して下には落ちない。その絶妙なバランスがウケて、落ちない石、として、受験生がお参りに来たりするというものだった。

だった、というのは、最近何者かの悪戯によって、ジャッキで石が動かされてしまい、ゴトゴトしなくなってしまったのだ。ちょっと押してみたけどビクともしなかった。地元の人は怒り、犯人を探すべきだ、そこまでしなくても、など議論が紛糾しているという。誰にでも解放されていたおおらかな観光スポットが、監視カメラ、入場料、ロープなどによって管理されていくとしたら、それは寂しいものである。なんらかの解決法があればよいが。

さらに山の上の水源を目指して車は登っていく。ある地点より上に行くと、水源を超えてしまうため、生活用水は汲みに行くという。令和の世の中において、水道が通っていない家があることに衝撃を受けた。山小屋の運用にも近い。

都積(つづみ)と呼ばれる源流点には、水を濾過する石と砂があり、貯水しておくコンクリートのタンクがあった。そのフィジカルな水の塊を見ていると、パワースポットのような、なんらかの力を感じるような気がした。

山道の入り口で、蛇が死んでいた。ヤマカガシというらしく、マムシよりも毒が強い。ちょっと気を抜いたら死が隣にある。それもまた山の暮らしである。

土佐山アカデミーの事務所に戻り、3カ所で汲んだ水で炊いたごはん昆布だしを食べ比べ&飲み比べ。いわゆる「利き水」に挑戦した。もちろん、ひとつも分からない。しかし、何かが違うような気がするのは確かである。硬さや柔らかさ、味の伝わり方、何かが違う。こんなに集中して水や米と向き合ったのも久しぶりだった。

体を動かして、道を行き、水を汲んで、持ち帰り、調理する。体験に、物語と学びがある。いいツアーのタネになる気がした。

いっしょに動いたメンバーとワークショップをして、山姥の滝、ゴトゴト石、都積の源流点について、いかに観光ツアーにできるか、アイデアを出し合う。前回やった「ダメだし発想法」をまた試してみた。やはり、ふつうに考えるよりアイデアがドライブする。ふつうに企画するとどこか「建前」のようなものが表面にまとわりつくが、ダメだしには圧倒的に「本音」が入っている。そこをひっくり返すと、感情が通った企画になるのだ。

地域資源の観光地化において、大切な視点は?と研究チームの方に質問すると、こんな答えが返ってきた。

観光客だけではなく、地元に生活する人たちと、いかに両者がうれしい取り組みにできるか。が大切だというのである。

昨今ではオーバーツーリズムという言葉もあるように、観光客が増えたことによってマナーが悪化したり、環境が破壊されたりというリスクもある。サステナブルなツーリズムをつくるためには、地元の人たちとの対話が何より大切である。だから、その場所での関係づくりから始めるべきなのだ。またひとつ学びになった。

地元の人に分けていただいたポン菓子

今回たどった水は鏡川という河川となって高知市に流れ込み、市民の水道となって暮らしを支えている。つまり、山での水源の管理・保安が、高知市民の水インフラを支えているのである。

そのことをほとんどの市民は知らないという。

竹の産地としても有名

水には形がなく、姿が見えない。だから気づかれない。でも、そういうものにこそ、物語が必要だ。それは、例えば山姥のような妖怪の姿で、私たちにメッセージを伝えているのかもしれない。

ぜひこのツアーを完成させて、高知市の小中学校の社会見学にも組み込みたいものだと思った。それに、単純にみんなで利き水したり、その水で何かをつくって食べたり飲んだりするの、楽しそうだし。

最後は星空と焚き火とノンアルコールバーを楽しみました



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