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本番に弱い僕vs日本溶接協会の実技試験

溶接工として現場に入る上で必要な資格がある。

『溶接技能者資格』である。

日本溶接協会に認められた者だけが持つ資格であり、お客様から「溶接の資格持ってんのか」と聞かれた時に提示する資格といえばコレである。


この資格は学科試験と実技試験があり、一度合格したら資格維持のために毎年資格更新料を支払う必要がある。また受験料を支払って実技試験を3年に1度受けなければならない。(なので、日本溶接協会はめちゃくちゃ儲かってると思っているが謎の圧力を感じとり誰もそれは指摘しない。)

もし、この実技試験で落ちると溶接の資格が仮免許状態になるので現場に出れなくなるというプレッシャーがかかる。普段やってる溶接の方が絶対難しいのに、めちゃくちゃ難しい溶接をしている気分になるのだ。

仮に落ちても何度も挑戦すればよいのだが、費用とプライドが削られていくので一発で合格したい。

そして何を隠そう僕は一度落ちている。

この時落ちた理由は完全に油断していたからだ。前日まで講習を受けていた僕は講師の人に

「自分上手いからもう練習せんでええよ」

と言われて舞い上がって講師と余裕ぶっこいて溶接業界の未来について語り合ったくせに、試験で本番の弱さを遺憾なく発揮し、見るも無惨に落ちた。
1番ダサいパターンで落ちた。

会社全員で受けて僕だけ落ちた時の恥ずかしさは、気づけば自分以外の友達全員彼女がいた中学時代と心境が似ていた。

当時は何が原因で落ちたのか調べるのにも費用がかかったため(またお金取るんかいと思った)、原因はわからなかった。

この立場を逆転するためには「再度実技試験を受けて合格して、さらに会社のみんなが持ってない溶接の資格も合格して偉そうにするしかない!」と思った僕は、めちゃくちゃ練習してなんとか受かったので、溶接屋のアトツギとしてのメンツは保たれたのだった。


そして今年もまたやって来た。実技試験の更新の日。

俺は落ちた時のトラウマを抱えながら今年も試験に臨む騎士。そう言い聞かせて本番を迎えた。

会場に着いた僕は受付を済ませた。2つの種目を受験するのでバタバタするのかと思いきや、意外と待ち時間が長くて暇だった。この間に色んなことを考えてしまい緊張度が増してくる。

おかげで番号を呼ばれて部活並みの声量で「はい!」と返事をしてしまった。

自分の試験片の仮付けを行った。ここまでは前日の脳内シミュレーションどおりだった。

いよいよ本溶接の時に事件が起きる。

1発目の溶接をしたあとビードを確認すると今まで見たことのない大きな穴が空いていた。

「あ、落ちたわ。」

早かった。
落ちたと確信するまで早かった。

僕は補修溶接をして引き続き溶接をしたものの、もう落ちたと悟っているので精神的にかなり安定しており、その後の溶接は我ながら見事だった。

だがわかる。あの穴は絶対補修でなんとかなるレベルではない。僕くらいになると経験でわかるのだ。

気持ちは完全に凹んでいた。もう一個試験があるのに…





次の試験会場に着くと僕の試験片がなかった。

why?


会場にいる係員にすぐに連絡すると、一斉捜索が始まった。

僕の試験片を持った怪しい人物を見ませんでしたか。

犯人はすぐに見つかった。間違えて僕の試験片を仮付けする寸前の彼の顔はとても驚いているように見えたが、僕の方が被害者であることを彼はわかっていたのであろうか。

狼狽えた僕を置き去りにするかのように、そのまま試験が開始された。

ティグ溶接と呼ばれる溶接の試験で裏波といって裏側までしっかりと溶かし込まないといけないのだが

溶接が終わってから裏を確認したら裏波が出ていない箇所があった。

「あ、落ちたわ。」

遅かった。
今度は気づくのが遅かった。

裏波が出ていない箇所の裏波を出すために上から再度やり直したものの、どっちが裏?っていうくらい肉がはみ出たのできっと落ちた。

気が動転して、せめてあとで見返して反省できるようにと試験片をカメラで撮影しようとすると
撮影禁止であることを忘れていて、近くにいた係員にその場で取り押さえられ、めちゃくちゃ怒られて資格試験の幕は閉じた。

結果がわかるのは約2ヶ月後ではあるが時を待たずして落ちたことを自覚しているのでこの2ヶ月をもう過ごせばよいのか誰か教えてください。

帰りに半泣きで飲んだ"うめソルティ"はなぜだかいつもよりしょっぱく感じて生きてるって実感が湧いた。

おいしい

絶望のオーラを纏いながら帰ったが、今日あったことを妻に話すと笑ってくれたのが幸いだった。

また幼稚園の娘たちが「赤ピクミンは火に強い〜♫」と歌い踊っている姿を見て、資格如きで落ち込んでいるのがバカらしくなった。

落ちていればまた受ければいい。
受かるまで受ければいい。
落ちていたらまたnoteのネタにすればいい。←

どうしようもなく本番に弱い僕だが、絶対に諦めない。日本溶接協会との闘いはこれからも続いていく。

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