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「格好つけたがり」という病

 馴染みのある薄汚い町中華がカフェ風のオシャレな外観にリニューアルした途端に違和感を感じて遠ざけてしまうことがある。町中華は何かに秀でて特別に旨いわけでもなく、ちょうどよい旨さ、飽きのこない長続きする旨さが舌の記憶に吸着し、あの薄汚い外観、匂い、鍋をたたく音が聞こえるとなぜかまた通いたくなる効能があったのに、カフェ風にリニューアルしてしまったが故に、蓄積された心に描く町中華とちょうどよい旨さが結び付かずにその店には自然と足が向かなくなる。
 最近ランサーズのCM「採用やめよう」を目にする機会が増えた。先の記事「#(ハッシュタグ)で共感を呼ぶ広告と嫌われる広告」で取り上げた新聞広告の「#採用やめよう」がネガティブな方向で話題になったのにもかかわらず、無謀な上に大々的なTVCMを展開している。

 基本的に大声で叫ぶ人間を信用できない性質であるため、「採用やめよう」と声高に叫ぶそのCMには自然と拒否反応を示す。そんなことはどうでもよいが、CMでは「高スキル人材に即発注」とし「WEBエンジニア」「マーケター」「経営コンサル」と、いわゆるクラウドソーシングのイメージと遠くかけ離れた高単価職種の人材を紹介している。
 クラウドソーシングといえば、データ入力やライティング、アンケート回答、デザイン制作など、育児中などの何かしらの事情で在宅する必要がある方が隙間時間に仕事をしてお金を稼ぐイメージがあるが、CMで紹介している職業は明らかにメインの職業を外し、おそらくこれから強化していきたい時間単価の高い案件を増やす目的で高スキル人材に的を絞ったのだろう。
 紹介されたような高スキルの人材ならば、比較的に仕事に困らないでフリーランスとして生きていける人たちである。その高スキル人材のために「採用やめよう」と採用の否定と捉えられてもおかしくないようなメッセージを堂々と大声で叫ぶ必要があるのだろうか?むしろ、育児や介護などでどうしても在宅しなければならない弱い立場の人たちの稼ぎを支援するほうが社会的な大義があるのではないだろうか。
 「採用やめよう」には社長や幹部の強い思いが込められているそうだ。社長クラスの視座になると、自分の会社が実態よりもどうしてもよく見えてしまう。マーケターはそのバイアスを忠告する役目を担っているが、社長が熱している以上はそれを止めるのは難しいのかもしれない。
 一方、ランサーズと類似した事業を展開している「ココナラ」も同時期にCMを展開した。

 そのCMは人気お笑い芸人「和牛」の水田が焼き鳥屋を開業する設定で、それに必要な開業支援やロゴデザイン、ホームページ制作をスマホ画面を見せながら発注するまでの流れを面白おかしく展開している。「千鳥」を起用したスマートニュースのCMと構成が極似しているが、しっかりと画面を見せながらサービスのベネフィットを訴求し、「ココナラ」を連呼している点が特徴的だ。
 飲食店の事業所数は小売業に次いで二番目に多い。おそらくマーケットサイズも大きく、実態として需要があるターゲットとジャンルに絞り、的確にメッセージを訴求したのだろう。
 ランサーズは自分たちを実態よりもより大きく見せ、ココナラは狙いを定めて等身大で勝負した。その結果が以下のGoogle Trendsで如実に表れている。

▼過去12ヶ月の「ランサーズ」と「ココナラ」の検索トレンド

▼過去90日間の「ランサーズ」と「ココナラ」の検索トレンド

 CMの投下時期や量にも左右されるだろうが、この変化量(右端がCM投下後の変化)を見ると明らかにココナラの伸び率が高い。ココナラのターゲットはやはり明確でメッセージが的確に届いたのだろう。
 人間は誰しも気をつけないと自分の等身大の姿を見誤る。もっと格好よく見せたいと思い背伸びする。背伸びをすること自体を決して否定しないが、大金を投じて名前とベネフィットを結びつけて覚えてもらえるチャンスのあるCMで、実態とかけ離れた格好良い自分を見せてしまえば、実態に気付いた顧客は離れていくだろう。
 経営者は遠い未来を描き、例え実態とかけ離れても夢を語りたい。マーケターはその夢から目を覚ます機能を果たすことができるのか、CMを通じてコミュニケーションする消費者の視点に立てるのか。ランサーズとココナラのCM反響の違いはその差として如実に表れているのかもしれない。

 最後に、ランサーズの活動は社会的大義があると思っているので、個人的には応援したい。パンケーキよりも卵チャーハン食べたい。

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